第三十話 オールナイト④(深夜の店内)
――開店から十五時間が経過。時刻は深夜を回り、エルランジの城下町は式典の準備と新年の迎えての宴でますます賑わっている。
酒場からは喧騒が、貴族などが利用するレストランからは穏やかな音楽と吟遊詩人による新年を喜ぶ歌が、そしてここハデスでは遊技機の騒がしい音と思った以上にお金を使った者の叫喚と高設定を掴み出玉を伸ばしている者の快哉と興奮の声が聞こえている。
昼にハデスを訪れたリオン王子は店内を視察した後、打てる台が無いかウロウロしていたがやがて諦め、知り合いである清龍や魔王と勇者の後ろから眺めていたがやがて王城から使者が来たので寂しそうに帰って行った。
休憩コーナーでは打ち疲れた人や台が打てなくて待ち疲れた人が隙間が無いぐらい詰めかけカオスな状態で寝入っている。
食事処では今回は一年に一回の特別なイベントということもあり夜からアルコールを解禁しはじめた。その為、負けた人はヤケ酒を、勝った人は祝杯を挙げハデス店内で一番騒がしい場所と化している。料理人のレオンは既にグロッキーとなっており、代わりの者が簡単な料理を作り給仕の者がお酒や料理を運んでいた。
占いの館のリオナは夕方から少しの間再開していたが、ある程度さばいた所で見切りをつけ店を閉め、その後はハデス店内にある食事処のカウンターで腰を落ち着け、ふよふよと宙を漂う幽霊のレイコと談笑しながらゆっくりとお酒を飲んでいる。
そんな中ふらふらと幽鬼の様にイルドが食事処にやってきてリオナが座っているカウンター席の隣に腰を下ろす。腰を下ろした後も顔は俯き表情は暗く数十秒事にため息をついていた。そんなイルドの様子に給仕の人も注文を聞きに来たものの声をかけるのを躊躇い微妙な間隔を空けて苦笑いで立ち尽くしていた。
「ちょっとあなた、店員さん困ってるわよ」
イルドのため息を何度か見た後、見るに見かねてリオナが話しかける。自分に話しかけられたのをわかったのか、その声を受けイルドがゆっくり顔を上げる。相変わらず表情は暗いが給仕の人を見つけると口元を少し動かす。
「アルコール……強めのお酒をください……」
その言葉を受けようやくこの場を離れられると思ったのか、給仕の人は明るい表情を浮かべ、ご注文承りました~と少しトーンが上がった声を言い放ちながら調理場の方へ駆けて行った。
酒の注文をした後もため息をつきながら俯いているイルドを見て隣の席にいるリオナは宙を漂っているレイコに話しかける。
「ちょっと、あの子なんか暗いんだけど」
「そうじゃのう、昼に外を出歩いている吸血鬼の方がまだマシな顔をしておるな」
ちなみに吸血鬼は太陽の光に弱く、低級の吸血鬼なら灰になる。魔王の側近であるアクドのレベルでも人間でいうと高熱が出たとき並みに調子が悪くなってしまうほどだ。
「悩みでもあるんじゃないかの、お主が占ってみればよかろう」
「――もう占い疲れたから店閉めてここにいるんですけど……」
はぁ……と小さくため息をつき、リオナは給仕の人に断ってから紙をカウンターの上に広げ、何かを唱えながら飲んでいたお酒を少しずつ紙の上に垂らしていく。すると紙に垂らしたお酒が染みから絵をかたどっていき最終的には女性のエルフ二人にそっぽを向かれた男の絵が浮かび上がる。
「……お主の占い、結構評判と聞いてはおったがこれはちょっと精密すぎると思うのじゃが」
「私もここまではっきりと何があったか出るなんて思わなかったわ」
二人で顔を見合わせて喋っていると、カウンターの上にそのままにしておいた絵にイルドの目が向く。
「ぁ……あああああああ“あ“!! なんで! なんで、今日俺に実際に起こったことが絵になってんの!!」
『……うわぁ』
急に叫びだしたイルドを見てやはり当たってたんだと納得しつつも若干引く二人と丁度注文されたお酒をイルドに持ってきた給仕の声が重なる。そしてイルドは叫んだことによって少し吹っ切れたのか目に生気を取り戻しリオナの事を見る。
「なんかこっち見られてるんだけど!」
「めんどくさい事になりそうじゃな、妾は帰るぞ」
「あっ! ずるい!」
一言リオナに告げるとスッと透明化してレイコは居なくなってしまう。隣に目を向けるとイルドはキラキラした目でこちらを見つめていた。
「じゃあ私もそろそ――」
「俺の今日の出来事をこんなに正確に当てるなんて、もしかして貴女は名のある占い師なのでは!! 俺の何がダメだったのか占ってくださいよ! あの双子のエルフちょっと美人だからって酷いんですよ! 頑張って話しかけたのに無視するし、今日は敵情視察だからあなたに構ってられないとか意味わからない事言うし。これも朝、駄女神を放ってエルフをとったのが間違いだったんですかね」
立とうとしたところをマシンガントークで遮られタイミングを逃してしまうリオナ。
「――はぁ……今日は厄日ね。自分の事を占えたら凄く楽なのに……。まぁいいわ、占ってあげるからここの支払いはよろしくね」
「もちろんですよ! えーと、お姉さん名前は?」
「――リオナよ」
「俺はイルドって言います、よろしくお願いします。それでリオナさん聞いてくださいよ――」
この後、リオナがイルドの愚痴を聞き終わり占いをして店を出るのは太陽が昇り始めてからだったそうだ。
まだまだ熱気が冷めやらぬ夜中のハデス店内。
朝からずっと打ち続けている魔王ロゴスと勇者クロス、女神リノと錬金術師クレマンは出玉を伸ばし続けていた。
「おい、お前」
「はい、なんでしょう?」
突然勇者に話しかけられたことに少し首をかしげながらクレマンが答える。
「お前、本当に錬金術師か? 勇者の俺でさえ疲れてきたのに全然疲労が見えないし、ここにいる三人に匹敵する運ってのが俺には信じられない」
「いえいえ、私だってこれでも結構疲れてるんですよ。出玉だって皆さんと競っていられるのもたまたま今日、運が良いってだけです」
怪しんできた勇者に対し、クレマンはにっこりと微笑ながら返す。インペリアルブレイカーの方をチラりと見ると魔王は体力が尽きてきたのかしんどそうにレバーを叩いており、女神に至っては半分寝ている。
クレマンが元気なのも三人とタメをはれるぐらい運が良いのも開発したドーピングポーションの効果のおかげである。ただ、実際に現れている効果に対して少しやりすぎたかなと感じていた。
現在の差枚は魔王『12,000枚』、勇者『11,000枚』、女神『14,000枚』、そしてクレマンが『15,000枚』である。
自分の持てる全てを尽くしてイカサマはせずに打っているクレマンだが、そろそろ潮時かなとも考えていた。実際に作り上げたラックポーションは勇者や魔王相手にも運では互角に戦えるような代物だということが分かったし、既にかなり出玉を出してしまったが入賞して変に注目を浴びるのも避けたいところであった。現在の出玉トップは天井から下げられたモニターを見ると『20,000枚』を少し超えた所だ。
回転数に関してはこの四人はほぼ横並びで寝始めた分女神が少し遅れているが大体『12,000回転』前後だ。こちらのトップは現在『14,000回転』とほぼフルウエイトでぶん回しているため入賞することはないだろう。
「勇者さん」
「ん?」
「私は疲れたのと新年迎えるにあたっての店の準備があるのでそろそろお暇しようと思います。本日はありがとうございました」
「あぁ、そういえば薬屋をしているんだったな。今度寄らせてもらうよ」
「はい、その時は是非」
そう言い、勇者と握手を最後に交わすと錬金術師クレマンは静かにハデスを去るのであった。
クレマンが去った後、魔王と勇者は一つの事に悩まされることになる。
それは――女神リノの寝相である。
椅子に座りながらフラフラと体を動かし魔王と勇者の間をまるでピンボールの球の様にぶつかりながら動いている。
『なにこいつ超ウザい』
二人してそう呟くと店員を呼び出し寝ている女神を運んでもらうのだった。
「何故だっ、何故席が空かないっ!!」
既に十二時間以上ハデスの店内をウロウロしているブーモは怒りでワナワナと震えていた。定期的に空く席もあるのだが、間が悪くブーモが座る前に他の客に座られてしまうのだ。こうしてずっとウロウロしていたのが悪かったのか時々老人を中心に目押しを頼まれるようになってきていた。
「おーい、兄ちゃんまた押してくれ」
「はい、今行きますー」
板に着いてきたのか呼ばれると急に笑顔を浮かべ目押しをしに行くブーモ。
「あいつ、俺たちより店員やってんな」
それを見ていたウィルは一言呟くのだった。




