第二十九話 オールナイト③(三度目の戦い)
今日は三回更新します。
オールナイトの終わりまでをアップします。
二日間連続営業開始から数時間、店内は大いに盛り上がりを見せている。店内は全台満席、空いている席を探している者も多く、台が空くと待っている者で取り合いになることもあり店員もその対処に追われていた。
休憩コーナーの席も全て埋まっており、ハデス内の食事処は満席、唯一の料理人であるレオンからは頼むから休憩時間をくれと店長に相談を持ちかけている。対して店長はその相談に対し、無言で体力回復のポーションを渡して返答している。
占いの館も盛況でひっきりなしに客が来るためリオナはげんなりし、昼から急遽占いの館を夕方まで閉めていた。本人曰く占いの質が落ちるからということらしいが、疲れて羽を伸ばしたくなっただけだろう、それを聞いたレオンは俺の所も夕方まで休憩を……と言ったらしいが却下されたようだ。
「あ~、疲れた。こんなに疲れたのはグランドオープン以来かもな」
ハデスの事務所、店員の休憩室でだらしなく椅子に座り背もたれに寄りかかりながらウィルが言う。
「そうだな、さすがにこればかりはウィルに同感だ。私も皆の仕事を手伝えればいいのだが……」
そんなウィルのぼやきに対し、店内を何カ所も映している監視のモニターを見ながら主任であるエマは返答する。
今、主任であるエマに割り当てられている仕事は要人の監視とその警護だ。この混雑した店内には多くの貴族も遊戯している。喧騒に紛れてそれを狙う輩がいないとも限らない為にそれを監視し、何かあった時は対処する為に待機している。
「エマさん、エマさん、あのブタの亜人……? あれは注意しなくていいんですかめっちゃ潜在魔力が高いんですが……」
モニターを覗きこんでウィルが尋ねると意外な返答が返ってくる。
「主任と呼べと何度言ったら……まぁいい。あれは気にしなくていい……格好はアレだが、まぁ授業参観みたいなものだ。調べてみた所アリスの父親らしい」
「ええっ!? アリスちゃんの父親とかウソだろ! 似ても似つかないというかむしろアリスちゃんは人間だし……」
「なんでも儀式で失敗してあの姿になってしまったということだ。それ以来行方不明になっていたらしいがこんなところで見かけるとは……」
「アリスちゃんに知らせなくていいんですか?」
「ウィル、お前はアリスに向かって、あれがあなたの父親ですよと言えるのか?」
「――さすがの俺も言えませんね」
「だったらこの話は――!?」
エマがウィルとの会話を終わらせようとした時、モニターに映された入口から入店してくる客が一人――お供も連れずこっそりと入ってくるリオン王子だった。
「ウィル、休憩は終わりだ。店長と副店長にリオン王子が来店したと伝えてくるように」
「え? 俺まだ飯食べてないのに!!」
ハデスの店員もなかなか休憩が取れず昼過ぎを迎えるのであった。
時は少し遡りハデスの回胴式魔導遊技機コーナーの一角は異様な空気に包まれていた。『インペリアルブレイカー』と『ダンジョンマスター』の島の丁度中間地点、そこでは四人の魔力にあてられて周囲の人は半泣きになりながら遊戯している。ここまでされても台を立とうとしないのはさすがともいえるが……。
その四人は『インペリアルブレイカー』の方から『ダンジョンマスター』の方へこう並んでいる。
魔王ロゴス、女神リノ、勇者クロス、錬金術師クレマンの順番だ。
事の始まりは開店後真っ直ぐにこの島に魔王と勇者が来たことである。
「クックック、必ず来ると思っていたぞ勇者よ」
「――行くぞ魔王! 三度目の勝負だ!」
お決まりの様な台詞をお互いが言い、雰囲気を作り上げる。が、所詮出玉の差枚勝負だ。いかにも最終決戦の様な雰囲気で言われても店内の音楽と合わさり緊張感がゼロである。周囲の客も凄くツッコミを入れたかったが相手は一応魔王と勇者。誰もツッコミを入れられず同じ島でも関わりたくないのか避けて座られていった。
「面白そうね! たまには私も混ざろうかしら久々のオールナイト楽しまないとね!」
「ここで有名な魔王と勇者と戦えると聞いて――私も混ぜていただきましょうか」
そんな中、魔王と勇者の勝負に混ざりに行ったのが二人――女神リノと錬金術師クレマンだ。
「クックック、余と勇者の勝負に混ざりたいだと。よかろう、まとめて相手してくれるわ」
「何人増えようがかまわない、魔王を倒すのは俺――!?」
言いかけた所で勇者が硬直し、魔王の傍にやってくると耳打ちする。
「おい、魔王。お前あの人が誰かわかってるのか?」
「いきなり耳打ちするな気持ち悪い。あいつは錬金術師のクレマンだろう。回胴式魔導遊技機にいるのは初めて見るがな」
「そっちじゃなくて女の方だよ!」
「いや、時々見る程度で名前は知らんな。内包している魔力とあふれ出る神聖なオーラからいって名のある神官という所だろう」
「――やはり知らなかったか、あの人は――いやあの方はだな、この世界を管理している女神リノ様だぞ」
その言葉を聞き、魔王は驚愕で目を見開く。女神リノと言えば太古の神々の一人、この世界を支える三柱神の一柱だ。勇者の生誕にあたり姿を顕現すると言われているが気軽に見れる存在じゃなかったはずである。
そんな魔王を差し置いて目の前にいる女神は呑気にクレマンと会話している。
「あなたが回胴式魔導遊技機に来るなんて珍しいこともあるものね」
「ええ、普段は自動球魔道遊器しかやりませんが今日はこっちの方が出そうな気がしたもので。それに有名なお二人と勝負したかったのもありますしね。ところでリノさん、今日は最近一緒に来ていたイルド君とは一緒じゃないんですか?」
「イルド……ね」
少し遠い目をしながら女神は言う。
「丁度抽選が終わった後会ったのよ。二人とも番号悪かったんだけど励ましあって、いつもは何かにつけて言い合いになるんだけど今日は二人仲良く打ちましょうって。珍しくそうなったのに……」
「ど、どうなったんですか?」
「イルドの奴! 店内に入るなり『可愛いエルフの双子発見! ちょっと俺あっちで打つわ! じゃあな!』ってどっか行っちゃったのよ! 酷いと思わない? 扱いが雑だと思わない? 私これでも――いえ、何でもないわ」
「は、はぁ……朝から大変でしたね」
そんな会話を聞き、魔王は勇者に向き直り言う。
「勇者よ、嘘はいかんぞ。あんな普通の小娘みたいに話す神は居ない」
そう言いつつ魔王は台に座り遊技を始める。
「えーと、俺だって信じたくないけど……あれは女神なんだよ! 信じてくれよ魔王!!」
こんなこともあり変な空気がこの場に漂っていたのだ。
そして四人とも持ち前の運により周囲の追随を許さず出玉を積み上げていくのだった。
そして、魔王軍四天王の一人であるブーモはまだ店内をウロウロしていた。
「クッ……娘を見れないどころか空台すら無いなんて……このまま打てずに帰ったら魔王様になんて言われるか……」
徘徊するブーモは女性客から凍てついたような視線で見られながらも空台を探す――彼は何時になったら台に座れるのだろうか。




