第二十八話 オールナイト②(二列になってお並びください)
「前々から話していた通り――今日は二日間続けての営業だ。さらに広告をいろんなところに出してのイベントになる。勤務時間は基本三交代制で行うが、管理職は別だ。瑞穂とエマは二日間店から出れないと思ってくれ。――おい瑞穂、エマそんなに睨むなよ……俺も立場は同じだからな! それとウィルは元気がありあまってそうだから勤務時間を伸ばしておいた」
「ってなんで俺だけ!?」
ウィルが悲痛な叫びをあげるが無視して続きを告げる。
「休憩時間は少なくなると思うが上手くとってくれ。それとオーナーから渡されたユグドラシルの秘薬があるのでこれから配布する。――オーナーの話しではこれを飲めば二十四時間手足がもがれても再生しながら戦い続けられるらしい……。生き死にの戦いではないがこれよりハデスは戦場だ――全員服用しておくように」
開店数時間前――ハデスの事務所内に集まった従業員達に説明するのは店長であるアルゼリオだ。従業員達は二日間続けてのイベント営業やオーナーからとんでもない薬が配られたということで若干顔が引きつっている。ハデスは普通の営業日でさえ忙しく、イベントだと休憩時間すらなかなか取れない現状なのだ。それを二日間連続――考えるだけで倒れそうだった。
「後、このイベント営業を乗り切ったらオーナーからボーナスが出るそうだ。喜べお前ら! 遊技機のボーナスじゃなくリアルボーナスだぞ! 金以外が良いって奴には出来るだけ希望に沿うようにするそうだ。アーティファクト類でも良いって言ってたぞ」
『うぉおおおおおおー!!』
「俺、魔導少女サヤの筐体って言ってみようかな!」
「いやいや、アーティファクトだろ!! 景品コーナーのアーティファクトおかしいやつばかりだぜ」
「ボーナスじゃなく休みが欲しい……」
「――静かに! まぁ、まずこの営業を乗り切ることを考えようか。窓から見ればわかると思うが既に数百人集まっている! これから今日の配属と配置を伝える――」
アルゼリオが指示を出し、瑞穂とエマがそれを補足しながらハデスの従業員達は配置へ着いていく――。
――同時刻ハデス入口前。
見渡す限り人、人、人――ではなく亜人や悪魔や天使……と、人だけではなく様々な生き物で埋め尽くされていた。正直種族を越えた者達がこれほど集結するのは戦争かハデスぐらいだろう。入口前では様々な声が混じり合いガヤガヤと騒がしくなっている。
「押さないで二列になってお並びください~」
「まもなく抽選を開始します~!!」
「おい! 押すなよ!」
「ふざけんなてめぇ! 俺は四時間前からこの場所をとってたんだぞ!」
「ここに置いてあった雑誌がお前の物って証拠あんのかよ!」
「あ、アルゼリオ店長だ」
『――……』
誰かが言った台詞で辺りが急に静寂に包まれる。
「見間違えでした、すいません」
「お前脅かすんじゃねぇよ!」
「でも、ここで言い合ってたら店長が出てきた時つまみ出されますよ」
「や、やだなぁ~俺ら仲良しだし」
「だ、だな……一緒に並ぼうぜ」
ハデスでは店長が絶対だ。
SSランク冒険者という肩書と魔王を一撃でぶっ飛ばした実績があるため必要以上に恐れられていた。
「はぁ~……なんでこんな日にこんな番号なんだよ……」
抽選も終わり、引いた番号によって集まった人達は一喜一憂している。
彼――イルドもまたその一人だ。
夜明けと同時に並び、知り合いも周りにいない中、この時の為に待ち続けたのに引いてみればあっさりと手元には『324』番の抽選券が握られている。
『どこぞの神ならリーチ目なのに……これは酷い……』
イルドの声と誰かの声が被る。
ふと声のした方を見てみると思わず見蕩れてしまうような容姿をした――駄女神が落ち込んでいた。
手元に握りしめた抽選権は『315』番。イルドと順番的にはさほどかわり無い。
そして苦々しい顔をして駄女神を見ていると――視線がぶつかり合う。
『うわぁ~……』
お互いに変な奴に会ってしまったと口からこぼす。
「なんでお前がいるんだよ、ついに神の仕事を引退して年金暮らしか? 朝から晩まで同じ台をペカらせる気か?」
「――あなたこそ転生させてあげたんだから無双でもハーレムでもやればいいのに」
呪詛を紡ぐように嫌味を言いあう二人。
『はぁ~……』
二人してため息を同時につく。会うたびに何か言い合っている二人だが実は気が合うのかもしれない。
「今日は言い合うのはやめましょう。抽選で落ち込んでいるのにこれ以上気分を下げたくないし……」
「――同感だ。こんな番号だしな。まぁ、お互い良い台を取れるように頑張ろうぜ」
――そして時刻は午前九時、魔導遊技機専門店ハデス開店。
開店してから数分、店内は慌ただしく人が行き交い店員はあっちへこっちへと店内を右往左往している。
「あぶないのでおさないでください!」
「店内は走らないようにお願いします!」
「待ちくたびれてるんだよ! 早く入れろよ!」
「狙い台のサヤちゃんがああああああああ――!」
「魔王様、今日は四天王も呼んでいます。必ずや魔王軍で上位を独占しましょう」
「――今、魔王って誰か言わなかったか! 来ているなら俺と戦え魔王!」
注意する店員、怒鳴る客、狙い台が取れなくて絶叫する者、その他――と、店内は喧騒に包まれていた。
「――よし、確保できた。まぁこの台は一部の奴らしか座らないしなぁ」
そう呟きながら『ハリケーン』に着席するのは清龍だ。抽選で二十番台を引き、新台も座れるぐらいの順番なのにオーナーに入賞しなければどうなるかわかってるよね? と、軽く脅されている為に確実に出せる台でいこうとの腹積もりである。
「後は自分との勝負――俺が二日間どれだけ目押しをミスらず行けるか……だな」
そんなことを呟いていると隣の席に誰かが腰を下ろす。清龍がこの台に座ってからまだ数分も経っていない、一部のマニアしか座らない台の為、後数分は誰もこの場所にすらこないと思っていたのだ。しかも何台もある中わざわざ自分の隣に座ってくる。そんなことが合わさったので気になり隣を見ると見知った顔がそこにはあった。
「龍ならここに来ると思ってたよ」
清龍の隣に座ったのは清龍に次ぐ『ハリケーン』の愛好家であるサムだ。最初は目押しが出来なかったもののメキメキと上達し、今では目押しスキルも上級へ到達している。
「この前はチーム戦の上に魔法で攪乱されまともに戦えなかったからな――今日はリベンジさ。今日は龍に勝って俺が入賞させてもらう!」
そう清龍に告げるサム。以前勇者と魔王を巻き込んだチーム戦での前半戦体力もあり、魔法も使用される前、サムは清龍に迫るほどの目押し力で『ハリケーン』を打っていた。自分との勝負だと思っていた清龍の前には早くも暗雲が立ち込めていたのだった。
開店から数十分――ハデスは大いに賑わって遊技機は一台の空きもない。
そんなハデスに入店してきた者が一人いる。マッチョな体に可愛らしくデフォルメされた豚の顔と不釣り合いな男――魔王軍四天王が一人ブーモだ。一般的な目で見れば変態にしか見えない。
「――娘が遊技機関係で働いているとアクドから聞いて来てみたが……見当たらないうえに一台も空き台が無いとは……まぁ最終的に出玉で勝てば良いだろう」
こうしてハデスの店内に徘徊する変態が放たれることになったのだった。
小説のタイトル変えようか悩んでます。
パチンコってタイトルに入れるとなんだかなぁって一年経って悩む作者でした。




