第二十七話 オールナイト①(設定)
仮面の男――ハデスのオーナーが謁見の間を出てしばらくすると一人の男が声を上げる。
「陛下あのような約束をして本当によろしかったのですか? ハデスはカジノ区画にありながらカジノとは別な体系をとっております。故に二十四時間毎日開いているカジノとは別に朝九時より開店し、夜二十三時に閉店するという決まりです。特例を許せば際限がないのでは?」
「確かにな……そなたの言うことは尤もだ。――だが、この件については決まったこと、約束をたがえる気はない」
「――陛下!!」
「今回ばかりはハデスが開いていた方が良いと言う事だ」
顔をしかめ、理解が出来ないという表情をしたタルスラ=レイモア伯爵に対し、ベルリア王は続けて言う。
「新年を迎えるにあたって王都には周辺の町、そして他国からも使者や住民がたくさん訪れることは知っておろう」
王都には毎年新年になると他の国家や周辺の町から大多数の人が訪れる。新年の式典を王が先頭に立ち行う為だ。
「式典に集まった民や使者は遠路はるばるやってくるのだ、その日のうちに帰ることは無いだろう。使者には城の部屋を貸すとしても民の受け入れは城下町の宿だと足りぬであろう」
毎年城下町の宿は満室になり、溢れた人は朝までやっている酒場やカジノで夜を明かすのだ。
「ならばハデスを二日間通しての営業にすれば少しは受け入れ口も増えるというもの」
「……ッ!!」
「これが今回特別に余がハデスの営業時間の延長を特例で認めた理由だ。タルスラ伯爵反論があるなら申してみよ」
「いえ……出過ぎた真似をいたしました」
ベルリア王の正論にタルスラ伯爵は言い返す言葉が無い。
しかし、この時同じく話を聞いていたリオン王子の考えは違う。
(ハデスが二日ぶっ続けの営業ねぇ……逆に王都に人が押し寄せてきそうなイメージがあるんだけど……まぁ面白そうだし良いか)
式典の合間を縫い顔を出そう、そう心に決めるリオン王子だった。
「――号外!! 号外だよー!!」
ハデスのオーナーとベルリア王の謁見から数時間後、王都エルランジの城下町には号外が飛び交っている。
号外を配っているのは『龍とアリスの連れスロ!』でお馴染みの二人――清龍とアリスである。いつも回胴式魔導遊技機番組の放送や攻略雑誌の作成をやっている二人だったが、今やっているのは平たく言えばビラ配りだ。清龍は普段通りの恰好だが、何故かアリスはハロウィンのコスチュームを着用している。箒にとんがり帽子にマントと容姿は魔女っぽい。足元にはいくつもカボチャが置いてあるのもポイントだ。もっともこれはアリスが自分の趣味でこういう恰好をしているのではなく最近知り合ったイルドというハデスの従業員であるエレックのクラスメイトから強く勧められた為だ。イルド曰く、この格好をアリスがすれば回胴式魔導遊技機好きな客は必ず寄ってくるらしい。現に高ランク冒険者を中心に人だかりが出来ていた。そして集まってくる高ランク冒険者には何故か有名なスキル持ちが多いのが毎回の謎である。
「――はぁ……こんなの俺の仕事と関係ないのに……」
手元にあるでかでかと『式典の日――ハデスで何かが起こる』と書かれた号外を見つめながら清龍は愚痴る。
「龍さん、これもお仕事ですよ! どっか~んと配れば直ぐ終わりますよ!」
「――アリスは気楽でいいな……それよりもこのイベントの事を考えると憂鬱だよ……」
「龍さんはもうイベントの内容を知ってるんですか? ずるいですよ~私にも教えてください!」
「教えてやりたいが許可が出るまで言えないんだよ……」
式典の日のイベント内容を清龍は既にオーナーから聞いて把握している。
一つ、式典の日に街に人が溢れるというから遊べる場所が一つでも多い方が良いという名目で二日に渡りイベントを行う事。
二つ、その中でも回胴式魔導遊技機は特に力を入れる事。
三つ、回胴式魔導遊技機は精霊水晶と連動させて回転数部門、出玉部門で賞金、商品が手に入るイベントを行う事。
その三つがオーナーに教えられたことだ。
これだけなら清龍が憂鬱になる理由はない。このイベントに参加しては行けないと言われたら憂鬱になるかもしれないがオーナーには仕事とは関係なく強制参加と言われている。聞いた当時は清龍も声を上げて喜んだほどだ。
だが、その後オーナーから言われた言葉が清龍を憂鬱にさせた原因だった。
『清龍君――君は私が見いだし育て上げた、この世界で私の次に回胴式魔導遊技機についての知識があるのは間違いなく君だろう。そして君はその知識を生かし、攻略雑誌を出し、回胴式魔導遊技機番組にも出演している――プロだ。そんな君がこのイベントで回転数部門、出玉部門と両方で負ける事なんて――ありえないよね?』
仮面に隠れているから顔は分からないが、想像するなら顔は笑っていても目が笑っていなかったと清龍は思う。だからこそ、このイベントでどちらの部門でも入賞出来なかったらと思うとゾッとする。
「はぁ――鬱だ……」
清龍はため息をつき、一言だけ口にすると号外が無くなるまでアリスと共に城下町を配り歩くのだった。
数日後――各地では式典に……いや、ハデスのイベントの参加しようと様々な人が立ち上がる。
「おい、見ろよこの号外。絶対この日熱いぞ!」
「サヤちゃん日和だな! ちょっと休みが取れないか交渉してくる!」
――カジノの入り口では二人の警備兵が。
「ほほう、面白い――。これは余も行く必要がありそうだな! 行くぞアクド!」
「はい魔王様――。アリスちゃんのハロウィンコスチュームも見たいですしね!」
――魔王城では魔王とその側近の吸血鬼が。
「このイベント――必ずあいつは来る! 今までの勝負は一勝一敗……今度こそケリをつけてやる!!」
「こんな時間に大声だしてんじゃねぇ!」
「すいませんすいませんすいません!」
――格安の宿では勇者が。
「たまには、イカサマではなく本気で勝負するのもいいかもしれませんね――。このついに私が作り出したラックポーションの力を試してみましょうか」
――とある薬屋では錬金術師が。
「こういうイベントって久しぶりかも~。それに式典って年明けよね! まさか三○のオールナイトのつもりだったり!? 全く、あのオーナーも良くやるわねぇ」
――天界からは女神が。
王都――いや、ハデスを目指し集結する。
そして、オールナイトが幕を開けるのであった。




