第二十六話 イルドの休日
「もう朝ですよー、イルド様。お休みとはいえ起きないとダメですよ!」
ココナの声と同時にカーテンの擦れる音が鳴り、窓から光が差し込む。
窓が開けられたのかさわやかな風が室内に広がった。
「……もう少し寝かせてくれ」
「ダメですよー! 今日は学園が休みに入ったからギルドの依頼を受けるって言ってたじゃないですか!」
ちょっと怒った言葉と共に掛け布団がはぎとられ、窓から入る冷たい空気はイルドの寝ぼけた頭を覚醒させる。
もう季節は冬、新年を迎える前に魔導学園も長期休暇に入り学生は暇を持て余していた。
イルドにとっても他の学生達と同じく暇だ。時々クラスの友人であるネズミの獣人の中吉や、マリカ、最近親しくなってきたエレックと出掛けてはいるが毎日と言うわけではない。まぁ、エレックとは一緒に出掛けずとも結構顔を合わせていたりするが……。
ぼーっと考え込んだ頭を振って完全に頭を覚醒させる。
「あぁ、そうだったな。最近遊びすぎて財布の中身も無くなってきたし……、ちくしょうリノの奴……『神降臨』とか出来すぎていると思ったんだよ。最近出た攻略雑誌みたら1/16384じゃねーか……おかげでこっそり教えてもらった次のイベントの軍資金が……」
「はぁ……? 私にはイルド様の仰っていることが良くわかりませんがお金がなくて困っているんでしょうか。それでしたら私のお給金からお渡ししても――」
「いや、それはいいから!!」
ちょっと心が揺らぎそうになったが全力で否定する。転生前と同じことを繰り返しては意味が無い。ハデスで打つなら自分で稼いだお金でとイルドは決めていた。
「ま、ギルドの冒険者ランクも少しずつ上がってきたし何とかなるだろ」
そんな言葉を呟きつつイルドは出かける準備をするのだった。
「じゃあ、行ってくるよココナ。遅くなると思うから今日は夕食いらないと伝えておいてくれ」
「はい、イルド様も気を付けてくださいね。もう絶対勝手なことしちゃダメですよ! 皆心配したんですからね」
ココナが言っているのは魔導学園で一月前にあった課外実習でイルドが勝手にパルサ洞窟の奥まで潜り、アルゼリオに保護され届けられた件だ。
イルドが魔法のかなりの使い手だということは屋敷の中でも周知の事実だったので驚き、それを保護して連れてきたのが元SSランクの冒険者だというのだからさらに驚いた日であった。
「さすがにあれは俺が悪かったよ。同じような事はしないさ」
「本当ですかぁー?」
「ま、まぁ行ってくるよ」
ジト目でこちらを見てくるココナに背を向けつつイルドは軽く手を振り屋敷を出ていく。
そんなイルドを隠れて見ている人がいた。
赤く長い髪の上に帽子をのせ、サングラスをかけた女性――イルドのクラスメイトの一人、マリカだった。
巡回している兵士に出会ったら詰所に連行されかねない様な明らかに怪しい格好だ。
普段は頭の上で纏めているポニーテールも帽子を被るためなのか下ろしている。
「怪しい――、怪しいよイルド君」
自分の恰好を棚に上げ怪しいと呟くマリカ。
マリカがイルドを怪しんでいるのは魔法の事だ。魔導学園の授業も碌に聞いておらず、休日もマリカや中吉達と遊ぶときは魔法と全く関係ない事をしている。
それなのにパルサ洞窟の課外実習では、五層までとはいえイルドが一人で魔法を使いモンスターを一撃で沈めていたのだ。何処でその魔法を見につけたのか――。クラスメイトの話題の一つであった。
自分達に見えない所で魔法の修行をしている可能性が高い。そう思ったマリカはイルドを尾行することにしたのだった。
屋敷を出てメインストリートを歩き、冒険者ギルドの前まで来るとイルドは木でできた扉を開け中に足を踏み入れる。
まだ昼前だからかギルドの中は閑散としていてまばらに冒険者パーティがいるぐらいだった。
イルドは真っ直ぐギルド内にある酒場のカウンターまで歩いていき腰を降ろす。
すると、イルドに気付いたギルドのマスターが声をかける。
「おう、久しぶりだな坊主。今日は飯か? それとも依頼を受けに来たか?」
「どっちもだ。腹も減ったし依頼も受けないと金が無くて……」
「貴族が金がないっていうと嫌味にしか聞こえんな。まぁちょっと待ってろ何か作ってやるよ」
空腹が限界なのか突っ伏すように料理が出来るのを待つイルド。
しばらくすると美味そうな匂いと共に料理が運ばれてくる。
「お待たせ、今日はとっておきの肉が入ってな。まぁ食え食え」
運ばれてきた料理はパン、スープと巨大な手羽先っぽい何かだ。とっておきと聞いて真っ先に手羽先に手を伸ばし、頬張るとイルドは口を開く。
「美味いなこの手羽先。とっておきでこの大きさってことはAランク冒険者が狩ってきたコカトリスあたりか?」
「いや、坊主が大好きなパルサキングの足の部分だ」
ブ――――ッ!!
「うわ! 汚いなお前!」
「いやいやいやいや! この前俺がパルサに殺されそうになったの知ってますよね! それでパルサの肉出すとか嫌がらせですか! つーかパルサの肉って食えるんですか!」
「俺としては純粋な好意だったんだが……まぁいい。パルサの肉――特にパルサキングの肉は美味いぞ足の部分しか食うのには向かないけどな」
「パルサだって聞かなければ純粋に美味しく食べられたのに……」
「ところで話は変わるが依頼を受けたいって話だったな。今討伐系は特にないから採取系になるけどかまわないか?」
「金になるならなんでもいいぜ」
「じゃあ月光草の採取を頼む」
月光草――月の光を一晩浴びた魔草が変異した光り輝く三日月型の葉が特徴で、薬味としても料理に使え、煎じれば薬にもなると言われている採取ランクAの植物だ。
「また探しても無い様な物を……俺が採取できる確率とか限りなくゼロに近いぞ」
「そうか? リノのねーちゃんが坊主は月光草の採取が得意って言ってたんだがな」
「まさか――魔草が月光草に変異する確率って――」
「一万の魔草を探して一個ぐらいって聞いたことはあるな」
「――やってみるか、その依頼受けるよ。取ってきたらなるべく高く買い取ってくれよ!」
正午過ぎ――マリカはエルランジ近郊の森の中にいた。
さすがにこの格好で冒険者ギルドに入っては通報されそうだったので外でイルドが出てくるのを待ち、つけて行ったのだ。
冒険者ギルドから出てきたイルドは依頼書を手に持っていたのでそれが魔法の修行に関係するものだろうとも予測していた。
そしてマリカは恐ろしい物を目撃する――。
「この辺なら魔草が結構生えてるし……ここでやるか」
そう呟いたイルドは詠唱に入る。
だが魔力の動きは感じられない――なぜならこれは女神から授かった恩恵なのだから――。
「全知全能なる神よ、死者を司る冥府の帝王よ――! 波紋、氷、雷、炎、槍、竪琴、振動、遅延、扉、停止、十の理に導かれ顕現せよ――!」
『神降臨!!』
詠唱完了と同時に薄暗かった森の中がハデスの店内よりも明るく輝く。
「――嘘でしょ……信じられない」
マリカがそう呟いたのも無理はない。イルドの足元には大量の月光草が生えていたのだから――。
そして今――イルドとマリカはハデスの店内にいた。
あの後イルドは大量の月光草を摘み、冒険者ギルドに届けて換金し、上機嫌でハデスに向かったのだ。イルドの能力の一端を見たマリカは最後までつけることにしたのだ。
イルドが自動球魔道遊器に座ったのを見届けてマリカも近くの同じ台に腰を下ろす。
マリカはハデスに来たのも初めての初心者だったが、ハデスには遊び方も台の近くに書いてあるし、わからない場合は店員を呼んでくださいとも書いてあるので簡単に遊ぶことが出来る。
(え~と……この球貸出機に銀貨を入れ……って!! 銀貨!! ちょっと遊ぶには高いような……でもイルド君もやってるし――)
不慣れなため一つ一つやり方を確認しながらやるマリカだったが、それを見ていた人が呟く。
「――怪しい」
そう、今のマリカは一般的に怪しいのだ。帽子にサングラス、そして挙動不審――。そんな疑ってくださいと言わんばかりでイカサマをやる奴はいないが、そこを逆手に取るやつだっているかもしれない。
「お客様――」
「――ヒャイ!!」
店員――エレックが声をかけるとマリカは吃驚したのか裏返った声で返事をする。
「って……もしかしてマリカさん?」
「え? なんでエレック君が?」
クラスメイトと思わぬところで会いきょとんとする二人。
「僕はここのアルバイトをしているからね。マリカさんは何か挙動不審だったけど……あ、もしかしてハデスで自動球魔道遊器をやるのは初めて?」
「ちょっとやってみようかと――」
「なるほど、じゃあ基本を教えるね」
エレックに教わりながら遊技を開始する。水晶玉に魔力を通し、魔力の強弱で弾道を変化させるだけなのだが、それが面白かったのか夢中になるマリカ。
(イルド君の魔力の修行ってもしかして――)
「じゃあ僕は行くよ――イルドみたくハマらないようにね」
そう言ったエレックの言葉はもう耳に入らないのだった。
こうしてマリカも自動球魔道遊器にハマっていくことになる――。
エルランジ王宮の謁見の間――。
そこに今二人の男が向かい合っていた。
片方は王座に座るこの国の国王、ベルリア=アクロス=ユニバーサ。
もう片方は仮面を付けた男――ハデスのオーナーだ。
「して、そなたが王宮まで足を運ぶとは珍しい。何か火急の要件か?」
「いえ、そのようなことではありません。ただお願いがございまして――」
「そなたには返しきれないほど借りがある、申してみよ」
「では――。年明けの日、二日通して営業する許可を頂きたい」
ハデスの長い一日が始まる――。
登場人物の名前は全部メーカーや台、その登場キャラからもじってとってます。
暇なとき考えてみてください(・ω・)ノ




