第二十五話 駄女神
王都エルランジ、正門から王城まで伸びる活気に満ち溢れたメインストリート。
そこに面しながらも静かで落ち着ける喫茶店、そこに一人の女性が訪れる。
カランカラーン。
入口の扉につけられたドアベルが乾いた音を鳴らす。
「いらっしゃい、お一人かい? カウンターとテーブル席どっちにする」
カウンターからマスターと思われる男性から声がかかる。
「いえ、待ち合わせなの。ここに魔導学園の学生こなかったかしら」
「あぁ、学生さんなら奥のテーブル席にいるよ。注文するときは声をかけな」
ありがとうと会釈をし、奥のテーブル席に向かうと魔導学園の学生――イルド=ビルメイクが足を組みながらぶすっとした表情で目を閉じて座っていた。
「こんにちは、久しぶりね」
朗らかな笑みを浮かべ、軽く手をあげながら挨拶するとイルドはカッと目を開き……。
「おせぇよ! 何時間待たせるんだよこの駄女神!!」
店内に響き渡る声で叫び、マスターに注意されるのだった。
マスターにお叱りを受けた後、リノはイルドの向かいの席に腰を下ろす。
目の前に座るリノ。銀髪の長い髪、整った顔立ち、この辺ではお目にかかれないような神聖さをもったローブ――容姿だけは女神と呼べるだろう……そう、容姿だけは――。
「それにしても、女神である私を呼びつけるなんて非常識ね。私は忙しいのよ」
「その割には頻繁にハデスに来てるくせに……」
イルドから鋭い指摘を受けるとリノは目を泳がす。
「あ、あれは何と言うか……そう! この世界の情勢の調査というか――そう、この大陸で一番話題になっている魔導遊技機の調査なのよ、調査。決してサボっていたり遊んでいたり今日はメダルの出が悪いわね~なんて思ったりしてないんだから!」
「駄女神め……」
リノの発言にイルドは改めて自分を転生させた女神はとんでもない奴だなと再認識する。
「コホン……それで、私を呼んだのは何かあったの?」
わざとらしく咳払いをすると本題を切り込むリノ。
イルドを転生させたとき、何かが起きた時様に緊急用のメッセージを飛ばせるようにしてあるが使用されたのは初めてであった。
イルドも真面目な顔になり、口を開く。
「実はな、俺と同じように転生した奴を王都に入ってから結構見かけるんだよ。しかも『ハデス』でな。ほぼ全員が高ランクの冒険者だった」
イルドの言葉にギギギとか音が出そうなほど不自然に顔を横にそらすリノ。
「さらにそいつらに話を聞くと、転生した時に加護を女神に頂いたというんだが俺は貰ってないんだがな」
目の前の駄女神は今度はわざとらしく口笛を吹きはじめた、動揺を隠せないのか音程もリズムもめちゃくちゃだ。
「さて、その辺どうなんだ? そういえばこの前アルゼリオ店長に殴られてお前が気絶してうやむやになっちまったがその時加護がとか言ってたよな? おい、ちゃんとこっちを向け駄女神」
ガシッと頭を掴まれ無理やり前を向かされるリノ。
「あ、あはは。やっぱりその辺の話しなきゃダメ……かな?」
「詳しく聞かせてもらおうか、俺にだけ加護が無かったことと何故か転生者がハデスに集まっていることをな」
しばらく真面目な顔つきで黙り込むリノ。
神聖さも合わさって緊張した空間が生まれていた。
五分――いや十分経っただろうか、イルドが唾をゴクリと飲む音と同時にリノが口を開く。
「まず、あなたに加護が無いという話だけど――忘れてました! ごめんなさい!!」
「……はあああああああ!? え、つまり何の理由もなくただ単に忘れてたってこと?」
「――イルド、失敗は誰にでもあります。恐れず進むのです」
「何神託みたいな話し方で終わらそうとしてんの!」
「えー、だって加護渡すの忘れてました。とか上に報告したら私、罰則で遊びに行けなくなっちゃうじゃない、ハデスにも日本のパチンコ店にもいろいろ打ちたい台あるのに」
「マテコラ! お前日本にまで打ちに行ってたのか! 羨ましい身分だなオイ!」
衝撃的な内容にツッコミを入れすぎてゼイゼイと息をきらすイルド。
「ちなみに私がよく行ってたお店はスロット専門店で地下1階から地上2階まであるんだけど台数少なくて狭いのがネックなのよね。換金率もあれだけど……まぁその分設定入れてくれるから楽しめていいわよ」
「おい、その店もしかして新○の――俺も良く通ってたけどさ……まさか――」
「そう、察しの通りよ。良く見かけた常連さんが死ぬのが可哀想で転生させちゃいました、テヘ。この世界に転生させたのは私の権限が及ぶのがここしかなかったからよ」
「もしかして、転生者をハデスでよく見かけるのって……」
「もちろん私が通ってるお店の事故にあって死んだ常連さんたちよ!!」
「アホか!! どおりで偏ってると思った……。転生する条件が女神のいきつけのパチンコ店の常連が事故で死ぬこととか……そんな条件漫画や小説やゲームでも聞いたことないわ!」
少し落ち着きましょう、とのリノの声に乗り出していた身を戻し、深く椅子に腰かけるイルド。
「まぁ、転生者が多い理由は分かった。本当にくだらない理由だったんだな、高ランクの転生冒険者が王都に集まる――封印された化物の復活とか大厄災が起きる前触れとかじゃなくて良かったよ……それで加護はどんなのが貰えるんだ?」
「えーと、加護と言っても私が与えられるのはスキルか魔法なんだけど……魔力消費量が人の1/10になる常時スキルとか、基本ステータスがこの世界の平均の三倍になる常時スキルとか、自分の血を硬化して武器に出来る発動スキルとか」
「まぁ魅力的と言えば魅力的だが普通だな、魔法はどんなのがあるんだ?」
「蘇生呪文とか大火災をおこせる魔法とか、津波とか竜巻とか――隕石魔法もあるわよ?」
「その辺の魔法を覚えれば魔導学園も楽勝か……魔法にするかな」
「あ、こんなのもあるわよ。私のお気に入りのスキルなんだけど――」
どの魔法にするか悩んでいるとリノがお気に入りのスキルがあると言い出した。
駄女神のお気に入りのスキルとかあまり使えなさそうだが一応聞くだけ聞くかと飲み物を口に含みながら耳を傾ける。
「1/8192を引けるスキルよ、スキル名は――『神降臨』ね」
「――ブハッ!!」
思わず飲み物を吹き出すイルド。
「ちょっと! 汚いじゃない!」
「お前こそ何だよそのスキル! ピンポイントじゃねーか!!」
「――知らなかったの? 神を引けるから神なのよ――」
「何時行っても某台でカチ盛りしてる奴いるなと思ったら――よし、決めた。俺の加護はそのスキルにしてくれ」
「え? 良いの? 魔法とかあれば今いる魔導学園とかも楽勝なんじゃ」
「そういうのは自力で努力して極めるから良いんだよ。こういうスキルは自力じゃとれないからな」
「もっともらしい事を言ってるけど――でも本当にいいの? こっちには某台無いんだよ?」
「それにしてくれ、もう決めたんだ」
たしか、『最終戦争』は某台をと同じ様なスペックだったはず……それならば引き放題だ。と考えてにやけそうになるイルド。
「あー……決めたんなら良いか、じゃあ加護を渡すね」
リノが聞きなれない言葉を紡ぐとイルドの身体が発行し、やがて左手の甲に収縮していく。
光が収まった後、左手の甲に残ったのは魔法陣の様な形の紋章だった。
「終わったわよ」
「ありがとう、リノ。じゃあ俺は――行くよ」
「え? あ? ちょっと、行くってまさか――」
リノの声も聞かず、キリッとした真面目な顔つきで何かの覚悟を決めて店をとびだしていくイルド。
彼はまだ知らない――この世界の『最終戦争』で『神話』を引ける確率が1/16384だという事を――。
ちなみに新○の某店は作者は数えるほどしか行った事ないです。




