第十八話 イカサマ師再び
闇ギルドにオーナーが『O・HA・NA・SHI』をしに行く一カ月前の事――。
王都エルランジの城下町。城へと続くメインストリートの一角に、とある薬屋が存在している。その店に置いてある商品、ポーション等の薬は店の主が自ら調合したものだ。他の店に比べると値段は同じだが中身の純度が違う素晴らしい物ばかりである。少しだけ残念なことは、薬の一つ一つが主の手作りの為、品物の数が少ないといった事だろうか。大体正午過ぎには売り切れてしまうほどに人気で、街の人達から重宝されていた。
だが、現在その店は臨時休業しており、中からは怒声と物が割れる音が断続的に聞こえている。
店の中にある商品はなぎ倒され、ポーションが入っているガラス瓶は無残にも床に砕け散り中身が飛び散っていた。
そんな店の中で向かい合うガラの悪い男三人と、白いスーツを来た店主と思われる男――。ガラの悪い男達三人の手にはそれぞれ剣、槍、杖が握られている。対する店主は無手、何も武器は持ち合わせていない。
けだるそうな表情をして呆れたように手を広げていた。
「だから、ここでどんなに暴れた所で金は出てきませんってば」
白いスーツを来た店主が口を開く。口調は丁寧だが、店の中の物を壊され臨時休業する羽目になったこの状況に内心ひどく怒っていた。
「お前の店繁盛してんだろ? いいから早く金返せや!!」
「だからそれはもう返し終わってますってば!」
確かに店を建てるとき闇ギルドの金貸しから金を借りたがもう返済し終わっている。呪文書の契約も返済したときに切れているので、いくら店主が『返さない』と言い張ろうが店主を拘束する魔法は発動しない。
この結果を見ればわかることなのだが、目の前の三人組には話が通じないようだ。
しかも店主は高品質のポーションの献上という形で闇ギルドに賄賂を渡している。その為、闇ギルドの幹部からは店を妨害しないよう命令が出されていた。
その事さえ知らない目の前の三人組は闇ギルドの中でも末端なのだろう。大方同じギルドの金貸しが稼いでいるのを見て、自分たちもおこぼれに預かろうとしている金の亡者だ。
非常に腹立たしいが、店主は戦闘が不向きであった。末端の三人組とはいえ戦闘になればすぐやられてしまうだろう。
どうにかこいつらを納得させて帰らせ、ついでに店で暴れた仕返しができないものか――店主は少し考えるとある結論に至った。
(あるじゃないか――金の亡者どもを誘う黄金の城。ルールを守らない者に対しては魔王城に変貌する化物の巣窟――魔導遊技機専門店『ハデス』という場所が)
考えを纏めた店主は三人組に対して口を開く。
「――わかりました」
「わかりゃいいんだよ。早く金出せや」
「ただ、お金はありません。代わりに儲ける方法を提案します」
「――あぁ?」
「上手くいけば一日で金貨十枚も夢ではありませんよ――」
そう三人組に向かい言葉を投げかけた店主――錬金術師クレマンは口の端を吊り上げるのだった。
二週間後――。
魔導遊技機専門店『ハデス』の店の前で男が四人開店待ちをしている。錬金術師クレマンと闇ギルドの三人組だ。
クレマンは笑顔で並んでいるが闇ギルドの三人組は挙動不審だ。キョロキョロと落ち着きなく周りを見ている。これからイカサマをやるっていうのに挙動不審では疑ってくれと言わんばかりだ。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
三人の中でも実際に実行する杖を持った男は不安そうにクレマンに話しかける。他の二人もクレマンの店で暴れたときとは違い臆病なネズミの様であった。所詮は末端、自分に有利な状況じゃないとこの通りだ。
「えぇ、間違いありません。事前に凄腕の占い師にも占ってもらいましたからね。今日が確実です」
対するクレマンは自信に満ち溢れている。ハデスの中で占いの館をかなりの頻度で利用しているが今までで一度も外れたことが無いからだ。
「さらに確実にするためにこれを飲んでください」
「なんだ? この飲み物は」
「運が一時的に上がる『ラックポーション』ですよ。知らないんですか? 私が調合した店でも人気の商品です」
一瞬怪しんだものの、直ぐに納得して三人は差し出された飲み物を飲み干した。
「お前は飲まなくていいのか?」
「私は既に飲んできましたから」
もちろん嘘である。そもそも『ラックポーション』などと言う運が上がる飲み物などは存在しない。
もしそんな物が作れるのならクレマンは闇ギルドに拉致され、淡々と『ラックポーション』を作らされていただろう。
そんな会話をしているうちにハデスの開店の時間を迎えた。
「いらっしゃいませ! おはようございまーす!」
挨拶をしてくる店員の間を抜け自動球魔道遊器のコーナーまで来ると三人は固まって座り、クレマンは一人だけ別な場所へ腰を下ろす。お互いシマの端から端、席を少し後ろに倒し覗きこまないと見えない対角の位置である。
そしてクレマンは普通に遊技をし始める。錬金術を使う気配は見えない。
(私にかかればイカサマなんて簡単ですが――三人組の失敗を見届けてからの方が確実でしょう)
そんなことを考えているとクレマンに店員から声がかかる。
「クレマンさん、この前は大変だったみたいですね。お店大丈夫ですか?」
振り返るとハデス屈指のイケメン店員、ライズが心配そうな顔で立っていた。
「えぇ、泥棒に荒らされましてね。店自体は平気ですが中々薬を調合する気分になれなくて……今日は気晴らしですよ」
クレマンの作り笑顔は慣れたものだ。心を読めるレベルでなければ見破れないだろう。
「そうなんですか。父がポーションが足りなくなるから早く再開してほしいとぼやいてましたよ」
ライズの父は城で近衛兵をしている。城の兵士の間では模擬戦などで怪我をしたときにクレマンの作るポーションを使うと治りが早いと絶賛らしい。
「なるべく早く再開させるよう頑張りますよ」
「それを聞いて安心しました。今日は遊んで行ってください」
そう言うとライズは客に呼ばれたのかクレマンの元から去って行った。
(店も有名になり客もかなり来るようになりましたが……逆に目立って面倒ですね)
クレマンはそんな事を思いながら事が起こるまで遊技を楽しむのだった。
並びで自動球魔道遊器に座った三人組は周りに注意しながら打ち始めた。注意しているのは店員や周りの人がこちらを気にしないタイミングを計るためだ。
ただ、その結果キョロキョロと挙動不審で逆に怪しく見えていた。
「本当に使えるんだろうなクレマンから渡された『磁力刻印球』は……」
三人組のリーダーだと思われる大柄で剣を携えた男が不安げに声を出す。『磁力刻印球』はクレマンが錬金術で作った特殊な球でありハデスに設置された自動球魔道遊器の球と外見は全く同じである。打ち出した後、少量の魔力を込めれば同じ球同士がくっつく仕組みになっている。
今回クレマンが提案したのは『磁力刻印球』を使ったイカサマだ。自動球魔道遊器には『ヘソ』と呼ばれるチャッカーがあり、そこに球が入るとデジタルが回る。ヘソの横には入賞をサポートするためのチューリップがあり、特殊な状態になると開いてヘソに入りやすくなる。
そこで、チューリップが開いた時に釘に球が引っかかって連なる『ブドウ』と呼ばれる現象を『磁力刻印球』で故意に作り出し、チューリップにひっかけ閉じないようにするのが今回のイカサマである。チューリップが閉じないので球が入りやすくなり、大当たり抽選を多く受けられるようになるのだ。
「そんなの考えたって仕方ないっすよ! 金が手に入ればなんでもいいっす」
「やりましょうよ。釘に球が引っかかってる現象なんて時々見ますしばれないはずです」
他の二人はやる気満々である。大柄な男は頭の中で金とイカサマが露見した時のリスクを天秤にかける。明らかに金の方が上回った。ばれた時は全部クレマンのせいにすればいいのだ、怖がることは無い。
「よし……じゃあ始めるぞ」
そういうと杖の男にやれと命じ、イカサマを開始したのだった。
大柄な男の合図で三人の台に『磁力刻印球』が打ち出されていく。打ち出された球は放物線を描き、球返し、スルーと抜け風車を掠めチューリップを通り過ぎる。そしてチューリップが開いた瞬間球に魔力を込め、チューリップにひっかけるようにして『ブドウ』を作り出す。『磁力刻印球』は結びつき綺麗に『ブドウ』が出来上がった。チューリップは引っかかって閉じそうにない。
「やったぜ……」
呟き、ガッツポーズをする三人組。閉じないのを利用し、どんどん球を入れていく。銀貨一枚の球――二百五十球で二十回転ぐらい回るのが平均だが、このイカサマを使うことにより球が減らない状態になり、ずっと回していられるのだ。そして大当たりを繰り返しどんどん増えていく出玉――三人は小一時間至福の時間を楽しむのだった。
異常に気付いたのはアルゼリオだった。自動球魔道遊器のコーナーで当たってもいないのに球が増えている台があるのだ。
クレマンの考えた方法では、通常では考えられないほどの量の球がチューリップに入るため、球が増えながらデジタルが回せる状態になる。その為データで見るとおかしなことになっていた。
オーナーがイカサマを見破る様に作ったアーティファクトである水晶玉を用い台を覗きこむ。すると明らかにチューリップ付近に連なっている『ブドウ』を作っている球に魔力の気配を感じる。しかも三台同時に同じ個所に『ブドウ』なんてありえない確率だ。
「――エマ」
アルゼリオが呟くと音もなく背後に主任のエマが現れる。
「久々のイカサマだ。行くぞ――」
そういうとアルゼリオは事務所から出て店内に入っていく。エマはこくりと頷くとその後を続くのだった。
瞬間――自動球魔道遊器コーナーの空気が凍りつく。強き者は身を固くし、弱き者は体を抱え身を震わせている。尋常でない殺気を纏った化物がこちらに向かってくる気配を感じたからである。気付いてないのは悦に入っている三人組ぐらいだ。クレマンはニヤリと口の端を吊り上げ三人組の方を見ていた。
「いや~良い気分ですね。今日は帰ったら何くお――ヘブッ!」
「そうだな。ここに来てよか――グボッ!」
ぐちゃりと鈍い音が大柄な男の左右で響く。顔面をオリハルコンの筐体にめり込ませている二人がそこにはいた。アルゼリオが後ろから筐体に叩きつけたのだ。
「お前らこの店でイカサマするなんて覚悟は出来ているんだろうな?」
拳を鳴らしながら大柄な男に向かい睨みつけるアルゼリオ。男の顔面は真っ青で血の気が引いていた。
「ま、まってくれ!! 俺は……俺らはやらされているだけなんだ!! あいつ――そう、ク……あれ? だれだっけ?」
「そんな言い訳通ると思ってんのかあああ!!」
叫ぶと同時にアルゼリオは男の手を叩き折る。
すると、痛みが限界を超えたのか男は目をぐるりと回しその場に崩れ落ちた。
「たっぷりこれから尋問してやるからな、覚悟しておけよ――エマ、全員事務所へ連れてこい」
そう言うとエマが他の店員を連れ現れる。そのまま三人組を縛り上げると事務所まで引きずっていくのだった――。
それを見ていたクレマンは嘲笑すると同時に安堵した。
(どうやら効いてくれたみたいですね……)
開店待ちの時間に三人組に飲ませたのはここ一カ月の記憶を消すクレマンの試作品である。効く確率はそこまで高くなかったが今日は占い師のお墨付きだ。今日ならいけると確信していた。
(では――アルゼリオ店長がいない間に楽しむとしましょう)
そしてクレマンは一人順調にイカサマを使い球を出し続けるのだった――。




