第十六話 占いの館
音と光で賑わい毎日多くの客が訪れる魔導遊技機専門店『ハデス』。新装開店以来休憩コーナーや食事処、占いの館といった遊技機以外の設備も充実し、それらも多くの客が利用している。
その中で遊技機を打たない客もやってくるのが占いの館である。ここを任されている占い師リオナの元へ連日様々な客が訪れていた。
だが、リオナは一回占いをするのに銀貨三枚と結構な額をいただいている。
それでも客が来るのはひとえに彼女の腕前が良いからだろう。
もちろん普通の占いだけじゃなく、遊技機の設定等も占ってもらうことも出来る。
ただ、かなりの的中率を誇るため、店長からは直接台の設定を言わないでくれと言われていた。なので、彼女が作成したのが『札』である。
彼女は設定占いを頼まれると設定の数字を率直に言えない為、濁すことにしたのだ。
例えば、設定1から3を暗示する札は『銅』『スライム』『庶民』。設定3から5なら『銀』『ガーゴイル』『商人』。設定4から6なら『金』『ドラゴン』『貴族』。設定6かExの時は『オリハルコン』『魔王』『王様』といった具合だ。
設定3とかの場合は『銅』じゃなく『銀』等の良い札を渡すようにしていた。本来ならリオナは悪い方の札を渡してやりたいのだが、店長に睨まれるのは避けたいのだ。
そんなこともあり客からは、リオナの占いは設定を占う時のみ的中率が落ちると言われていた。
そして、今日も占い師リオナの一日が始まる。
占いの館の営業時間は、ハデスが開店する午前九時から夕方の十七時までとなっている。その為、今日もリオナは開店前にハデスへ訪れていた。店内に入ると回胴式魔導遊技機のコーナーを一通り見て回り、一台一台占っていく。
「相変わらず高設定が多いわね、経営大丈夫なのかしら」
占った結果をメモに取りつつリオナは呟く。リオナは占いの館をこの店の中に開くことになった時オーナーからいろいろと話を聞いていた。オーナーの話によると、店側が利益を出そうとするなら設定6を一台入れるのに対し、設定1を五台は置かなきゃならないらしい。
だが、今日の回胴式魔導遊技機コーナー全体でみると設定6一台に対し、設定1は三台だ。特にイベント日というわけでもないが、四台に一台は客が勝てる設定になっている。明らかに異常であり、それ故にリオナが呟いてしまったのにも無理はない。
リオナは一度自分の占いがおかしいのではと疑った時もある。その時は閉店後店長に台の設定を見せてくれとお願いして、自分の占いと照らし合わせて比較してみた。結果は九割の的中率で、店の設定配分がおかしかったのだ。
そんなことを考えていると脳内に直接声が響く。
「お主が気にしても仕方なかろうに」
同時に目の前に幼女の幽霊――レイコがひょっこり顔を出す。少し前ハデスの店員の間であった幽霊騒ぎの元凶である。何でも店長とオーナーに捕獲された後、オーナーの元で働くことになったらしい。
オーナーの指示で回胴式魔導遊技機の筐体に憑依し、設定を誤認させるような事をやったり、気分しだいで大当たりを出したりとやりたい放題である。リオナの占いでは死者であるレイコの未来線が見えない為、レイコの憑依した台を占いで予測するのが難しい。憑依した台で打っていた客に占いを頼まれた時など、全然占いと違うことが起こりクレームになったこともあった。それ以来、朝来たとき今日憑依する予定の台を聞くことにしている。
「まぁ私はハデスが潰れても占いの館さえ移転すればいいんだけどね。それで、今日はどの台に憑依するの?」
リオナはレイコへ問いかける。幽霊であるレイコは魔力の強い者しか見ることが出来ない。その為魔力が弱い人にはレイコは見えず、今のリオナは虚空に向け話しかけるかわいそうな娘に見えるだろう。
「そうじゃな、今日は『デル☆スラ』の角台にしようかのう。最近怖がりな女子がその席に座ることが多くてのぅ、大当たり演出を全て断末魔に変えて遊ぼうかと思うんじゃ」
キャッキャと笑うレイコは完全に悪戯好きな幼女にしか見えなかった。本当に生まれたのが三百年も前なのか疑うレベルである。
「じゃあ、私はその台に座る人が客で来たら絶叫乱舞とでも言っておくわ」
そして、台に同化していくレイコを見ながらリオナは占いの館へと戻るのだった。
「次の方中へどうぞ」
リオナが声をかけると占いの館に常連の男が入ってきた。貴族を思わせる白いスーツを来た男――錬金術師クレマンである。クレマンは新装開店で占いの館が出来て以来ほぼ毎日くる常連である。何をやっているのかは知らないが占う内容は毎回怪しいものばかりであった。
リオナの占いの館では占った内容が他人に漏れると困るという人も多いため、別料金を払うことにより箝口令の変わりに呪文書による制約が可能だ。クレマンは毎回別料金を払い、呪文書による制約を取り付けていた。よっぽど変な事をしているに違いないと言うのがリオナの考えである。
「今日は『自分だけが疑われない日』を占ってほしいんですよ。もちろん制約付きでね」
変な事を言い出すクレマン。だが、毎回同じような事なのでリオナも慣れていた。
「では、銀貨五枚になります」
そうリオナが言うとクレマンも慣れたもので懐から銀貨を取り出してリオナに渡す。確認した後リオナは精神を集中し占いをする。
「――二週間後……それがあなたの『自分だけが疑われない日』になります。代わりにあなたの仲間には『最悪の日』になるでしょう」
出た結果を淡々と告げるリオナ。それを聞きクレマンは満足げに微笑み、頷く。
「――素晴らしい。それは私にとって最高の日になるに違いない」
そしてリオナが呪文書にサインをし、口外できないように制約を受ける。
「では、また来ます」
呪文書を受け取るとクレマンは一言だけ残し去って行った。リオナは思う、願わくばクレマンのすることに自分が巻き込まれませんように、と。
その後は普通の占いや、回胴式魔導遊技機の設定占いばかりだった。レイコが憑依した『デル☆スラ』の台を打っている女性がこなかったのが残念である。
十七時を過ぎたので帰ろうとしたリオナだったが、回胴式魔導遊技機コーナーから怒声が聞こえてくるので見に行くことにした。
コーナーに着くと一人の男が喚き散らしている。
「ふざけんなああああああああああ!! この台『金』の札を占い師から貰ったんだぞ!! なんで出ないんだよ!!」
どれだけつぎ込んだのか、男の顔は血管が浮き目は血走っていた。
「占い師の言う事を真に受けるなんて馬鹿じゃないの?」
そんな男に対し、周りで見ていたギャラリーの中から声がかかった。
「おい! 今言った奴出てこい!!」
男は台から目を離しギャラリーの方を見回す。そしてリオナと目が合った。
「おいお前! 占いの館にいた占い師だろ。お前の占いが当たらなかったせいで俺はこんなに金を使ったんだ。そうだ、お前がその分を俺に弁償しろ!!」
かなり酷い言い分である。周りにいたギャラリーは巻き込まれるのを恐れたのかリオナから離れていった。
「私の占いは当たっているわ。あなたに運が無かっただけよ」
「ふざけるなああああああああ!」
逆切れしてリオナに向かって殴りかかってくる男。――刹那、グラグラと地面が揺れ店の天井からシャンデリアが落下し男を押しつぶした。
男はピクリとも動かない。
「ほら、運が無いからそうなるのよ」
リオナは涼しげに言うのだった。そして誰にも気づかれぬよう虚空に向けて一言、ありがとうと呟いた。
リオナが見つめていた先にはレイコが笑いながら手を振っていたのだった。




