第十五話 カジノ
毎日賑わうカジノ区画、魔導遊技機専門店『ハデス』がオープン以来人の量はうなぎのぼりだ。
貴族の個人馬車やハデス直通の巡回馬車、ドラゴンで来る竜騎士や歩きで来る庶民。様々な人が行きかっている。正直ここまで人が集まるようになるとは思っていなかったらしい警備兵たちは、他の部署からも有能な兵を呼び寄せ、毎日の様に揉め事の解決や見回りに忙しい。
華々しく映るカジノ区画。
だが、その中でもハデスが開業したことにより割を食った者もいる。
ここ、カジノ区画の最奥に構える王都で一番でかいカジノ。その黄金で出来た建物の中にある一つの区画。スロットマシンを扱うその部署の責任者、リバルは頭を抱えていた。
目の前に並ぶ多くのスロットマシン。魔導遊技機専門店『ハデス』が出来る前は毎日の様に貴族の客、ギャンブル好きで目の前が見えなくなっている庶民の客など、多くの客に愛されたその空間は現在見るに堪えない状態だ。
人が寄り付かなくなり従業員も適当にメンテナンスするようになったのか、それとも客がポツポツとしかいない空間のためかはわからない。リバルから見てその空間は煤けて見えた。
「客が少ない……ッ!」
誰に向けて放たれたのか、それとも自分に向けての独り言だったのかもしれない。その言葉は自然とリバルの口から漏れるように放たれた。
頭を抱えながら恨み言の様に言葉を漏らす責任者を見て、他の店員も苦笑いを浮かべている。
カジノの中でもいろんな部署がある。その中でも主にカードやルーレットなどのテーブルゲームを扱う部署、クラップスなどのダイスゲームを扱う部署、そしてここスロットマシンを扱う部署が主力である。
その中でも特に人気が高かったスロットマシンの部署を任されたリバルは同期の中でも出世コースの筆頭だった。任された後もスロットマシンでの集客率、売上率が素晴らしく、近いうちにカジノの幹部になるという話が出ていたぐらいだ。
それが今ではこのざまである。
閑古鳥が鳴くかのような寂れたスロットマシンの空間。そこにいる客はポツポツで全く客のこない日もある。
店員もやることが無いのか、次第に他の部署に貸し出されるようになり、日に日に少なくなっていった。
客も店員も少なくなかったこの空間で再度リバルは恨み言を言う。
「何が魔導遊技機専門店『ハデス』だ! 忌々しい!」
そう、この空間の客は根こそぎハデスに奪われたと言っても過言ではなかった。黄金に輝くカジノの建物に匹敵する煌びやかな外観。カジノとは異なる光と音に満ち溢れた店内。そして最近では新装開店と銘を打ち、食事処や貴重な書物溢れる空間を作ったとも聞く。客には嬉しいかもしれないその出来事すら自分にはイライラする原因の一つであった。
リバルは客が奪われた結果、自分の部署の店員も、売上も、出世コースも全て奪われた結果となった。
最初は復讐してやろうと闇ギルドから腕の立つ男を雇い、ハデスの店員に襲撃をかけたりもした。
三人、五人、十人と人を増やし襲撃を繰り返したが、ハデスの店員は想定以上に強い者しかいなく、誰を襲撃しても全員返り討ちになったのだ。そうするうちに闇ギルドから、ハデスに手を出す依頼は受けないと言われてしまっていた。
さらには噂を聞くと、イベントで呼ばれたリオン王子だけではなく、勇者や魔王までハデスに出入りしているという。闇ギルドに断られていなくてもうかつには手を出せない場所になってしまっていた。
その為リバルはここで恨み言を漏らすぐらいしか出来ないのだ。店員達はほんのわずかとは言え客のいる前でやめてほしいと思っているのだがリバルは気にしていない。ここに残っている客は大金を賭けないと遊んだ気がしないという中毒者しかいない。そういう奴らは周りがどうなっていようと気にすることが無いからだ。例え自分の周りが炎に包まれていようと最後まで台にかじりついていそうな奴らである。
「糞がッ! 糞がッ!」
何度も恨み言を言いながらカウンターに腕を叩きつけるリバル、強くたたきつけたせいか腕は赤く腫れていた。
そんなリバルを見かねて初老の店員は告げる。
「では敵情視察という事で一度ハデスに行かれてはいかがです? 集客の秘訣などわかるかもしれませんよ」
リバルはハデスをただ目の敵にしているだけで一度も視察など行ったことが無い。それ故にでた言葉だった。
だがその言葉に対し、リバルは初老の店員をギロリと睨みつけながら言う。
「この俺にスパイの真似事をしろと!?」
鋭い目つきで睨みつけられた初老の店員は思わず後ずさる。危険を思わせるだけの力がリバルの目には込められていた。
数分間、リバルはハデスの文句を言っていたが、徐々に冷静になってきたのか口を閉ざす。冷静に考えれば一度も自分で見たことは無いのだ、行ってみるのも良いかもしれない。
「俺はハデスの敵情視察をしに行く! この部署は任せたぞ」
初老の店員にそう吐き捨てるように言うとリバルはカジノを後にする。苛立ちを周りにぶちまけていたリバルがいなくなると、店員たちは口をそろえて言う。
「もう帰ってこなければいいのに……」
魔導遊技機専門店『ハデス』、その入口に着いたリバルは目を見開いていた。賑わっているとは聞いていたが、もはやカジノよりも人が多いかもしれない。
中に入るとカジノとはまた違った空間。音と光に彩られた煌びやかな空間がそこにはあった。
カジノの様に劇場が設置されていたり、サーカス団が来店しているわけでもないのに絶えず音が鳴り響く店内。筐体から出る様々な光。確かにカジノには無いものだ。
リバルは一通り店内を見て回る。他には休憩コーナー、食事処、占いの館があるだけだ。特別これが原因でカジノの集客率の低下に繋がる様なものは見当たらない。やはり、この魔導遊技機というものこれが原因に違いない。
そう考えたリバルは回胴式魔導遊技機を打つことにした。自分の部署に設置されているスロットマシンと似通っていたためだ。
そしてメダルの投入口に金貨を入れようとしたら入らない。まさか自分がカジノの人間だと気付かれて……とも一瞬考えたが冷静になる。すぐ横にはメダルの貸出機がつけられていた、そちらに金貨を投入する……が、入らない。
仕方なく店員を呼ぶと金貨ではなく銀貨を使うらしい。カジノのレートを基準に考えていたリバルは余りのレートの安さに驚愕した。
(なるほど、庶民が遊べるように調節してあるのか。スロットマシンにも低レートコーナーを設けるべきかもしれない)
そう考えつつメダルを入れレバーを押す。止まるのを待っていたが何時までたっても止まらない。隣の席に座っていた若い男にボタン止めないと、と言われるまで気付かなかったほどだ。
ボタンを止めるとスロットマシンと同じく絵柄が揃い、メダルが少量払い出される。どうやら原理はほとんど同じらしい。遊んでいた台は『デル☆スラ』と言うらしく、左下のスライムランプが光れば大当たりの合図で『777』か『77BAR』を揃えるようだ。勝手に『777』が揃うスロットマシンとは違うが自分で揃える楽しみがあって良いかもしれない。
気が付けば自分の知っている物とはちょっと違うが似ている回胴式魔導遊技機を夢中で回しているリバルがいた。カジノにいたときのイライラしたような感じはそこには無い。
しばらく打った後、他の台も見回ったリバルは衝撃を受ける。映像が筐体の中で動いているのだ。席が空いていなかったので後ろでジロジロと見ていたが実に面白そうであった。
敵情視察に来たリバルだったが魔導遊技機の面白さを十分に感じてしまい。これではスロットマシンでは勝てないと思い始める。
(いや、でも待てよ。運営している場所と作っている場所はさすがに違うだろう。作っている場所さえわかればカジノにも仕入られるんじゃ)
こう考えると、リバルは店員の若い男に声をかける。見るからにお調子者の店員だ。この店員ならポロっと話してくれるかも、そういう思いがリバルにはあった。自分が闇ギルドに依頼し、最初に襲撃した店員とも知らずに……。
「キミ、魔導遊技機をこの店がどこから仕入れてるかわかるかね」
店員に告げると、若い男の店員ウィルは少し考えながら返す。
「いや~流石に仕入は店長とオーナーしかわからないと思いますね。でもオークションで古くなった台を売るとか聞いたような……」
「それは本当か!!」
リバルはウィルに顔を近づけながら問い詰める。
「は、はい。今度出品するみたいっすよ」
リバルの顔を、近づけるなとばかり手で押し返すポーズを取るウィル。
「そうか!!」
そう言うと来た時とは逆に笑顔で退店するリバル。購入し、スロットマシンのコーナーに並べれば確実に集客、売上は伸びるだろう。レートをカジノに合わせれば面白さで遅れを取り、離れた客も呼び戻せるに違いない。そう考えながらハデスを後にするのだった。
そんなリバルの後ろ姿を見ながらウィルは呟くように言う。
「オリハルコンなんて素材で出来た筐体を買おうとするなんてどんな物好きだよ……」
ウィルの呟きがリバルの耳に入ることは無かった……。




