第十四話 魔導遊技機専門店の日常
魔導遊技機専門店『ハデス』、王都の中でも有名になり近隣の町の人や国の王子、異世界転生者、勇者、魔王、女神まで遊びに来るちょっと変わったお店。様々な客で賑わうその店は毎日いろんな事が起きている。これは魔導学園に通いながらハデスでアルバイトしている新入店員のつけている日誌である。
魔導遊技機専門店『ハデス』、店内にある遊技機は大きく分けて二種類存在し、回胴式魔導遊技機と自動球魔道遊器とされている。その中でも回胴式魔導遊技機の代表的な台が『デル☆スラ』だ。もっとも簡単とされ入門編な台である。
基本的には筐体左下につけられているスライムランプが光ったら、大当たりである『777』または『77BAR』が揃えられる仕様になっている。目押しスキルが無くとも比較的簡単に大当たりを揃えられる台だ。それ故に、多くのお客様から親しまれ打たれている。
しかし、自分ではどうしても揃えられないと店員に頼んでくるお客様もいる。
ある日、自分は老婆のお客様に呼ばれ『デル☆スラ』の場所に来た。老婆が打つ筐体の左下のスライムランプは光っている。どうやら大当たり図柄を揃えてほしいらしい。
「ねぇ、店員さん。私じゃ揃えられないから代わりに揃えてくれる?」
「はい、わかりました」
そう言いつつ自分は大当たり図柄を狙う。正直自分で大当たり図柄を狙う時が自動球魔道遊器と違う回胴式魔導遊技機の醍醐味であり、面白いところだと思うのだが……頼まれてはそうも言ってはいられない。揃えるのが自分の仕事である。
きっちりと目押しして大当たり図柄を揃える。だが、揃ったのは『77BAR』。光った時には内部的に決まっているとはいえ何とも言えない気持ちになる。普段ならこのまま下がるのだが、今日はそうも言っていられなかった。老婆のお客様が怒りだしたのだ。
「私は『777』を揃えてほしかったのになんで『77BAR』を揃えるのよ!! 私を楽しませるのがあなたの仕事じゃないの!?」
理不尽な事に怒るお客様。正直自分ではどうしようもない。光った時には決まっていることなのだから。
「すいませんが、お客様。これはもう光った時にはどっちが揃うか決まっていることですので」
こうして謝ることしか自分には出来ないのだ。
「嘘付き! そんなことないわよ! 他の店員さんが揃えてくれた時は全部『777』だったんだから! あんたが悪いのよ!!」
普段なら一言謝ると終わる事なのだが今日は相手が悪かったらしい。喚き散らして収集が付かなくなっている。
自分の手に負えない客だ。正直困り果てて涙が出そうだった。
そんな時、元竜騎士のライズ先輩が自分の方へやってきたのだ。
「どうしましたか? お客様」
老婆に向けて笑顔で話しかけるライズ先輩。イケメンと合わさって凄い破壊力である。老婆も頬を赤く染めている。歳を考えろ歳を。
「あ、あの。私は『777』を揃えてほしかったのにこの店員さんが『77BAR』をわざと揃えるの」
イケメンに笑顔で話しかけられ今までの不機嫌さが薄れていく老婆。自分のせいにしようと指でしっかり示している。調子の良い奴だ。絶対ウィル先輩なら殴っている部類だ。
それを聞き、老婆の手をしっかりと握りしめ、語るライズ先輩。
「マダム、申し訳ございませんがこれはスライムが光った時には当たる方が決まっているのです。なのでこちらの店員――エレックには落ち度はございません。それでもお客様が信用ならないようでしたら今度は私をおよびください」
どこの役者だよ。元竜騎士って絶対嘘だ。完全に元詐欺師と言われた方がしっくりくる。
その言葉を聞いた老婆は完全に落ち着くとライズ先輩に言う。
「あら。そうなのかしら……店員さんごめんなさいね。でも今度からあなたに押してもらおうかしら」
老婆は落ちていた。攻略完了である。おめでとう! おめでとう! ライズ先輩。熟女趣味。
そんなことを思っていると顔に出ていたのか凄い顔で睨まれた。正直怖い。でも結果的に簡単に解決してしまう。それがライズ先輩……悔しいけどかっこいい自分の先輩店員である。うん、イケメンってずるい。
魔導遊技機専門店『ハデス』、その中でも常連さんはかなりいる。ウィル先輩と仲が良く、カジノ区画の警備兵をしているサムさんとケンさん。部屋着に聖剣というありえないスタイルで現れる勇者様。黙ってれば恐怖の象徴に見えなくもないのに、愛想が良すぎるせいで気前のいい兄さんにしか見えない魔王。最近来始めた自分と同じ魔導学園に通っていて瑞穂副店長に決闘を申し込んだ無謀な人イルドさん。他にもライターの清龍さんとかいろいろな人がいる。
そして自分が今注目しているのは、一週間に一度、ハデスの食事処が休みの時だけ現れる大柄で遮光眼鏡を付けた男性だ。
一言で言うならそのお客様は『毎回有り金を全部使う客』である。
筐体に座るとまず全ての貨幣を財布から出し、メダルに交換するのだ。ここまでは遊ぶと自分の中で決めているのかもしれない。
結構いろいろな台を打つその客だが、打ち始めるとあっという間にメダルがなくなっていく。時々自動球魔道遊器も打つようだがその時も変わらず直ぐ球がなくなっていくようだ。
ただし、この客はそれだけじゃ終わらない。何故かメダルまたは球が切れる寸前に必ずといっていいほど大当たりを引くのだ。本来なら開店と同時に来て昼前には帰るぐらいの速度で無くなっていくメダルや球なのに、何故かギリギリで当たるため昼過ぎも遊んでいる。
そして大当たりするもまた直ぐに無くなってギリギリで当たるを繰り返す。それを毎回閉店近くまでだ。閉店近くなると辞めて帰るか、そのまま大当たりがこないで終了するときもある。
一体なぜだろう。それが自分の疑問だった。
最初はイカサマ師かと疑ったが、イカサマ師ならプラスで帰るはずである。なので何か秘密がある。そう思った自分は欲求に耐え切れず『解析』の魔法をこっそり使ってしまった。
すると、出てきたスキル欄の中に逆境LvMAXと忍苦LvMAXを持っていた。なるほど……それでずっとギリギリで遊んでいられたわけか。すっきりと疑問が解決した自分だったが許可なく客に魔法を使ったのが店長にばれて殴られた。もう少し手加減をしてほしい。うん、それにしても……スキル持ちって凄い。
「――っと」
ハデスの事務所で仕事を終えてから今日も日誌をつけ終わるエレック。研修のとき日報をつけていた時の習慣からか、いつしか日誌という形で出来事を残すことになったのだ。毎日毎日いろいろな事が起きるこの店ハデスは、辛い事や大変な事も沢山あるがエレックに取って働いていて飽きない場所だった。
店長も馬鹿な事をやると怒って殴るけど普段は優しいし、副店長も美人だし……主任はちょっと怖いけど、先輩たちも良くしてくれる。
そう思い返してエレックは自然と笑顔になっていた。
「お~い、エレック! 一緒に飯食いに行かない?」
お調子者で店長に良く怒られているウィル先輩が誘ってくる。珍しい事にライズ先輩も一緒にいた。
「まぁ、たまには一緒に食うのも悪くないと思って……な」
そういうライズ先輩は少し恥ずかしそうに頬を掻いていた。
「またまた、ツンデレなんだから!」
ウィル先輩がそう言うと同時に頭に拳が飛ぶ。あの二人は毎回こんな調子である。
エレックは笑うと二人の先輩に向けて言う。
「ぜひ、ご一緒させてください」
これも魔導遊技機専門店『ハデス』の日常の一ページであった。




