第十三話 魔力制御の秘訣
パチンコ店の話しがあまりでなかったので今日は二話更新します。
異世界転生者であるイルドは王都の魔導学園に通っている。元の世界では高等学校を卒業後そのまま働かず、親の脛をかじってパチンコをやっている日常だった。そのせいか、自分で好きな講義を受け、友人達と雑談したり遊んだりするこの生活が気に入っている。
ただし、気に入らない部分もある。それは魔導学園の魔法座学のレベルの低さである。現在一回生であるイルドだが、今講義で受けている内容はどれも自分が過去勉強してきた事とほとんど変わらない。むしろ元の世界の知識がある分、より高度な事が出来るぐらいだった。
その為、こちらの歴史の講義とかは楽しんで聞いていられるが、必修である魔法座学の時間が非常に退屈なのだ。イルドが退屈だと講義中愚痴をこぼすと隣の席に座っているネズミの獣人、中吉が言う。
「どんまい!」
中吉は慰めようとしてくれているらしいのだが、そのマスコット顔が発言と相まって非常に鬱陶しい。何故友人をしているのかが非常に謎だ。そんな中吉の慰めの言葉を聞き流していると、今度は前の席のハーレム候補として目をつけている女。マリカから声が掛かる。
「イルド君は今日の特別講義でるの?」
「特別講義?」
出てきた単語をイルドは思わず聞き返す。聞いた覚えがなかった。
「魔導座学の講義ちゃんと聞いてなきゃダメだよ~。今日の放課後希望者だけ魔族座学の特別講義があるらしいよ。外部の魔法使いを呼んで魔法の実演をしてもらうんだって」
「へぇ……その魔法使いの人は有名な人なのか?」
「うん、なんでも東大陸の出身でここの首席卒業生らしいよ。魔法制御が得意だって先生は紹介してたよ」
マリカの言葉に腕を組み少し考えるイルド。イルドは幼いころから魔法の練習をしてきた。その為魔法制御は得意であり、故郷では大人の魔法使いにも負けないほどであった。そして、魔法制御に関しては誰にも負けないと常日頃から思っていた。
「せっかくだし受けようかな。どのぐらい凄いのか見たいし」
実力者の魔法制御がどんなものか見ておくのも悪くない。どうせ俺以上の使い手はいないだろうが。そんな風に考えながらイルドは特別講義を受けるのだった。
放課後、イルドたちが魔法座学に使う部屋に残り特別講義を行う外部の魔法使いを待っていた。講義室内は生徒達の雑談の声でざわざわしている。そして講義開始数分前教壇側の扉が静かに開かれ、女性の魔法使いが講義室に入ってきた。
一瞬で静まり返る講義室内。生徒が雑談を辞めたわけではない、沈黙の魔法が使われたのだ。一瞬で数十人いる講義室内にいる生徒全員に魔法をかける魔法使いの女性――。
生徒が全員注目するのを確認すると魔法使いの女性は笑顔で頷き自己紹介を始めた。
「初めまして、今日は外部講師としてやってきました。ここの卒業生で元魔法使いの北泉瑞穂と言います。皆さんよろしくね」
眩しい笑顔であいさつする瑞穂に男の大半は見とれていたが、イルドだけは違った。目を見開いて驚いている。
(化物揃いのハデス、副店長北泉瑞穂だと――)
こうして特別講義は始まったのだった。
特別講義の内容は非常にわかりやすかった。魔導学園で配布された教本より詳しく説明され、生徒たちは成る程と頷いている。ただ、この内容どこかで――そう思ったイルドは必死に思い出そうとする。するとハデスの休憩コーナーで読んだ魔導書の事を思い出した。本当にあそこは何なんだよ……そう思いながら講義の続きを受ける。
しばらく座学を教えていた瑞穂であったが、区切りとつけると実技をやるといい生徒を魔導学園内部にある魔法練習場へ連れて行く。
「じゃあ、代表して誰か初級魔法を一通りやってもらおうかな」
「私、やります!」
元気よく手をあげたのはマリカだ。イルドの方をチラチラ見ている。どうやら、イルドに良いところを見せたいらしい。
だが、イルドの興味は別にある。それは瑞穂と自分どちらの魔法制御が上手いかだ。なるべくなら一度戦ってみたいと考えていた。
そんな事を考えているとは知らず、考え事のせいでいつもよりキリッとした顔をしているイルドを見たマリカは、自分をジッと見られていると勘違いしていつもより緊張していた。結果は初級魔法を卒なくこなし、瑞穂から褒められることとなる。
「じゃあ次は中級魔法ね、誰か――」
「先生」
瑞穂が言いかけた所でイルドが口を挟む。
「先生は魔法制御が得意なんでしたよね。じゃあ、俺と対決しませんか? 下級魔法と中級魔法のみという制限を付けた戦いで。これなら勝った方が魔法制御に優れているってことになりますよね」
突然のイルドの言葉に瑞穂は言葉に詰まる。マリカはイルドの腕を掴み、やめなよと言っている。どうしよう――そう考えていた瑞穂は外部講師として魔導学園に行くと言った時のアルゼリオの言葉を思い出す。
『実力を過信して調子に乗ってる奴は絶対いる、そいつは一度叩きのめせ。敗北を教訓に上を目指せる奴が一流になれる。それでも直らない様なら見捨てた方が良い――そいつはそこまでだ、何も学ばないからな』
よし。瑞穂は決意するとイルドに向けて言う。
「いいわ――。受けて立ちます」
異世界転生者イルドと元魔法使いで現ハデス副店長瑞穂との戦いが始まる。
お互い約十メートルの距離をとり、構えをとる二人。二人の足元には魔法陣が展開されている。炎を司る赤い魔法陣が足元に展開されているイルドに対し、瑞穂の足元には水を司る青い魔法陣――。お互い体の周りに魔力の渦が巻き、いつでも魔法が放てる状態だ。始まるまでは騒がしかった生徒達も静かに見守っている。マリカは心配そうにイルドを見ていた。
「やるでチュー!」
そして今、開始の合図が審判の中吉より言い渡される。緊張感のある場に緊張感の無い合図、明らかに人選ミスが窺える。
そんな緊張感の無い声にも関係なく二人は魔法を放つ。イルドは炎系下級魔法『炎弾』を放ち、それを瑞穂が水系下級魔法『水弾』で迎撃する。本来なら難なく躱せる魔法を同級の魔法により相殺したのは、これが魔力制御の優劣を決める戦いだからだ。
自分が放った『炎弾』を精密に迎撃して見せた瑞穂にイルドは思う。――さすがは外部講師として呼ばれることはある。
だが、これはどうだ――。
イルドの背後には五つの魔法陣。それぞれが炎を出現させ、さらにはそれを槍上に伸ばしていく。炎系下級魔法の一つ『火槍』だ。下級魔法の一つではあるが、五つも同時に操れる者はなかなかいない。瑞穂もそれを見て表情が変わる。
『火槍』が打ち出された瞬間、瑞穂の周りにも五つの魔法陣が浮かんだ。魔法陣からは水が勢いよく吹き出し『火槍』を消散させる。こちらは水系下級魔法の一つ『水撃』だ。水に圧力を加え射出させる魔法である。本来なら『火槍』を突き破り、イルドを吹き飛ばす予定であった『水撃』であったが、『火槍』を消散させただけで終わる。思ったよりイルドが放った『火槍』の密度が高く相殺されたのだ。
二人は同じようなやり取りを繰り返す。それでもお互い疲れを見せず、相殺が繰り返されるだけだった。
まだ一回生なのに魔法の練度が凄い。でも――。
後手後手で魔法を放ってきた瑞穂が初めて先手を取る。
イルドの周りを囲むように小さい氷の礫が形をとる。水系中級魔法『雹の嵐』――全方向から氷の礫を相手にぶつける魔法だ。
――まずい。
イルドはそれを見て咄嗟に魔法を放つ。炎系中級魔法『炎の壁』――炎の壁が自分の周りを包み氷の礫を防いでいく。だが均一に飛んでくると思われた氷の礫は予想を裏切り、一方向だけ倍の礫が襲ってきた。あまりの数に防ぎきれなかった氷の礫はイルドの体を打ちつけ、吹き飛ばす。地面に倒れるイルド――そして戦いが決着した。
「勝者、先生でチュー!」
最後まで審判をしていたらしい中吉より決着の合図が言い渡された。氷の礫に打ちつけられ吹き飛ばされたイルドは体を起こすが戦える状態ではない。対する瑞穂が涼しい顔をしていた。そんな瑞穂に対し、イルドは問いかける。
「なぁ先生、先生はどうやってそんなに精密な魔法制御を見につけたんだ」
それに対し瑞穂は遠い目をしながら言う。
「え、えーと。職業柄ね……魔力制御を毎日やらされていて……」
その言葉でイルドは全てを理解する。――職業柄、魔法制御……そうか! 自動球魔道遊器の試打!!
その考えに至ったイルドは飛び起き、瑞穂に向かって言う。
「わかった! じゃあ自動球魔道遊器を極めれば魔力制御が上手くなり魔導を極めることに繋がるんだな!!」
「――え?」
いきなりイルドから放たれた発言に放心する瑞穂。
「よし、今日からハデスで特訓だ!!」
「え? ちょっと――ぇええええええ!?」
瑞穂の驚きも無視し颯爽と魔法訓練所から出ていくイルド。
「え? イルド君まだ講義は終わってないよ! どこ行くの!」
マリカの叫びも聞こえず、イルドはハデスへ向けて去っていくのだった。




