第十二話 幽霊
最近店員の間で噂をされることがある。いわく、閉店後客がいなくなった店内でいきなり回りだす回胴式魔導遊技機がある。また別の店員いわく、いきなり球貸出機から球が出てきて発射される自動球魔道遊器があると。普通の店ならゴースト、レイス、スペクター、ファントム等対処しきれない幽魔が関わっているかもしれない以上、直ぐに教会から魔法使いを派遣してもらいお祓いを頼むところだ。だがここ魔導遊技機専門店『ハデス』では気にする者は一部を除いてほとんどいない。なぜならほとんどの店員が一人でも対処できる能力を持っているのだ。――だが、怖いものは怖い。そう思っている一部の店員も居た。ハデス副店長、北泉瑞穂もそんな一部の店員の一人だった。
今日のハデスは閉店後店員が少ない。店長は休みだし、主任のエマも休みだ。その為に閉めの作業は副店長である瑞穂に任されていた。一通り閉められる準備をした後、残っているのは相変わらず閉店後魔導少女サヤを回すウィルと、オーナーから新しい台の試打を頼まれている瑞穂だけだった。ひたすら魔力を流し込み自動球魔道遊器を回す瑞穂だったが今日は全く身に入っていなく、オーナーから渡された試打レポートを記入する紙も真白である。静まり返った店内に瑞穂が打つ自動球魔道遊器の球を発射する音とウィルの回す回胴式魔導遊技機のリール音だけが響いている。
瑞穂はウィルの方から演出の音が聞こえてくるたびにビクッと体を硬直させていた。なぜなら今ハデスでは店員の間で閉店後の店内に幽霊が出るという噂がある。そう、このハデスでも上位の能力を有する瑞穂は幽霊が怖いのだ。正直、幽魔など戦えば瞬殺できるであろう能力を持っているが、怖いものは怖い。そう、人が黒い悪魔と呼ばれる虫を怖がるようなものである。――どうか何も出ませんように、そう願いながら打つ瑞穂だった。
ウィルは閉店後いつもの様に魔導少女サヤを打っていた。サムとケンに話を聞いて以来『神々の黄昏』を見たくて仕方がないのだ。ケンは今でも思い出すだけでトリップ出来るらしい。今店員の間では幽霊が出ると噂されているが、ウィルは信じていない。ウィルはオーナーや店長等の化物がいるこの店に幽霊なんて出るわけがないだろ、と楽観視していた。店員の大半はウィルと同じように思っている。そんなこともありいつもと変わらず閉店後打っていたのだ。――副店長である瑞穂に誰か一緒に残ってと懇願されたというのも少しはあるが。
だが、閉店後の店内は不気味だ。外が真っ暗闇なのに加えあれだけ騒がしかった店内が静かということもある。このギャップが不安を煽っているようにも感じられた。
打ち始めて数十分後――。魔導少女サヤを打っていたウィルだったが違和感に気付く。自分がリールを回転させる音が重複して聞こえるのだ。普通なら重複するはずの無いリール音。だが、いつからか自分が回転させるリール音に加え、少し後から回されるリール音がある。――まさかと思い首をおもちゃの人形の様にぎこちなく後ろを振り向くウィル。振り向き終えた瞬間筐体から光るフラッシュと声。
――ピギャアアアアアアアアアアアアア!!
「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」
筐体から響き渡った声とウィルの声が重なり、静まり返った店内に響くのだった。
「――ひっ!」
静まり返った店内にいきなり響いたウィルの絶叫を聞き、瑞穂は驚き立ち上がる。いつも魔導少女サヤを打っている時にあげる奇声ではないため、何かが起こったと直ぐに気付いた。
「うぃ、ウィルー! 何が起こったのですかー!」
必死に呼びかける瑞穂。だがその表情は怯えていた。ウィルはあれでも店員の中では強い方である。そんな彼が絶叫を上げる何かがいるのだ。もしかしたら噂の幽霊かもしれない。そんな考えをしつつ一歩一歩踏みしめるようにウィルの方へ店内を進む瑞穂であったが、そういう時に限りホラーな演出を含む自動球魔道遊器の前を通過することになる。
そして目の前の自動球魔道遊器の映像にいきなり赤く血走った眼球が映り役物のアンデットの手が落下した。
――キャアアアアアアアアアア!!
自動球魔道遊器から聞こえる絶叫も重なり瑞穂はその場で気絶したのであった。
翌朝、アルゼリオ店長とオーナーがハデスへ入ると店内で倒れている二人が発見された。目を覚ました副店長である瑞穂は目が……手が……と震えながら呟いている。ウィルはいきなり筐体が光って断末魔が聞こえたんだと興奮しながら話していた。
一通り話を聞いた後、二人を帰宅させたアルゼリオとオーナーは事務所で話していた。
「オーナーはどう思います? 自分は幽魔じゃないと思っていたので放っておいたのですが」
店員二人が気絶して発見されたことにより、アルゼリオの表情は若干険しい。
「ふむ、私も幽魔ではないと思っているよ。ただ、驚かせるだけとはいえこのままだと閉店作業も大変になりそうだね」
アルゼリオの問いかけに対しオーナーも少し困ったように返す。
「じゃあ、今夜は私と君で閉店後の店内を見回ってみようか」
オーナーの言葉にアルゼリオは頷くと立ち上がり、開店の準備をするのだった。
ハデスの営業は普段と変わらなく終わり、現在は閉店後の店内。店員は直ぐに帰宅させ、オーナーとアルゼリオだけが静まり返った店内の中にいた。既に店員の中には幽霊に瑞穂とウィルがやられたと噂が立っている為、二人は早めになんとかしなければと思っていた。
二人は店内を少しずつ見回っていく。スキルを駆使し魔力の流れなども見ているが今の所何も反応はなかった。だが、自動球魔道遊器の場所へ来た瞬間ホラー系の台に魔力が纏わりついているのを見つけた。その台を見ると映像にいきなり赤く血走った眼球が映り、役物のアンデットの手が落下した。
――キャアアアアアアアアアア!!
静まり返った店内に筐体から絶叫が響く。だが、気絶する者も悲鳴をあげる者もここにはいない。
オーナーは筐体に近づくと魔力の塊に手を翳す。すると魔力の塊だったものが徐々に輪郭を作り、幼女の幽霊が現れる。突然姿をかたどられ幽霊は驚き、その視線はキョロキョロとアルゼリオとオーナーを交互に見ていた。
「やぁ、私は訳あって名乗れないが一緒にいる彼はこの店の店長、アルゼリオだ。君の名前を聞かせてもらってもいいかな?」
屈みながらそう話すオーナー、相手が幼い姿をしているので口調も少し柔らかい。
「妾はレイコじゃ! 幼く見るでない仮面の男よ、妾は齢三百じゃ」
その言葉に今度は二人が驚く、明らかに見た目は幼女にしか見えない。
「おい、ババア。ここで毎夜何をしている」
幼女じゃないと聞き、威嚇するような口調で話すのはアルゼリオだ。得体の知れない幽霊に対し睨んでいる。
「ババアというでない!」
ムキーというように怒る幽霊。幼く見てもババアといっても怒る理不尽な奴らしい。
「それで? 何してたんだ」
無視して再度問いかけるアルゼリオ、まだ幽霊を睨みつけている。幽霊は少し言葉に詰まった後語りだした。
「妾は三百年前からこの地にある王城に居たのだが暇での。面白い店が出来たと現王子であるリオンが話しているのを聞いてやってきたのじゃ。それ以来閉店後に遊ばせてもらっておる」
要約すると暇だったから遊びに来たらしい。アルゼリオは頭を抱える。どうしてこの店には変な奴しか来ないのかと。
「ふむ、じゃあ閉店後遊んでも良いですよ。そのかわりに二つ約束してください」
「良いのかっ!」
オーナーが許可を出すと幽霊は直ぐに食い付いた。
「えぇ、じゃあ条件ですが一つ、店員を脅かさない事」
「わかったのじゃ!」
一つ目の条件に対し、即答する幽霊。元気な声で答え目をキラキラさせていた。
「二つ目、昼は私の元で働いてもらいましょう――そうですね、筐体に取りついて何かやってもらいましょうか」
その条件を告げるオーナーの声は実に楽しそうだった。アルゼリオはこの幽霊もやっかいな奴に目をつけられたなと心の底から思う。そんな声で話しかけられた幽霊は少しビクッとしながらも頷くのだった。
その後ハデスの店内には幽霊が住み着くことになる。そして筐体に取りつき、気分しだいでおかしなことをやる幽霊は予測が出来ず、占い師リオネを悩ませることになるのだった。




