第十一話 異世界転生者
ある日、叔父の屋敷へ辿り着き魔導学園に通うことになった異世界転生者。イルド=ビルメイクは朝からイライラしていた。広告に載っていた魔導遊技機専門店『ハデス』、その新装開店の日と魔導学園入学式の日が重なったからである。元の世界ではこういう風に宣伝されているでかいイベントというものは客に出玉を還元するものとして有名だ。もしかしたら自分以外にも異世界転生者がいて、こちらで遊技機店を作ったのかもしれない。そうならば高設定台や釘の甘い台等勝ちやすいイベントのはずだ。
考えれば考えるほど入学式をサボってでも行きたかった。特にイルドは辺境伯の息子とはいえあまり手持ちが無い。自分の能力を上げることしか興味なかったので、元の世界の知識を利用して何か商売するといった事をしていなかったのだ。
ただ、異世界転生者としてこちらに来て魔導学園入学とくれば女の子との出会いのチャンスでもある。その為ここ数日間入学式に行くべきか、サボるべきかを悩んでいた。それを周りから見ると、天才といわれたイルドが悩んでいることは珍しく、ココナからは特に心配されていた。
結局の所、入学式の方に参加することにして新装開店は終わり次第向かうということで落ち着いたのだ。
「イルド様――! イルド様――!! 入学式遅れてしまいますよー!」
扉がノックされると同時にココナの声が聞こえてくる。
「あぁ、今行くよ」
そう簡単に返すとイルドは魔導学園に向かうのだった。
時刻は昼、魔導学園の入学式が終わりイルドは教室で新しい友人と共に歓談をしていた。友人の殆どは女の子だ、頭の中には転生者イコールハーレムという図式が成り立っている。そんな中に男が一人。ネズミの獣人である、中吉だ。元いた世界でもなかなか見なかった名前だが、どこかのキャラに似ている気がしなくもない。マスコットの様な顔をしている。
そして受ける講義の内容を決め、新しく出来た友人達に用事があるのでまた今度と告げるとイルドはハデスへ向かうのだった。
十五時を過ぎたころカジノ区画に着いたイルドはあまりの人の多さに驚いていた。自分が住んでいた辺境とは比べるまでもなく、ここ数日間歩いて回った王都のどこよりも人が集まっている。元いた世界でも首都辺りに行かないとこんなに人が集まっているのは無いかもしれない。
人の合間を縫う様に歩き、ようやくハデスの目の前まで来てまたイルドは驚くことになる。ハデスの前は駐車スペースが広大にとられている。貴族が馬車等で来ることもあるためだ。だが、実際に停められているのは馬車もあるがドラゴン、グリフォン等辺境では見なかった魔物までいる。これを見てイルドは思う、明らかにこの店おかしいと。
転生者で幼いころから努力を積み重ね、魔法を使いこなせるイルドならドラゴンやグリフォン等の魔物は一対一ならギリギリ倒せるだろう。問題なのはこの光景を見て一般人が何も反応をしないということである。訪れる人達には、このスペースにドラゴンやグリフォン等がいるのがあたりまえ、誰かの従魔なんだろう、というぐらいの気の止め方である。
そんな店の外の光景を口をあけて数分見ていたが、誰も気にしていないので頭の片隅へ追いやることにした。
ハデスの中に入ると人がかなり多く、回胴式魔導遊技機も自動球魔道遊器も全台席が埋まっていた。台を見ていくと元の世界とさほど変わらない様だ。
(おいおい、あのデルスラとかいう台……思いっきり見たことあるぞ。しかもあの魔導少女サヤとかいう台、これ絶対異世界転生者が作っただろ!!)
ただ、その中でも見慣れない台もある。『ダンジョンブレイカー』や新台の『デル☆スラJP』だ。新台は元の世界になかった機能を搭載していたので興味がわいた。
だがそれよりも気になったのは自動球魔道遊器の方だ。魔力制御によって球をとばす機能。なるほど、異世界だなここはと感じられる。幼いころから魔力の制御に関しては努力してきたイルドはこれなら稼げるかもと思ってしまう。特に気になったのは、魔法を駆使して球をなんとか特定の入賞口に入れるという一発台みたいな自動球魔道遊器だ。是非一度は打ってみたい台である。
店内を一通り見回りながら、どこか打てる台は無いかと探したイルドだったがどこにも空き台が存在しない。見回すとほとんどの台が箱を使っており、そうとう強力なイベントだったようだ。
入学式と被ってしまった事実に若干苛立ちを覚えながら台を見回していくと気になる人を見つけた。その人は帽子を被り遮光用の眼鏡を装着し、背中から隠しきれない羽が飛び出た髪の長い女性の客だ。帽子は被っているが何故か少し宙に浮いており、少し発光している。明らかに見覚えがある人だ。
「ちょっとすいません」
イルドは間違っていたらその時だと思い声をかける。その女性客はイルドの方を振り返る。二人の視線がハデスの店内で交差した。その瞬間女性が立ち上がりどこかへ去ろうとする。
「おい、ちょっと待て!」
女性客の肩を掴みどこかへ行こうとするのを引き留めるイルド、その顔は若干引きつっていた。
「ひ、人違いです!!」
少しでも声色を変えようと声を発する女性客。だが、イルドは既に確信していた。
「なんであんたがここにいるんだよ! 女神リノ!!」
そう、ハデスにて変装しながら打っていた女性客、それはイルドをこの世界に転生させた神様であった。
「い、いえ……あの……これはですね、息抜きというか」
視線を宙に彷徨わせ、指をくるくると回しながらリノは答える。こんな人に俺は呼ばれたのかと少し落胆するイルド。転生させてくれた時はもっとキリッとしていかにも神様ですという後光が見えたのに……。ここにいる女神はお忍びで来ているアイドルぐらいに見えた。右手の平で目を覆い明らかに落胆しているイルドに向かって女神は告げる。
「か、加護を差し上げますので! 黙ってていただけたらな……と」
イルドはその言葉に対しため息をつく。世界をつかさどる女神の一人がこんなんでいいのかと。だが、女神の加護は恐らく強力だろう。黙っててと言われても誰に話しても信じてくれないし良いかもしれない。
「わかった。誰にも言わないので加護をくれ」
これで、もしかしたらここで勝てるようになるかも――。顔をにやけさせない様に必死に耐えながらイルドは加護を待つ。
「では行きますね」
リノの掌が光りだし、イルドに加護が――。
「魔法使ってんじゃねぇ!!」
どこからか走ってきたアルゼリオが女神を殴り飛ばした。どうやら女神の加護は付与魔法の一種らしい。女神を殴り飛ばすなんてなんて罰当たりな――。そう思ったイルドだったがアルゼリオの鬼のような形相に何も言えず直立不動で黙っていた。
「そっちの兄ちゃん大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですっ!」
気をつけの姿勢のまま出たのは慌てた言葉だった。通路の地面には倒れた女神がピクリとも動かない。
そしてアルゼリオは女神を摘みあげると入口の方へ去っていく。それをイルドは呆けながら見送るのだった。
女神がつまみ出されるという衝撃的な事実を見た後は数時間店内を見て回り、他人が遊技しているのを後ろから見たり、休憩コーナーで書物を読んだりしていた。激熱っぽい演出が発生した台を、後ろからベガ立ちして見ていたイルドは少し気味悪がられもした。
そして休憩コーナーにあった書物には何故か魔術の指南書があり、しかも魔導学園から配布された教本よりいろいろなことが書いてあり驚きもした。台には座れなかったもののハデスに来た時間は充実していたものといえる。他にも驚いた事がある、それは店員の能力値だ。転生したときに貰った観察眼を使いステータスを見ていたのだが、一介の店員でさえイルドに近い能力値を有していた。だが、客にもイルドの能力値を超えるものが多数いたため、そいつらを抑える意味でも必要な能力値なんだろうと納得する。――店長はステータスが読み取れなかったが……。
満足して帰路に着き、叔父の屋敷に到着したイルドをココナが出迎える。
「お帰りなさいイルド様! 遅かったですけど魔導学園はどうでしたか?」
まぶしいくらいの笑顔で質問してくるココナ。
「魔導学園より衝撃的な場所を見つけたよ……」
引きつった笑みで返すイルド。
「魔導遊技機専門店『ハデス』いったいあの店は何なんだ……」
屋敷の入り口でイルドはそう呟くのだった。
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