第十話 新装開店
魔導遊技機専門店『ハデス』の定休日も終わり、今日は人々が待ちに待った新装開店当日である。昨日の夜から寝袋を持って並んでいる人、日が昇る前に来て並び始める人、並び始めた人を見て自分もそろそろ並ばなきゃと来た人、様々な人がハデスの前には入り乱れていた。時刻は十時を周り先ほど整理券が配布されたようだ。今回リオン王子はこられないということなので、初の王様台抽選を整理券配布と共に行ったのだ。抽選の順番が回ってくると皆が祈りながらクジを引いていく。普段神様を信仰していない人もこういう時ばかりは神に祈るのが不思議である。
しばらくすると列の中で一際大きいどよめきが起こった。王様台に座れる人が決定したのだ。王様台に座れる人は先に座りたい機種を決められる。開店前に王様台に備え付けてある筐体と交換するためだ。さぁ、何に座るのか――当選者の周りにいる人は興味津々といった様子で筐体の名前が出るのを聞いていた。
「魔導少女サヤちゃん!!」
辺りに響く元気な声と萌台の名前――そう、王様台の当選者はケン。目立つ位置で萌台をやるという事、中々一般人には真似できない事だが彼には関係ない。ケンは魔導少女サヤしか座ってない生粋のオタクなのだから――。
今回の王様台に機種を設置するため、店内では店員が筐体を動かしていた。正直オリハルコンの筐体はかなり重い。店員が何人か集まって筋力強化の魔法を使いながら移動させていた。
「え? 魔導少女サヤなの? 今日の王様台」
王様台として指定された機種を聞いたウィルは少し驚いた様子で言う。
「何でもカジノ区画をいつも警備してくれている警備員が当選者らしいですよ」
ウィルの言葉に丁寧に返すのは主任のエマである。彼女は王様台の移動を店長から任されていた、数人の店員を連れ筐体の移動に来たのである。
「じゃあ当選者はケンさんか! 良いなぁ俺も高設定……いや、多分Ex設定になってる魔導少女サヤうちてぇ~」
筐体を見ながら羨ましがるウィル。一向に作業を進める気配はない。そんなウィルの首にエマの手と冷たい金属があたる。エマが愛用している暗器――角指だ。見た目は指輪なので誰も凶器とは気付かない。だが内側にはトゲが付いており、それを魔法で伸ばし首を跳ばすのが元暗殺者のエマの十八番である。
「口じゃなく手を動かしなさい。筐体の上にあなたの首が並ぶことになりますよ」
そんな声を聞いたウィルは背筋を伸ばし一言、はい! と告げると他の店員と共に筐体を移動していったのだった。
開店の時間を迎えたハデス。まず王様台に当選したケンが通され、後に整理券の順番で客が続く。ケンは早速席について銀貨をメダル貸出機に入れ、メダルを筐体に投入していた。
『サヤタァァァァァァァァイム!!』
開店したばかりで客が全て入り終えていない静かな店内にでかい音が響く。メダルを入れた瞬間鳴り響いた音、そして画面上に表示されている踊り狂うサヤ、明らかにメダルが増え続ける特殊な当たりに入っている。それを呆然と画面を見つめているケン、そして走ってくる店員。
「お客様が全員入っておりませんのでまだ遊ばないでください!」
そう注意されるケンであったが、あまりの出来事に聞こえていないようだった。
客が全員入り、開店を迎えたハデス。新装開店は大盛況だった。客の中には早く遊戯させろと目を血走らせた中毒者みたいな人もいる、定休日を挟みハデスが空いてなかったので特有の症状がでたのだろう。それは一部として、新しくなったハデスには休憩コーナーや食事処、占いの館まで完備されている。そちらを目当てに来た客もいるようだ。
休憩コーナーには椅子と机が設置されている。その近くには本棚があり、オーナーがどこからか集めてきた書物や魔導遊技機大全が並べられていた。書物は貴重なので持ち出し禁止の魔法がかけてある、万が一持ち出そうとした時は店内に音が鳴り響き店長がすぐに向かう事になっていた。また、近くには飲み物を販売する魔導具が置かれている。今回導入された会員カードをかざすと一日に一回無料で飲み物を提供してくれる機能がついていた。
食事処はオーナーがどこからか雇ってきた料理人レオンが仕切っており客に人気な様だ。ただレオンは暇になると店内を見回り、遊技機で遊ぶ人の後ろから見ていたりする。
そして占いの館だ。ここの一角だけハデスの華々しい雰囲気とは違い、禍々しい空間となっている。まるで教会の中に魔王城があるような雰囲気だ。中ではリオネと名乗る女性の占い師がいて商売をしている。的中率はかなり良いみたいだが結構な額を要求される。ただ、台の設定の事を聞くと魚人の形をした札であったり金銀銅などの色をした札を渡してくる。謎な店であった。
皆、思い思いの事をしていると賑やかな店内の中に一際大きいざわめきが起こった。新台で導入された『デル☆スラJP』の空間だ。
新台『デル☆スラJP』には新機能としてジャックポットシステムが追加されている。ビックボーナスを引くと大当たりと共にジャックポットの抽選がされ、外れの場合は『デル☆スラJP』が置かれた空間の真上に空中設置されたモニターに数字が足される。
そして見事ジャックポットに当選すると店内にアナウンスと音楽が鳴り、モニターに表示された数字がメダルとして払い出されるのだ。
ただ、当選された人だけに払い出されるわけではない。当選した人にはモニターに表示された数字の半分、残りの半分は『デル☆スラJP』を当選者が出たとき遊技していた他の客に均等に払い出される。つまり誰が当てても『デル☆スラJP』の空間で打っている客には得な仕様になっている。
今回試験的に導入されたのは十台、モニターに表示されてあったのは八千という数字であった。当選者は四千枚のメダルが出て、他の人には四百枚弱のメダルが払い出される。当選者の人には同じ台で打っていた人から称賛や感謝の声が飛んでいた。四千枚のメダルを獲得した当選者、サムは笑顔で周りの声に答えていた。
サムが周りの人と一緒に盛り上がっている中、王様台に当選したケンはひたすらにやけながら『魔導少女サヤ』を打っている。開店と同時に始まったサヤTIMEが止まらず出続けているのだ。既に自分の周りには箱が大量に積まれ、飲み物を買いに行くとき等は足元に注意しなければいけないぐらいだ。
時々一緒に来たサムが気になり、新台の方へ行くとサムが大量のメダルを出していた。周りの人と楽しそうに打っている。それを見届けた後、自分の台に戻り再度打ち始めた。時刻はもう十八時をまわっている。ここにきて終わってしまったサヤTIME、払い出されたメダルは二万を超えている。とりあえずせっかく王様台に座れたのだから閉店まで回そうと思い、打ち続けていると――プツン、画面がいきなりブラックアウトしレバーを押しても反応がしなくなった。一瞬店員を呼ぼうと思ったケン。だがそれは画面から出てきた映像に遮られる。いきなり『魔導少女サヤ』の名場面の映像が流れ始めたのだ――。
――ガシャン!
王様台の方から聞こえたその音に周囲の台で遊戯していた人は振り向いた。そして目を見開く様な光景を目撃する。それは周囲に置いた自分で出したメダルの箱を倒し、空いた空間で台に祈る様に土下座するケンだった。
「――ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
ケンは涙を流しながら台に対し拝んでいた。周囲の人は数十秒ほどその奇妙な光景を見ていたがやがて自分の台に向かい遊技を再開していく。周囲の人の目がなくなっても数分間ケンはそうし続けたのだった。
ジャックポットを満喫したサムは遊戯を辞め、メダルを新しくギルドカードに搭載させたハデスの会員カードに入れていた。王様台に座ったケンはどのぐらい出しているのかなと思いつつ向かうとそこには涙を流しながら遊戯するケンがいた。
周りにメダルが盛られた箱を大量に出しているのになんで泣いているのか、と思いながら画面を見ると見慣れない映像と見慣れない文字。――『神々の黄昏』準備中の画面が表示されていた。
「おいケン! ついに引いたのかよ今まで見たことの無いこのプレミア機能を!」
そう話しかけるもケンはうわごとの様にありがとうございますを繰り返すだけだった。――まぁいいか。サムは壊れてしまった同僚の事を頭から追い出し、一緒に演出を楽しむのだった。
閉店時間、客もまばらでほとんど残ってない店内で大量のメダルを集計し、来た時より笑顔になったケンがいた。出玉は三万枚を超えている。それを会員カードに入れてもらうとカウンターにと店員に勧められた。
カウンターまで行くと雑貨コーナーの奥にある扉をあけられる。投資と出玉の差枚で二万枚を超えた人しか案内されないらしい。その中にはメダルが二万枚を超えないと交換できない物――外の魔導具とは一線を画するアーティファクトと呼ばれる物が並べられていた。伝説級の品物に驚くサムとケンだが警備兵には過ぎた物とお勧めを断りハデスから退店するのだった。
閉店からしばらく経った後、ウィルは帰宅するためにハデスから出てきた。もう夜も更けている。そんなウィルに声がかかった。
「よぉウィル! 待ってたぜ、これから龍も来るんだが一緒に飲みに行かないか?」
そう誘ったのはサムだ。サムとケンは閉店時間過ぎるとウィルが帰るのを二人で待っていたのだ。
「え!? 今日盛大に出してた二人の奢りですか!?」
ちょっとしたサプライズにウィルも少し驚きつつも嬉しそうだった。
「まぁ二人であれだけ出したからな……ケンはまだあんな状態だが……」
顔が戻らないらしくまだニヤニヤしているケン。とても幸せそうな状態で意識が朦朧としているみたいだ、完全に怪しげな薬を使っている人である。
「あ! たしか引いたんですよね『神々の黄昏』その話も聞かせてくださいよ!」
目を輝かせ食い付くウィル、魔導少女サヤのファンとして一度は見たかったらしい。そんな話をしていると清龍も合流する。
「じゃあ、飲みに行くか!」
誰かが言ったその声は夜の空へ消えていく。そして四人は夜の街へ歩き出すのだった。




