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エレナたちはゾフィーとギルベルトとの会話を終え、ゾフィーの部屋を出た。城の中を歩くうちに、エレナはちょっと用を足したくなったため、それ専用の部屋へ案内された。その部屋はその目的とはまったく乖離しているほど豪華な装飾が施された空間で、大きな窓から爽やかな空気が流れ込んでいた。エレナはベガのお城のこだわりに驚いた。


エレナが用を済まし部屋を出ようとした瞬間、一人の女が突如横から姿を現して「エレナ様」とつぶやくように声をかけた。その女はヴァレンタイン家の忍びで、カナエという名前だった。


驚きのあまりびくっと仰け反ったエレナは、部屋の外に声が漏れないように注意しながら「カナエ!? どうしてここに?」と訊いた。


カナエは、身長がやや低めで線の細い身体つきをしている。髪は長く、夜の闇に紛れるような漆黒に染められており、後ろでまとめられていた。彼女の目は、濃い茶色で、切れ長で知的な印象を与える。顔立ちは繊細で美しいが、その美しさは影の中に潜む者特有の暗さを帯びていた。エレナの目の前に現れたカナエは城の給仕係の格好をしており、そのポケットには忍びの道具が隠されていた。カナエの動作は猫のように静かで滑らかで、エレナも気づかないほどだった。


カナエは低く小さな声で「わたしのほうこそ驚きました。最初エレナ様の姿を見たとき、ベガ王国に拉致されたのかと思いました。そういうわけではなさそうで、安心しました」と言った後、「ご主人様(ダスタン・ヴァレンタイン、エレナの父親)の命令で、あの事件の日の夜から潜入しておりました。ソラとサミュエル様を助けるためです。彼らは地下牢に囚われていますが、まだ救出できておりません」と報告した。


「本当に!? ソラとサミュエルは無事なの!?」


「はい。彼らは食料を与えられており、それなりに持ちこたえているようです」


一連の事件はベガが暗躍している。これが疑惑から確信へと変わったエレナは、こうしてベガを訪れている機会に、なんとしてでもソラとサミュエルを救って帰らねばならないと考えた。


「やっぱり……ここで囚われているのね。ちょうどよかったわ。私も協力する。だけど、どうすればいい?」エレナはカナエに尋ねた。


「地下牢は厳重な警備が敷かれており、見張りが多くいます。手薄になるのは真夜中の交代時くらいですが、今晩は特に好機と捉えております。バナームの使節を招いた晩餐会が行われる予定なので、おそらく今までで一番侵入しやすいのではないかと」


エレナは、同盟交渉が決裂するだろうから、歓迎ムードの晩餐会にはならないだろうと想像しつつも、ソラとサミュエルを救出するための最善の機会だと強く感じた。


「時間はそのタイミングでいいとして……具体的な方法はどうしようか? 鍵を手に入れる方法は? 脱出ルートも見つけなくてはね」


カナエは心苦しそうな顔で答えた。「鍵の複製は成功しましたが、やはり彼らを救出するには戦いを避けられないでしょう。わたしたち忍びは三人いるのですが、強行突破するには心許ない人数です。しかし、エレナ様がお手伝いしてくださるなら、可能性が上がります。……本来はお願いできる立場にはありませんが……どうかご検討を……」


エレナはそのとき、ゾフィーの顔が浮かんだ。彼女のやさしい瞳と同情に満ちた態度から、今回の誘拐に関しても、彼女なら我々に手を貸してくれるかもしれないと直感した。


エレナは「ゾフィーの部屋に戻って相談してみるわね。剣を使わずに救い出す方法もあるかもしれない」と言いながら、笑顔でカナエを励ました。


カナエはエレナが救出計画に参加することになり、その力を借りられることに安堵した。忍びの間でも、エレナが持つ勇敢さや決断力、そして何よりも戦闘能力の高さが支持されていた。「かしこまりました。また折を見てエレナ様にお声掛け致します」と言うやいなや、一瞬で姿を消した。


部屋を出たエレナは案内係に「さっきゾフィー様の部屋に忘れ物をしてしまったので、取りに帰ります」と告げた。それを聞いたサリーはエレナの耳元で「どうなさったのですか?」と訝しげな表情で訊いた。エレナは、カナエが潜入していたことやソラとサミュエルが地下牢にいることをサリーにささやいて説明した。サリーはその事実に驚き、闘志に燃え、「絶対に助けましょうね」と言った。

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