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19

ギルベルトは荒ぶったゾフィーと彼女を止めるエレナを見ながら、そばにある椅子に深く腰をかけた。彼は親指の腹でこめかみを押しながら、思案を巡らせ始めた。目を細め、唇をかんで悔しそうにうつむいた。彼の顔には、不承不承に受け入れざるを得ない現実への憤りが浮かんでいた。


しばらく沈黙が続いた後、彼はようやく言葉を放った。王族に楯突くことはできない、といった諦めの色を含んで。


「わかりました、ゾフィー様。同盟を結ぶべきだというわたしの考えは変わりませんが、ゾフィー様の望む通りに進めましょう」ギルベルトがこう言ったとき、彼の声は鼻にかかり、言葉に重みがあまりなかった。


彼は目を見開き、空気を一気に吸い込んだ。それから、片手で額にかかる前髪をかきあげながら、エレナとサリーの存在に触れた。彼の瞳は鋭く光り、彼女たちに対する不信感を隠そうともしなかった。


「ちなみに……ゾフィー様とバゼル様が結ばれる保証は、一体どこにあるのでしょうか?」彼は不機嫌そうに言った。「そもそもバゼル様はこの場におりませんし、真偽のほどがわかりません。そこにいらっしゃるウィステリアの二人が保証してくれるんですか? まったく先が読めませんよ」


エレナはここまでのやり取りを見ていて、ゾフィーとギルベルトが親しい関係にあることを察した。彼以外の人間は、ただうつむいている、あるいは見たくないものを薄目で見ている雰囲気だった。


エレナは落ち着いた口調で、「もちろんまだバゼルには知らせていないわ。でも、必ず私が何とかしてみせる。エレナ・ヴァレンタインの名にかけて」と力強く誓った。それに対し、ギルベルトは胡散臭そうな目でエレナを見つめ、「ふん!」と鼻を鳴らし、「どうなっても知りませんよ」とゾフィーへ顔を向けた。


ゾフィーは不服そうなギルベルトに向かって、「わかってくれて嬉しいわ。あなたはいつも、私の幸せを考えてくれるものね。感謝してるから」と言って微笑んだ。


しかし、ギルベルトはそれには応えず、ただ窓の外へ目をやっていた。少しすると表情を和らげ「あの、ゾフィー様。わたしが反対していたのは、まず第一にゾフィー様の安全を考えてのことです。何も個人的な意見はありません。どうかお許し下さい」と、少し恐縮そうに付け加えた。


ゾフィーはエレナとサリーに視線を向け、一度深呼吸した。その後、彼女はふと思い立ち、エレナとサリーにギルベルトの妻について話すことにした。


「ちなみに、ギルベルトの奥様は、ウィステリア出身なの。ウィステリアの北を領地として治める、ノーザーン伯爵家があるでしょ? あそこによく出入りしている商人ジョルジュの娘なのよ。だから、実はギルベルトはウィステリアに対しても愛着があるのよ」とゾフィーは笑顔で告げた。


しかし、その言葉にギルベルトは少し焦るようにして「今は妻の話はしなくていいでしょう」と言った。


エレナは、ゾフィーが教えてくれた事実に驚いたが、同時に心の中で微妙な気持ちになった。なぜなら、彼女の家であるヴァレンタイン家は、ノーザーン伯爵家とは仲が悪い。エレナにいたっては、ノーザーンの人々を「北の野蛮なやつら」と呼んでいる始末である。


ゾフィーはギルベルトがウィステリアに対して愛着があるという事実を伝えることで、エレナに気を遣ったつもりでいたが、逆にエレナはギルベルトがノーザーン家と近しいことを知り、困惑した。


エレナは両家の事情を知らないゾフィーに対して、どのような反応をすべきか迷った。慎重に言葉を選んで、微笑んで答えた。


「そうだったのね……。ギルベルト様がウィステリアに愛着を持っていることは嬉しいわ。ただ、ちょっとした問題があって……実は私の家、ヴァレンタイン家は、ノーザーン伯爵家と仲が良くないのよ」


エレナのこの飾らない発言を聞き、ギルベルトはぷっと吹き出し「エレナ様のおっしゃるとおりなんですよ、ゾフィー様。ヴァレンタイン家とノーザーン家は、互いに陰で悪く言い合っています」とおかしそうにゾフィーを見て笑った。


ゾフィーは驚いて「そうだったの? 失礼、知らなかったわ」と苦笑しながら謝った。


ギルベルトはゾフィーの表情を見て、一度緩めた口元を引き締めた後、話を本題に戻した。


「いずれにせよ……申し訳ありませんが、ウィステリアの二人がこの部屋にいることには抵抗があります。この交渉は、バナームとベガの問題ですから」


ギルベルトはこれを言い終わると、自分の主張が通るかどうかを探るように、周囲の人間の反応をうかがった。部屋にはバナームの使節団の主要メンバーらしき者たちが、ギルベルトの他に5人、ソファーや椅子に座っていた。彼らはどちらかというと消極的に、ただゾフィーとギルベルトの議論を見守っていただけだった。どこか心ここにあらずといった様子で、壁にかかった絵画や窓の外の景色に視線をやる者もいた。


エレナはそんな彼らを見て、この人たちの存在意義と、彼らがゾフィーとギルベルトにどのような支持をしているのか、疑問に感じた。エレナはバナームという王国の背後に何らかの大きな問題があるのではないかと思い始めていた。


ゾフィーは目を伏せ、心苦しそうに言った。


「エレナ、サリー、せっかく来てもらって悪いんだけど……お引取り願えるかしら。ごめんね」


エレナとサリーはゾフィーの言葉に従い、二人ともうなずいた。

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