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兵士たちの足音が少しずつ遠ざかる中、サリーは小さな明かりの灯る宿を見つけた。
「あそこに、宿があります。泊まれそうですよ」とサリーが指し示すと、エレナはゾフィーに視線を移した。
「ゾフィーはどうする? 今晩は私たちと一緒に泊まる?」
ゾフィーはエレナとサリーの顔を交互に見つめながら、深く考え込んだ。ゾフィーは兵士たちから逃げるために無理をしてきたし、ずっと姿をくらましているわけにもいかなかった。バナームの王女がベガで本当に行方不明になってしまえば、それこそ戦争の火種となりかねない。
宿の玄関口で、ゾフィーは寂しげな表情をしつつ、兵士たちの足音が消える方向に視線を送った。
「ありがとう、エレナ、サリー。でも、今夜はあなたたちと一緒に泊まるわけにはいかないわ。わたしがいると、あなたたちの安全が脅かされるかもしれない。わたしは城へ帰るわ。明日の朝、この宿に使いを送るから、そうしたら、城まで来てほしい」ゾフィーは切実な眼差しで頼んだ。
エレナはゾフィーが一人で戻ることに懸念を感じたが、彼女の決意を理解し、うなずいた。自分たちが明日、国どうしの関係を変えるほどのことを行うのだと思うと、個人の感情に浸ってしまうのは、その重要な使命に見合わないような気がした。
「わかった。でも、無茶はしないでね。明日の朝、必ず行くから」とエレナは約束した。
サリーもエレナに同調し、「ゾフィー様、どうかお気をつけて。わたしも非力ながら、お二人を助け……たいのですが」と言い、戸惑いながらマフラーを取った。ゾフィーに首筋の焼印を見せ、「わたしは城には入れません」と沈んだ顔で言った。
ゾフィーはサリーに刻まれたベガ王国奴隷の焼印を目にし、その痛々しい跡に一瞬憐れみの表情を浮かべたが、「まったく問題ないわ。バナームの正式な衣装に、マフラーがあるの。わたしの従者もみんなマフラーをつけて、明日の交渉の場に臨むわ。こんなやつよ」と笑顔で言うと、腰元からマフラーを取り出した。
「これで、大丈夫ね。差し上げるわ」
ゾフィーはサリーに優しくマフラーを巻いてあげた。焦茶色と濃い紅色が規則的に編み込まれたシルクの織物は、サリーを華やかに着飾らせた。宿から漏れる柔らかな灯りが、マフラーの美しい模様をほんのりと照らし出し、それに伴いサリーの表情も明るくなった。
サリーはマフラーの手触りを喜んだが、はっとして手を離し、「いえ、やはりこのような高価なものを頂くわけには……」と遠慮しようとした。しかしゾフィーは笑顔でサリーの両肩をぽんぽんと叩き、「必要経費よ。明日を成功させるためなんだから、よろしく頼むわよ!」と力強く言った。そのとき、ゾフィーとエレナは深い視線を交わし合い、互いの信頼を確認した。
ゾフィーはサリーの肩から手を離すと、「ありがとう、二人とも。力を合わせて、明日の交渉に臨みましょう。バナームはベガとではなく、ウィステリアと組みます」と宣言するように言った。
ゾフィーにも不安がないわけではなかった。明日、万が一にもベガに過剰な圧力をかけられたらと思うと、身震いがした。しかし、ゾフィーはそんな不安よりももっと大きな希望を抱いていた。エレナと出会えて、バゼルと結婚できる未来がわずかに見えた。今まで見えなかった運命のしっぽが、おぼろげながら姿を現した。それを掴める立場にいるのだと思うと、むしろ自分の欲望を叶えられるような国をこそ造っていこうと燃えるのだった。
ゾフィーはエレナを抱きしめ、次にサリーを抱きしめた。そして別れを告げ、決意のこもった表情で、一歩一歩確かな足取りで立ち去った。その颯爽とした後ろ姿は、二人の心に深く刻まれた。
宿は古びた木造りの建物で、温かな灯りが窓から漏れていた。疲れ切った足取りで、エレナとサリーは戸口をくぐった。まだ消えぬ緊張感を抱えながら、彼女たちは受付の老婆に苦笑いを浮かべながら宿泊料を支払い、鍵を受け取った。老婆は旅人に関心がなく、ただ事務的に手続きを行った。
階段を上がり、部屋のドアを開けると、シンプルなベッドが二つ置かれていた。部屋は狭く、壁には古ぼけた絵がかかっていた。エレナとサリーはベッドに身体を沈め、重たい瞼を閉じようとしたが、明日への不安と期待が交錯する心境に揺れていた。疲れた身体を休めるために目を閉じようとするも、どうしても心の中の思いが収まらず、彼女たちは時々天井を見つめ、サウスブルクの他愛もない思い出話をするのだった。




