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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter2 世紀末クライシス
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2.退屈な平成は昨日まで -1-

空港の駐車場に車を入れる。

どうせ、今の世界に猶予なんてないんだし、車いすマークの駐車場に頭から突っ込ませて止めると、エンジンを切って外に出た。


何時ものようにレンを左隣に引き連れて、広い空港に足を踏み入れる。


「到着ロビーは?」

「2階!」


似たような作りをしているせいで、一瞬方向が分からなくなるが、レンに手を引かれた方へと足を進める。


「古傷が痛いんだけど」

「今言うかそれ?」


適当にお道化て見せると、レンは緊張を少し緩ませて言った。

走りながら、コートの内側から拳銃を取り出すと、ポケットに入れていた消音器を銃口に取り付ける。


「レンも、これつけといて」

「サイレンサー?」

「そういうの?」

「ゲームじゃそう言ってた」


私と同じように、私が使っていた拳銃を取り出したレンも、ポケットから黒い筒状の物を取りだして銃口に取り付けた。

それから、ホルスターを銃の後ろにくっつける。


「あの人か?」


平日の夕方の空港。

そんなに混んでいない中を駆けていき、目的の1番出口に近づいている。

遠くには、私達のことを見つけたのか、手を振っている男が見えた。


「パラレルキーパー?」


男のところまでかけていくと、そう言ってから乱れた呼吸を整える。


「ああ、悪いな。守ってやれなくて」


男は、パッと見はただの一般人だった。

手に持った拳銃さえ見なければ、だが。


「仕方がないよ、首尾はどうなってるの?」

「奥から異世界人の反応だ。俺らの別動隊はすでに滑走路側に出ている連中を掃除してる。こっちの商業用通路は俺らの仕事だ。レコードじゃ、この奥にはもうこの世界の人間はいない」


そういいながら、男は背を預けていた扉に振り返り、扉を開けた。

関係者以外立ち入り禁止…そう書かれた扉の向こうは、煌びやかな空港の清潔さとはうって変わって、暗く、淀んだ空気が立ち込めている。


「そう、でもあなたはここで待ってて。私達の仲間があと4人来るから」


私は中に入ろうとした男の肩を掴んでそういうと、レンの手を引いて中に入った。


「……そうか、いいのか?」

「この前のカーチェイスに比べればずっとまし」


そう言って、銃の安全装置を切ったとき、背後から声がかかる。


「もしかして君、平岸レナか?」


そういわれた私は、一度振り返って、コクリと頷くと、先を急いだ。


「レンは私の後ろ。何回死ぬんだろうね?」

「慣れたくないね。あの感覚には」


そう軽口を叩きながら、静寂に包まれた通路を進んでいく。

台車2台分くらいの狭い通路をしばらく進むと、車が入ってこられそうな広い通路に出る。


小走りをやめ、2人で並んで歩く。

その奥は2手に分かれて、壁には黄色いペンキでA-1、B-1と書かれていた。


「レナ、どう分かれ…」

「シ!」


分かれ道までもう少し、といった所で私はレンの手を取って壁際に移動した。

鉄筋の太い柱が、私達の体を隠す。


「来てる来てる。聞こえる?」


レンの顔を近くに持ってきて、小声で言った。

レンは小さく頷く。

私はレンの顔を見てニヤリと口元だけを笑わせると、音の方へと振り返った。


腕力のない私の腕でも保持しやすい、軽い拳銃の銃口をゆっくりと、分かれ道の一方に向けた。


足音は大きくなり、その音はゆっくりとしたものから、駆けだす足音に変わる。


分かれ道の壁に、黒い影が蠢いた。


その1人目が、パッと通路に飛び出てくる。


先陣を切った男がこちらに駆けだしてきて…暗い柱の陰から私の持つ銃の銃口が黒光りしているのを見つけた瞬間。


私はゆっくりと引き金を引く。

人差し指を動かす瞬間、男の驚愕した表情がハッキリと瞳に映し出された。


「くそ!もう奴らが来てるぞ!」

「押し返せ押し返せ!まだ数は少ない!」


ブワッと頭に血飛沫が舞って、転ぶように地に伏せた男。

蠢く影は一気に止まり、男たちの叫ぶ声が聞こえた。


「レン、あっちの角は私がやるね。もう一方の方は任せたよ」


ゆっくりと、柱の陰から体を出すと、後ろにいるレンにそう言って通路を歩いていく。


男が持っていた銃を一瞬見降ろして…拾い上げる。

何時か使ったことがある、大きく湾曲した弾倉のマシンガン。


拳銃を仕舞って、拾い上げたそれを持って一番下だったセレクターレバーをカチっと一段引き上げた。


やがて、分かれ道に浮かぶ影が、ゆっくりと動き出した。


それを見て、ふーっとため息を吐くと、両手で持ったライフル銃を一度見降ろして、少しだけ気を吐いて駆けだした。


「うわ!」


曲がり角まで走って、銃口を通路に向けながら分かれ道を右に折れる。

男の声と、目前に見えた大柄な男の驚いた顔を見た瞬間に左手の人差し指を引き抜いた。


けたたましい音とともに、目の前にいた男に風穴が空いていく。

狭い通路、私達の襲来がまだだと踏んだのか、ご丁寧に並んでいた男たちは、30発弱しかないライフル弾に撃ちぬかれていった。


手に持ったライフルを撃ち切るまでの数秒。

それだけで、目の前はクリアな視界が開ける。

下を見れば…人間だった何かがいるが、気にしないに限るだろう。


「…ぐ……B班!…こっちは全員」


弾の尽きたライフルを捨てて、再び消音器のついた拳銃を抜く。


既に死体だけだと思っていたが…列の一番後ろにいた男が、血だらけになりながらも、虫の息といった状態で這いずっていた。


「ああ!…」

「どうかしたのか?おい?」

「無理だ!もう向こうにパラレルキーパーが出てる!場所を変えるしかない!」

「変えるってどうやって!?向こうに行けば別の…くそ!こっちにも来た!撃て撃て!…うわぁぁぁぁ!」

 ・

 ・


彼が持った無線機から、男たちの怒号が聞こえ…やがて悲鳴に変わって消えていく。

私はそれを聞くと、男が手に持った無線機を足で蹴り飛ばした。


「……」

「何だ死んでるの…」


既に動かない男。

私はそれを見て何も言わず、頭に銃口を向けると引き金を引いた。


カシュ!っという、先ほどの銃声に比べれば、随分と弱弱しい音を立てて弾が飛び出る。


「残念。捨て駒はヒーローになれないのさ」


足元に血が飛び散ったが、気にせずに先に進んだ。


狭い商業用通路を歩いていく。

偶に会社名の入ったプレートのかかる扉があり、それを逐一開けて中を見て回る。


どうやら空港のお店に置いておく商品の保管庫のようだった。


段ボール箱が積まれた部屋。

1つしかない机の上には伝票らしき紙切れの束。

空港内では、ちょっと買ってもいいかもって思うものでも、ここで見ると放置された廃棄物のようにしか見えない。


4.5箇所の扉を開けて、同じように銃口を室内に向けて通路に戻る。

カツカツと足音の響く通路を進み切ると、上の方に続くエレベーターが見えた。

その横には、左に折れて、別の場所につながる通路がある。


私はエレベーターの前まで切ると、そーっと曲がった先の方へと顔を出した。

誰もいないのを見てから、エレベーターの方を見る。

ここは1階。見ると、下にも下がれるし、上にも行ける。

適当に、下行きのスイッチを押してエレベーターを呼び出した。


誰も使っていなかったらしく、すぐに下の階から上がって来たエレベーターの扉が開く。

体を開いた扉が閉まらないように押し当てて中のスイッチを見る。

B1,1,2,3……地下に1階地上に3階……


それを見た私は、もう一度周囲を見回してから考え込む。


上に行く選択肢は、正直言ってない。

というのも、記憶が正しければ…通って来た通路部分や保管庫の上の階…2階や3階は何かがあったはずだからだ。だから、行ってもすぐに空港の中に繋がってしまう。


空港で事を起こすならとっくに2,3階に上がって何かしでかしてるのだろうが…1階から来るってことは何か別の意図があるということだ。


ならこのまま地下に降りるか、通路の先に進むか…私は少し悩んだ後で、エレベーターに乗り込み、B1のスイッチを押した。


まだ2発しか撃っていない銃。

スライドを少し引いて、薬室に弾があるかを見て、ふっと息を吐く。


すぐに地下に着いたエレベーターの扉が、ゆっくりと開く。

すると、目の前に広がったのは、先ほどの通路と保管庫をさらに大きく広くしたような光景だった。


車が通れる通路も完備されている。

ここを、トラックなどが通り…目的地の近くにある駐車場に止めて物を出すのだろう。

薄暗く、蛍光灯の明かりしかない場所だが……きっとまともな状態だったら、ここには人がチラホラと見えるはずだ。


今はもぬけの殻のように誰もいない、広い通路に歩き出す。

死角になりそうな部分を潰しながら、柱から柱…柱から、何かの積み荷…という風に、少し走っては隠れて…と繰り返して進んでいく。


静寂に包まれた空間には、私が動く時の足音しか響かなかった。


エレベーターから少し進んだ場所にある、大きな柱に寄り掛かった私は、言われていた数に比べての人の少なさに、少し違和感を覚える。


レンに任せた方に沢山いたのだろうか……?

それならそれで…彼は大丈夫だろうか?


そう思いながら、ゆっくりと柱から、次の場所まで動こうとした時。

私はパッと柱に背中を押し付けた。


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