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レコードによると  作者: 朝倉春彦
Chapter2 世紀末クライシス

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2.退屈な平成は昨日まで -2-

柱の奥の、重そうな扉が開く音がする。

その直後、私が隠れている柱の、すぐ目の前の扉の取っ手がゆっくりと動いた。


逃げ場がない私は、背中に嫌な汗を感じながら、目の前の扉の方に銃口を向ける。


重たそうな扉はがゆっくりと開くと、中には数人の男女が見えた。

暗がりで顔はよく見えないが…蛍光灯に照らされた体を見る限り武装はしていない。


「どこなの?ここ…あの装置も、うまく動いたのかな?」

「知るかよ、でも奴らから逃げるには…って、装置だけは持っとけよ。あそこに置きっぱなしにするもんじゃないからな」


そういいながら出てくる若い男女。


「兎に角…誰か見つけて…うぉ!」

「何…え…」


彼らは、銃を向けた私を見つけると、一様に驚いた様子を見せる。


「貴方達、どこから来たの?」


私もほんの少し驚きながら、それでも銃口を一番目に出てきた男に向けて言った。


「なんでこんな子供が?」


銃口を向けた男の、後ろに立ったキャバそうな女の声にピクッと反応する。


「シ!…あの、俺ら…空港に遊びに来てただけなんすけど、なぜか気づいたらここにいて…ハハ…」


その様子に気づいた男は手で彼女を制すると、銃口が向いている手前、ちょっと怯えた様子で言った。


「ねぇ、どうせエアガンでしょ?」


私がじっと見つめて、色々考えながら様子を見ている間。

ボソッと聞こえた女の声。


前にいる連中からは、この世界の人間である空気感を感じない。

色々と、聞きたいことはあったが、その前に1人くらい消えても変わらないだろう。


そう思って引き金にかけた指に力を込めた時、右の方からの轟音が聞こえて、意識を吹き飛ばした。


 

「おい、どうするんだ?この女、パラレルキーパーだろ?すぐに起き上がってくるぞ」

「縛っとけばいいんじゃねぇの?パラレルキーパーとて人間だぜ、ましてこんなちっこいのに何が」


暗い底から意識を取り戻した私は、バラバラになった体を再構成させていく。


視界はまだ戻らないが、少し遠くで、隣の部屋から出てきた連中と、私が銃を向けていた連中が何かを話合っていた。


「上は?」

「ダメだ。連絡がつかない」

「そんな!じゃあどこに?」

「地下から出てくしかないだろうな…ここは搬送用の地下通路。ほとんど外だから、すぐ出れるはずだ」


彼らは、上半身がバラバラに吹き飛んだ私のことなど、きっと見てすらいないのだろう。

冷たいコンクリートに飛び散った破片と、血液が徐々に一か所に集まっていく。


「だけど今は時間がない、こんな小娘放っておいて…」

「ねぇ、見て…あれ!」


暗い通路にいる男女の声が、ただの話し声から、恐怖の色が混じった声になったとき。

まだ、血が戻り切っていないが…ゆっくりと立ち上がった私は口元にだけ小さな笑みを浮かべて目を開けた。


「パラレルキーパーじゃ……ないんだよね」


散弾銃で開いた風穴に血を取り込んでいって、傷口がふさがる。

バラバラになった服も、壊れてしまった拳銃も気づけば元通りだ。


「もう、貴方達のことはバレてるのさ」


そう言って、唯一、長い散弾銃を持った男に銃口を向ける。

彼らは一様に、凄惨な死体から復活を遂げた私を見て言葉を失っていた。


そんな中、私は何時もの動作で、引き金を引く。

額…とまではいかなかったが、顔面に銃弾を受けた男はドサッと音を立てて崩れ落ちた。


「さて…どうする?誰か、そのショットガンを持つ勇気のある人、いるかしら?」


暗がりの中を、ゆっくりと歩いてい近づいていく。

身を縮こませた彼らを驚かせようと、1発、すぐ近くの蛍光灯を撃ち抜いて見せる。

何人かが腰を抜かして地面に崩れ落ちる。


「ふー…時間は無駄にしたくはないんだ。私は2つだけ、知りたいことがある」


そう言って、腰を抜かした3人の女と、1人の若い男を撃ち抜く。

残った5人は、膝が笑ってしまっていた。

逃げないといけないと思いながらも、体が動かない。そんな感じだ。


スライドが開きっぱなしになった拳銃から、弾倉を抜いて、差し替える。

そんなことをして隙を見せても、彼らはじりじりと後退するだけで、襲い掛かってはこなかった。


「さっきは随分と小娘とか言ってたのに、こうなるとはね。まぁいい。貴方達がここに来た理由と、どうやってあの部屋から出てきたかを知ることができれば、用はないんだから」


そう言って、彼らに向けた銃を下ろして、肩を竦めて見せる。


「あの部屋から出てきたとき、そこに転がってる彼女だったかが言ってたじゃない。"装置"って。その"装置"とやらを見せてほしいんだけどね」


そう言って、一歩近づく。

彼らは一歩後に引いた。


私は、私よりも背の高い一団を見上げるようにして首を傾げる。

ふーっとため息を吐くと、下ろしていた銃口を適当な男に向けて引き金を引いた。


「!」

「ま、漁れば出てくるか…」


まるで徒競走の合図が鳴った時のよう。

消音器のくぐもった音が聞こえて、一人の男が散った瞬間。

周囲にいた残り4人は体を震わせながら振り返って、駆けだした。


「……やれやれ」


私は焦らずに、冷静に、照準を合わせて、1発1発撃っていく。

そんなに時間はかからずに、4人は道路に転がり落ちた。


「榎田さん、そういえばこの銃は威力ないって言ってたっけ……」


撃った4人のうち、唯一腹部に弾が当たった男が、うずくまって悶え苦しんでいる。

後の3人は、頭部と首元を撃ち抜いたおかげで、もう息はしていない。


カツカツと足音を鳴らしながら、一番遠くまで逃げて撃たれた男の傍に向かう。

右足で男を蹴って転がして、銃口を顔に合わせた。


「ひ!」

「この世を出ていく汽車に乗る前に教えてよ。装置は誰が持ってたの?」

「……女だ!…だけど、もう…効果は…ああ!」

「そ、十分」


そう言って、目を見開いた男の顔に、銃弾を撃ち込んだ。

2つ目の弾倉も、これで6発目。

せっかくだからと、もう一発心臓に撃ち込んで、弾倉を空にする。


また弾倉を入れ替えてスライドを戻す。

コートの中に、拳銃を入れた。


転がる死体の中から、女の死体を手あたり次第に蹴って、弄り、何か持っていないか確認して回る。


彼女たちは、本当にただの一般人のようで、財布に携帯に…と、世間一般の女が持つようなものしか持っていなさそうだった。最後の1人を除いては…だが。


最後の女の亡骸からは、財布や携帯、煙草の箱以外にも、いくつかの物が出てくる。


私の持つ銃と同じくらい小柄で、似た形をした拳銃と、その弾薬がバラバラに何発か…

そして、最後に殺した男が、彼の最期に放った言葉の通り、手のひらサイズの機械。


拳銃をそのまま放置して、出てきた機械を手に取る。

2015年あたりなら作れそうな、小型液晶モニターがついた変な立方体。

電源が付きっぱなしで、青白く光ったモニターには"1999年4月21日"と表示されていた。

右上のバッテリーマークは、もう残量が残っていないことを示していて、点滅している。


「レナ!」


手に持った装置の電源が落ちた時、私の耳に部長の声が入ってきた。

ゆっくりと、声の方に振り返る。

部長と、知らない男3人がこっちに駆けてきた。


「これは……死んでる?」


部長の横にいた男が、倒れた死体を見て呟く。


「レナがやったんでしょ?お疲れ様」


部長は、少し苦い表情を浮かべて言った。


「お疲れ様です。その人たちは?」

「芹沢の部下よ。パラレルキーパー」

「そうですか……で、ほかのところはどうです?」

「OK…皆も上手くやったみたい。ここは収まったわ」

「ここは…?」

「他のところは…まだ連絡が来てないのよ」


そういう部長は、私が両手に持ったものに目を落とす。


「ああ…彼らを殺す前に"装置が…"って色々言ってたのですが…これのことみたいです。何の装置なのかは、彼らも分かってないみたいでしたね」


そう言って部長に装置を渡した。

彼らは何の装置なのか知っていたのだろうが…その前に殺したから…ちょっと誤魔化す。


「聞く前に殺したんでしょう?」

「まさか、必死に首を振られましたよ」


部長はすべてお見通しらしい。

私は肩を竦めて言った。


「さ、レナ、とりあえずここの処理は彼らに任せて戻りましょう」


部長は一瞬、ジトっとした目で私を見ると、同じように肩を竦めて言う。

パラレルキーパーの人に一声かけると、私は部長の横に並んできた道を引き返した。


「ここが落ち着いても、他のところでヘマをやらかせば…どうなるんでしょうね?」

「知らないうちにこの世が消えて、消えられない私達は時空の狭間で永遠に…かな?」


歩きながら言ったことに、部長が返してくれる。


「誰にも会えずに?」

「誰にも会えずに。永遠にね」


エレベーターまで歩いてきてスイッチを押した。


「結局、彼らはこの前の1件と同じように、混ざり込むつもりだったのね」


スイッチを押した後、部長が手に持った機械を見ながら言った。


「と、いうと?」


私が聞き返したタイミングでエレベーターが降りてきて、扉が開いた。

中に入り、1Fのスイッチを押して上に上がる。


「この前も、レコードを紐解いてたら、今日この瞬間に、同じように入ってきて、難なく彼らはこの世界と同化していったのよ」


そこまで言って、エレベーターが止まり、扉が開く。

薄暗い通路に出ると、部長は私に機械を返した。


「きっとこれは並行世界転移装置ってところね。俊哲が褒めてくれるわきっと」

「……そうですか、でもなんで当時は勘づかなかったんです?こんな大事に」

「私達は無理よ。レコード違反者が出て、初めて気づくんだもの。この前のはレコードごと同化してたから…」

「じゃなくて、芹沢さんが…ですよ。あの人がこんな大規模なのを見逃すんですかね?」

「ああ……それは、知らないわ。彼にも色々あるのよ」


そう言った部長の顔をチラッと見ると、彼女も、どこか解せなさそうな顔をしていた。

私は、そんな部長の顔を見て小さく頷くと、それ以上言うのをやめる。


「聞いてみたら?」

「今度仕事した時にでも、聞いてみますよ」


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