第十三章 目指すべきモノ
「サジのじいさんに聞いたかもしれねぇが、ひとまずこの森を抜ける。すでに青柳教授たちはキャンプに到着。残りの第三部隊の面々はあんたたちと逸れたもう一方の救援に向かっている。もっともあっちには知っての通り第五部隊がついているから、わざわざ救援に向かう必要もねぇとは思うが、奴らは装備不足のまま地球を出たんで、ちょっと役不足な感は否めねぇ。念には念を入れておいたわけさ。」
前を向いたままでも聞こえるくらい大声で葛西が話す。
「そんなに早く移動出来るんですか?」
思わず早川が訪ねた。
「ああ、俺たちのロケットには飛行出来る小型の車を搭載してきたんでな。水陸空とあらゆる環境下を高速で移動出来る代物だ。もっとも小型と言ってもそれなりにデカいんでせいぜい一機搭載するのがやっとだ。それに攻撃できる装備は搭載されていねぇ。あくまでも移動専用機だ。特殊な燃料なんで、あまり多用は出来んがな。この星にあるもので代用できるかは調査中だ。」
「そんなものが地球で開発されていたなんて、本当に俺たちは浦島太郎状態なんだね。」
早川は、改めて時代の進化に感心するとともに、それだけ長い年月を移動したことを思い出した。
「もう、私たちの生まれた時代のような生活は出来ないかもしれないわね。覚悟の上だけど、なんだかちょっぴり寂しい気もするわね。」
友香も早川と同じことを考えていたようだった。
「所で、俺はそろそろ限界だ!いい加減全身の筋肉が悲鳴を上げてやがる・・・。」
安藤が今にも倒れそうなフラフラした歩き方で精一杯声を振り絞り愚痴をこぼす。
「だ、大丈夫ですか?安藤さん!」
と、早川は声をかけたが、早川自身も全身が痛くて、いつ倒れてもおかしくないくらい疲労のピークだった。倒れそうになる安藤に順平が駆け寄り支えた。
「ちょっと休みましょう。このままではキャンプ地に着く以前に力尽きてしまいますよ!」
「いや、ちょっと休憩したくらいではもう無理だな。弱音は吐きたくねぇが、これ以上体が言う事を聞いてくれねぇ・・・」
「安藤さん!?」
安藤は遂に意識を失ってしまった。慌てて真由も駆け寄る。
「お兄ちゃん?お兄ちゃん!!」
すると、葛西が足を止め、安藤の方へ近寄ると、腰のポーチのようなものから何かを取り出した。
「すっかり忘れちまってたわ。これを全員飲んでくれ。これは俺たちが長期戦なんかで食事も取れねぇ状況に陥った時に服用する優れもんだ。多用することは体にも負担がかかるし、副作用も心配だが、1錠程度なら問題ねぇ。脳の神経を騙して、疲労や苦痛を激減させ、その間に披露した部位を回復させる効果がある。本来一般人は入手できねぇ、軍の秘密薬とでも言っておこうか。」
「そ、そんなの俺たちが飲んで大丈夫なんですか?」
「今言ったように一錠くらいでは、何も問題はねぇ。それよりそこで倒れている奴にさっさと飲ませた方がいいぞ。死んでからでは効き目がねぇからな!」
笑いながら、その錠剤を人数分早川の方に投げた。慌てて早川がキャッチする。見た所、早川達の知っている錠剤なんかと変わった所は無かった。
「言い忘れたが、水なんて無くても、口に入れた瞬間体内に吸収されるから心配するな。但し、初めて飲む者にはちょっと刺激が強ぇかもしれねぇぞ。覚悟はしておけよ!」
ニヤニヤする葛西を見た安藤は、
「か、貸しやがれ!」
と、早川から錠剤を奪い取った。
「い、意識あったんですか?」
「ふん!あいつの声を聴いてると気も失ってられねぇよ。」
そう言って、錠剤を一つ口の中に放り込んだ。と、
「ぐ、ぐわぁああああぁぁぁぁっ!ああああああっ!」
安藤の体がビクっと痙攣したように見えたかと思うと、悲痛とも取れる叫び声を上げながら地面を転げ回り始めた。
「安藤さん!安藤さん!ちょ、葛西さん!あんた何を飲ませたんだ!安藤さん!大丈夫ですか!」
「心配するな。すぐに収まる。言っただろ?初めて飲むヤツには刺激が強ぇって。」
早川達はただただ安藤が転げまわるのを見ているしか無かった。実際には1分くらいだろうか。苦悶に満ちた安藤の姿を見ていると、かなり長い時間のように感じられた。安藤の顔には大量の汗が吹き出し、顔色は赤く見えた。やがて、安藤は大人しくなると、起き上り自分の体を色々と動かし始めた。
「す、凄ぇ・・・。一瞬死ぬかと思ったが、なんだ、この湧き上がるような力は・・・。全身痛かったのが嘘みてぇだ。それに、前以上に力がついたように感じる。」
すると、葛西が、
「ここにきてあんたたちなりに過酷な運動をしたんだろ?本来はそういった運動を反復しながら時間をかけて筋力アップさせるんだが、その薬には、そういった効果を一瞬で増幅させる効能もある。まあ、これで当分は疲れ知らずだろう。おっと、あんな姿を見せられちゃ、他の連中は飲むに飲めねぇか?」
その言葉に少し腹が立ったのか、友香が錠剤を口に放り込んだ。それを見た真由も続いた。
「おっ!さすが女は度胸だな。男どもは見習った方がいいぞ。」
口に含んだ瞬間友香と真由の体が小刻みに震えたように見えたが、安藤のように地面を転げまわることは無く、ただただ歯を食いしばるように、体内で起こる何かが終わるその時を耐えているようだった。やがて、友香と真由の表情は穏やかな姿に戻った。
「本当に凄いわ!さっきまでの疲労感が嘘みたい!陸もさっさと飲んでしまいなさいよ。」
佐々木は以前に同じようなものを服用した経験が何度かあると言い、特に狼狽える様子もなく飲み干した。サジは体の構造が違う事と、それほど疲労していないという事で服用せず、ウォーレンは必要ないと服用を拒んだ。残るは順平と早川だけになった。
「さすがにあんな姿を見せられると躊躇しますね。」
苦笑しながら順平も錠剤を放り込んだ。一人取り残されるのはさすがに耐えられないと、早川も覚悟を決めて口の中へ入れた。
と、その錠剤は口の中で一瞬で溶けたかと思うと、全身の毛穴が燃えるように熱い・・・そして、金属音のような甲高い音が耳を劈いたかと思うと、一瞬自分の肉体が全て溶け出して骨だけになったような感覚に襲われる。
目の前は真っ白になったり真っ黒になったりを繰り返す。呼吸は出来ているのかさえわからない。やがて、つま先から感覚が戻り始め、全身に及ぶと視界がこれまで以上にはっきりと見えた。安藤の言うように力がこれまで以上に増したようにも感じられた。
「まあ、最初に行ったが多用は出来ん。もっとも、一錠飲めば当分は疲れ知らずになるだろう。但し、疲れを感じなくても、肉体にダメージは蓄積されるから、その辺はうまくコントロールしねぇと、後で取り返しのつかねぇ事になる。覚えておけ。では、先を急ぐぞ!」
とにかく、疲労から解放された早川たちは先を急ぐことにした。




