第十一章 VS 20
皆、しばらくは沈黙のまま歩き続けた。そんな空気を換えようと佐々木が、誰にともなく話した。
「それにしても真由ちゃんの射撃の腕は大したもんや!あの腕前やったら今からでもオリンピック目指せるんちゃいまっか!?」
何気ない佐々木の一言に、安藤が、
「あっ!!ばか!それは・・・」
と、慌てた様子で話を逸らそうとするが、真由は笑いながら、
「いいのよ、お兄ちゃん。実はオリンピックに出場する予定だったのよ。でも、病気になっちゃって生死の境を彷徨っていたから、出られなくなったの。」
「そ、そうでっか・・・それはいらんこと言うてしもて、ほんますんません・・・」
「気にしないで。それに佐々木さん途中から合流したし、この事を知っているのってお兄ちゃんと早川君、後は教授くらいだもん。私もFTSのお蔭でこの通り元気になれたし、何より、こんな色んな時代、他の星の人たちと出逢えたんだもの。感謝しなくちゃね。」
真由はそう言って笑って見せた。
「それにしてもマリーっちゅうのは、あないに動きが速いとは・・・」
佐々木の一言にすかさず早川が突っ込む。
「佐々木さん、マリーじゃなく、メリーですよ・・・」
「遅い!ツッコミっちゅうのはリズムが肝心や!それにツッコミに敬語使たらあかんわ。」
「え?わざと間違えたんですか?」
「当たり前や!」
そんなやりとりに周囲の重かった空気は少し和んだ。ただ、竹下、牧野の事も心配だったが、この先再びメリーが襲ってくるかもしれないという不安や、ノレッセに追いつかれたらという恐怖は一段と強くなっていた。そんな心中を知ってか、サジは歩いたまま話し始めた。
「メリーに関しては、もう襲ってこんじゃろ。奴らは自分たちが敵わぬとわかれば、再び襲ってくるような真似はせん。もっとも、そこのお嬢さんが居なければ、もしくは全滅していた可能性もあったがな。」
たしかに、真由以外、その姿を捉える事さえ出来ずにいたのだ。もし真由がいなかったらと思うと、背筋が冷たくなった。
「さて、二本目の川に着いたようじゃ。ここからは少々道が険しくなる。」
サジの言う通り、目の前に川が見えてきた。さっきの川よりは川幅が長かったが、こちらもさっきと同様浅く、流れもほとんど無いので簡単に歩いて渡ることが出来た。川を渡ると右側には延々と平原が続いており、遥か遠くには地平線が見えた。そして、正面には森と言うよりは林だろうか。これまで見た事もない木々が点在しており、はっきりとは見えなかったが赤い実のようなものが、たくさんぶら下がっているように見えた。
一方、これから進む左側は緩やかな上り坂が続いており、自然に出来た道が川と並行してずっと先まで伸びていた。先の方は暗くて見えなかった。そこで、友香が突然甲高い声を上げた。
「きゃあ!水が・・・水が逆流してるわ!」
その声に早川も川の流れを見て初めて水が低地に向かってではなく、高地に向かて流れていることに気付いた。そんな光景に驚いている早川たちを見てサジは、
「逆流?どういう意味じゃ?」
と、逆に疑問を投げかけた。
「水は普通、高地から低地に向かって流れるものでしょ?」
安藤が、そう言うと、
「それはお前さん達の星の話じゃろ。この星では水は好きな方向へと流れおる。とは言っても場所によるがな。別に珍しいことでもあるまい。」
サジの言葉に早川は前に森で見た無重力のような空間を思い出した。
「そう言えば、森でも変わった空間があったね。この星の構造はよくわからないけど、地球と同じ考え方はやはり捨てた方が良さそうだ。」
「そうね。でも、どうしても地球で育った私たちには違和感を感じてしまうわね。でも、どこかの国では川が逆流する現象があったわね・・・たしかポロロッカだったかしら?アマゾン川の。」
「そや、ポロロッカや。新月とか満月とかの時に起こる現象ですわ。よう知ってますなぁ!」
「そう言えばテレビで見たような気がする。満ち潮の関係でかなりの勢いで波が川を遡っていく光景は、凄かったよ。」
しばらくは逆流の話題が続き、緩やかな上り坂を歩きながら会話に花を咲かせた。ところが10分ほど歩くと、そんな事も言っていられなくなった。




