第十一章 VS 19
とは、言うものの不安であることには変わりなかった。自然と歩く速度も早まる。それにさっきの説明だけではどのくらいの群れで行動しているのか?この辺り一帯にも生息しているのか?などなど、ますます不安は募るばかりだった。
それでも早川たちは恐怖心と戦いながらも歩き続け、前方に川が見えてきた。
「ここが一本目の川じゃ。ここを越えてから二本目の川まではそれほど距離もあるまい。そこまで辿り着けば、メリーの脅威ともおさらばじゃ。」
「どういうことですか?」
「理由はわからんが二本目の川より先ではメリーが出没したという話は聞かん。もっとも常に監視しているわけではないので、絶対に出ないとは言い切れんが、少しは不安からも解放されるじゃろう。」
その言葉が早川たちを安心するためなのか、それとも事実なのかはわからなかったが、今は信じるより他なかった。いや、信じたいという思いの方が強かった。
一本目の川は川幅も数メートルで流れもほとんどなく、水深は30センチ程度だった。早川たちは次々よ川を渡り、更に歩き続けた。と、先頭を行くサジとシーバが突然立ち止った。
「どうかしたんですか?」
一瞬にして緊張が走る。
「静かにせい!」
サジとシーバはしきりに周囲を見回しながら、ゆっくりと前進する。最後尾にいたウォーレン達も追いついてきて、早川たちは団子状態となった。ただならぬ空気を感じ取りウォーレンやロジャー達最後尾にいた連中はすでに身構えている。
青柳と倉本はさっきの話をあまり聞いていなかったのか、ただただその場に立ち尽くしていた。
「どうやらそこのお二人さんの予感は的中したようじゃ。メリーが我々を狙っておる。」
早川たちの表情が一気に凍りついた。すでに友香と真由は麻酔銃を取り出していつでも打てる状態で構えている。慌てて早川も銃を取り出した。
「戦うんですか?それとも逃げた方が・・・」
「メリーの動きは早い。この人数では誰かが犠牲になることは確実じゃ。かといって、その麻酔銃ではまず当たらんじゃろ。数は3匹。正面に1匹、そして右側の丘の上に2匹じゃ。さて、どうしたものか・・・」
早川は必死に目を凝らして前方を見たが、何も見えない。それは佐々木やレイニーにも見えないようで、皆、キョロキョロしながらサジが言った方向を見ていた。
「何も見えないが、本当にいるのか?」
安藤がそう言った瞬間、何かが横切った。正確には空気が動いたような気がした。皆、何かが動いたことだけは気づいたようで、銃を構えるがどこを狙っていいのかわからず、混乱している様子だった。
そして、後ろを振り返ると、竹下と牧野が地面に倒れていた。
「た、竹下さん!牧野さん!」
早川が叫ぶ。竹下と牧野は苦痛に顔を歪めながらも、必死に立ち上がろうとしていた。
「くっ!どこだ!」
ウォーレンとロジャーでさえもその動きを捉えきれていない。その時だった。
「皆、伏せて!」
真由が叫び、その声に全員が身を屈めると、すでに構えていた真由が麻酔銃を撃ち放つ。早川たちにはどこを狙ったのかさえわからなかったが、発射した方向を見ると、そこには見た事もない緑色の毛をした生物が横たわっていた。
「す、凄い動体視力!?」
思わずレイニーがそう呟いた。
「それより、早く竹下さんと、牧野さんを!」
友香が叫ぶ。二人は必死に立ち上がろうとするが、すでに毒が回っているのか、体も起こせない。
「ま、まだ、に、二匹いるん・・・だろう・・・・・・俺た・・・かま・・・・・・」
牧野は何かを言おうと必死に声を発するが、途中で聞き取れなくなった。
「それ以上喋るんじゃない!」
ロジャーが駆け寄って体を抱えた。すでに竹下は意識を無くしているようでピクリとも動かない。
「どうやら、後の二匹は去って行ったようじゃ!シーバよ!ここから一番近くにいる薬師はどこじゃ!!」
「ここからだと、ピウロだと思います!」
「ピウロか!なんとか間に合えば良いが、誰かその二人を急いで車まで運ぶんじゃ!シーバよ、一緒に行ってピウロの元まで誘導するんじゃ!急がねば、死んでしまうぞ!」
「僕が向かいましょう!」
レイニーは急いで竹下に近づくと、竹下の体を背負った。
「では、運転の出来る私が牧野を背負う。」
二人は牧野と竹下を背負うとシーバと共に来た道を引き返して行った。
「間に合いますか?」
早川は去っていくロジャー達の姿を見つめながらサジに訪ねた。
「あとは、奴らの生命力に賭けるしか無かろう。」
麻酔銃で意識を無くしているメリーをサジは抱え上げながらそう言うと、道の端にメリーを置き、
「ここにいても、何も始まらん。ワシらはこのまま目的地を目指すんじゃ。あちらはシーバに任せておけば良かろう。あやつは毒の回りを遅くする応急処置も心得ておる。それに、目的地の場所も知っておるから、後から合流してくるじゃろ。今は、前に進むより他ない。」
動揺を隠せない早川たちをよそにサジは再び歩き始めた。
「サジさんの言う通りよ。私たちに出来る事は何も無いわ。辛いと思うけど、今は無事を願いましょう。」




