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観客のいない世界  作者: 亀


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第96章 預けられたもの

南雲家の親族と連絡が取れたのは、二日後だった。


現在の南雲家は、すでに商売をしていなかった。親族の一人が、古い家と倉庫を管理しているという。


主人公たちは榊原の紹介で訪問を申し込んだ。


迎えに出た男性は、来訪の理由を聞くと、少し考え込んだ。


「黒田家の取引記録ですか。ずいぶん昔の話ですね」


「当時、黒田家との間で、品名を記載しない預かり物の取引があったようです」


主人公は帳簿の写しを見せた。


「何かご存じでしょうか」


男性は紙面を見つめたが、すぐには答えなかった。


「祖父が黒田家と付き合っていたことは聞いています。ただ、取引の細かい内容までは知りません」


「古い帳簿や手紙は残っていますか?」


「家の倉庫に、整理していない箱がいくつかあります。関係があるかどうかは分かりませんが、見てみますか」


「お願いします」


男性は主人公たちを倉庫へ案内した。


中には、古い帳簿や書類、使われなくなった道具が積まれていた。


整理されていないため、目的の資料を探すには時間がかかりそうだった。


「必要なものがあれば、確認してもらって構いません。ただし、持ち出す場合は相談してください」


男性はそう言い残し、別の仕事に戻った。


主人公たちは書類の確認を始めた。


***


最初に見つかったのは、一般的な取引記録だった。


布地、金属部品、保存食、輸送費。


黒田家の帳簿と照合できるものもあったが、特別な情報は見つからなかった。


昼を過ぎても、品名のない預かり物に関係する資料は見つからなかった。


直人が積まれた箱を見ながら言った。


「これだけあると、どこから探せばいいのか分からないな」


「まずは年代を絞る。黒田家の記録に近い時期のものから確認しよう」


主人公は書類を年代ごとに分けた。


その作業を続けていると、一枚の受領証が見つかった。


日付は、黒田家の最初の預かり物の記録から数日後だった。


品名の欄には何も書かれていない。


金額は、黒田家の帳簿に記されたものと同じだった。


そして、受領証の端には、あの印とよく似た印が押されていた。


主人公は二つの資料を並べた。


「一致したな」


直人が言った。


「金額と日付は一致している。印も似ている」


主人公は受領証を慎重に確認した。


「ただ、これだけでは何を預かったのかまでは分からない」


「でも、黒田家の記録と同じ取引だと考えていいんじゃないか?」


「その可能性は高くなった。けれど、品物の正体は別の問題だ」


主人公は受領証の裏面を確認した。


そこには短い文章が残されていた。


《保管期間については、別途通知する》


さらに、その下には小さく数字が書かれていた。


主人公は数字を帳簿の記録と照合した。


完全に同じ形式ではなかったが、黒田家の預かり物の記録にある数字と共通する部分があった。


「この数字も、何かの管理番号かもしれない」


直人が言った。


「そうかもしれない。まずはほかの受領証にも同じ形式がないか調べよう」


主人公は資料を傷めないよう、元の位置に戻した。


***


夕方まで調査を続けた結果、似た受領証がもう一枚見つかった。


こちらも品名は空欄だった。


ただし、日付は一年以上後で、金額も異なっていた。


印の形は似ていたが、細部が違う。


主人公は二枚の受領証を並べた。


「同じ相手が使っていたとは限らないな」


直人が言った。


「そうだな。共通の書式を使っていた可能性もあるし、別々の取引だった可能性もある」


「じゃあ、何が分かったんだ?」


主人公は少し考えた。


「少なくとも、品名を記載せずに物を預ける取引が、南雲家の記録にも残っていた。それと、黒田家の記録と一致する受領証が一枚見つかった」


「箱とは関係があると思うか?」


「まだ分からない」


主人公は受領証を封筒に入れた。


「ただ、調べる範囲は少し絞れた。次は、この取引を誰が管理していたのかを確認したい」


南雲家の男性に事情を説明すると、彼は二枚の受領証を見比べた。


「こういう書類が残っていたんですね」


「当時、誰が保管や受け渡しを担当していたか、ご存じありませんか?」


「祖父が直接担当していたのか、それとも従業員に任せていたのかも分かりません。ただ、古い雇用記録が別の場所に残っているかもしれません」


彼は、以前使っていた事務所の資料を親族が保管していると教えてくれた。


「すぐに見つかるとは限りませんが、確認してみます」


「ありがとうございます」


主人公たちは礼を言って倉庫を出た。


今回の調査で、箱の秘密が明らかになったわけではない。


ただ、黒田家の記録と南雲家の記録が、一つの取引を通じてつながった。


その取引で何が預けられたのか。


誰が保管を管理していたのか。


そして、なぜ品名が記載されなかったのか。


答えは、まだ残された資料の中にあるかもしれなかった。


***


帰りの車内で、主人公は受領証の写しを見直していた。


端に記された数字は、箱の表面に刻まれた文字とは違う。


それでも、複数の帳簿に共通する形式が見つかったことには意味がある。


彼は通信端末を取り出した。


『今日はどうだった?』


いつもの相手から連絡が届いていた。


『昔の受領証が見つかった。何を預けたのかは分からないけど、別の家の帳簿とつながった』


『少し進んだんだね』


『そうだな。ただ、まだ箱と関係があるとは言えない』


『それでも、分かったことと分からないことを分けられているなら、無駄ではないと思う』


主人公はその文章を読み、短く返した。


『明日は管理していた人間を調べる』


『うん。気をつけてね』


端末をしまい、主人公は窓の外を見た。


調査は思っていたよりも長くなっている。


だが、無理に答えを作るつもりはなかった。


箱が何なのかを知りたい。


そのために必要な記録を、一つずつ確かめていく。


今は、それしかできなかった。

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