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観客のいない世界  作者: 亀


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第84章 箱を持つ者

西へ向かう道を、三人は歩いていた。


古い交易都市を出てから、しばらく経っていた。


男は時々、背負った荷物を確かめた。


黒い箱。


二つ。


商家から受け取ったものと、以前から持っていたもの。


そして、もう一つ。


地下遺跡で見つけた箱。


三つの箱は、どれも同じような印を持っていた。


だが、微妙に違う。


それぞれの角には、長い年月によって生じた傷があった。


直人が言った。


「本当に、次もあると思うのか?」


男は答えなかった。


代わりに、懐から古い紙を取り出した。


そこには、前の遺跡で見つけた文字が写されていた。


《再申請には、三つの旧管理区記録を必要とする》


そして、その下。


《第四管理区》


《記録は現存しない》


「箱が三つあったから、次があるとは限らない。」


男は紙をしまった。


「でも、三つで終わりだとも書いていない。」


直人は苦笑した。


「相変わらず、面倒な探し方をするな。」


「他に方法がない。」


その時だった。


背後から、馬の蹄の音が聞こえた。


三人は同時に振り返った。


一台の馬車が、ゆっくりと近づいてくる。


商人らしい男が二人。


護衛が四人。


ただの旅人には見えなかった。


馬車が止まる。


先頭の男が降りた。


「少し話をしたい。」


男は黙って相手を見た。


「誰だ?」


「それはこちらが聞きたい。」


男は笑った。


「あなたが、最近いくつかの古い箱を手に入れた人物でしょう?」


空気が変わった。


直人が一歩前に出る。


だが、男は手を上げた。


「今すぐ奪うつもりはない。」


「じゃあ何の用だ?」


「確認だ。」


商人風の男は男の荷物を見た。


「あなたは、その箱を開けられるのか?」


男は少し考えた。


そして答えた。


「開けられない。」


男は意外そうな顔をした。


「本当に?」


「本当だ。」


「では、中に何が入っているのかも知らない?」


「知らない。」


しばらく沈黙が続いた。


商人風の男は、初めて困ったような表情を見せた。


「……そうか。」


その一言だけだった。


だが男には分かった。


この人間たちは、箱について何か知っている。


少なくとも、自分より長く。


男は相手を見た。


「あなたたちも持っているのか?」


商人風の男は答えなかった。


代わりに馬車の扉を開けた。


中には、黒い箱が積まれていた。


一つ。


二つ。


三つ。


四つ。


さらに奥にもある。


男は目を細めた。


「……そんなに?」


「長い時間をかけて集めた。」


「それでも開かない?」


「開かない。」


男は初めて、相手と同じ問題を抱えていることを理解した。


目の前にいる人間たちは、自分から箱を奪いに来たわけではない。


もっと別の目的がある。


箱を集めても、答えが出ない。


だからこそ、ここまで来た。


商人風の男が言った。


「あなたの箱と、我々の箱。」


「何が言いたい?」


「一緒に調べたい。」


男はすぐには答えなかった。


そして、三つの黒い箱を見た。


その時、彼はまだ知らなかった。


自分がこれから集める箱の数が、ある人物にとって、何よりも都合のいい数字になっていくことを。

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