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観客のいない世界  作者: 亀


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第83章 第三の箱

西へ向かう街道は、次第に人が少なくなっていった。


かつては大きな交易路だったらしい。


道の両側には、崩れかけた石壁や古い倉庫が残っている。


しかし、今では商人の姿もほとんどない。


「昔は、ここを大量の荷物が通っていたらしい」


直人が古い石碑を見ながら言った。


男主人公は足を止めた。


石碑には、かすかな文字が残っている。


「何と書いてある?」


復讐を終えた男が尋ねる。


「交易所の名前だ」


「今は?」


「もうない」


男主人公は周囲を見た。


地図に書かれていた場所は、この辺りのはずだった。


だが、目印になるものがない。


「地図が古すぎる」


直人が言った。


「なら、どうする?」


男主人公は最初の手紙を取り出した。


そして昨夜の紙と並べた。


二枚とも、同じ印がある。


しかし、地図として見ると線の方向が違っていた。


「こっちだ」


男主人公は街道を外れた。


三人は古い石壁の間を進んだ。


しばらく歩くと、地下へ続く階段が現れた。


階段の上には、崩れた建物が残っている。


「ここか?」


直人が聞く。


「分からない」


男主人公は答えた。


「でも、他にそれらしい場所はない」


地下へ降りる。


空気が冷たかった。


壁には古い商人の名前がいくつも刻まれている。


中には、今も続いている家の名前もあった。


直人が一つの名前を見つけた。


「これ……」


男主人公が近づく。


そこには、蓮司家の名もあった。


「この家も、昔からここを使っていたのか?」


「分からない」


男主人公は壁を調べる。


「ただ、ここが単なる交易所ではなかった可能性はある」


さらに奥へ進む。


突き当たりに、小さな部屋があった。


部屋の中央には石の台座がある。


その上に、一つの箱が置かれていた。


二人とも動きを止めた。


黒い箱。


形は違う。


しかし、側面には同じ印がある。


「三つ目だ」


男主人公が呟いた。


直人が箱に近づこうとした。


「待って」


男主人公が止める。


箱には鍵穴がなかった。


代わりに、表面に細い溝が三本刻まれている。


男主人公は二つの箱を取り出した。


並べてみる。


一つ目。


二つ目。


そして、目の前の三つ目。


三つの箱の印を合わせる。


その瞬間。


小さな音がした。


カチッ。


三人が黙る。


だが、箱そのものは開かなかった。


代わりに、台座の奥から低い音が響いた。


壁の一部がゆっくり動く。


その向こうに、狭い通路が現れた。


「箱が鍵だったのか?」


直人が言う。


男主人公は首を振った。


「違う」


「じゃあ何だ?」


「三つ揃ったことで、別の場所が開いた」


男主人公は箱を持った。


「箱そのものを開けるための場所じゃない」


三人は通路を進んだ。


その先には、小さな部屋があった。


部屋の壁には、いくつもの記録板が並んでいる。


その一枚に、見覚えのある言葉があった。


《旧契約者用》


男主人公の足が止まった。


「……これだ」


直人も近づく。


「祖先の記録と同じ?」


「ああ」


記録板には、古い文章が残されていた。


《契約終了後、権限を返却する》


《返却先が存在しない場合、接続は閉鎖される》


そして、その下に別の一文がある。


《後継者が存在する場合、権限の再申請を認める》


男主人公はしばらく動かなかった。


「後継者……」


直人が呟く。


「お前のことじゃないのか?」


男主人公は答えなかった。


血筋なのか。


それとも、単純に箱を受け取った人間を意味するのか。


今の情報だけでは分からない。


だが、その下にはさらに記録が残っていた。


《再申請には、三つの旧管理区記録を必要とする》


男主人公は目を細めた。


「三つの箱は、記録そのものだったのか」


「つまり?」


「まだ足りない」


直人がため息をつく。


「三つも集めたのに?」


「箱が三つ必要だったわけじゃない」


男主人公は壁を見た。


「三つの旧管理区の記録が必要なんだ」


その時。


部屋の奥から、かすかな音がした。


三人が振り返る。


誰もいない。


だが、壁の一角に新しい文字が浮かび上がっていた。


《第四管理区》


そして、その下に短い文章。


《記録は現存しない》


男主人公は黙ってそれを見た。


「現存しない……」


復讐を終えた男が言う。


「つまり、もう探せない?」


男主人公は首を振った。


「分からない」


「またそれか」


「でも」


男主人公は壁に残った文字を指した。


「現存しない、と書いてあるだけだ」


「消滅したとは書いていない」


三人はしばらく沈黙した。


やがて男主人公は三つの箱をしまった。


「行こう」


「どこへ?」


「第四管理区を探す」


「場所は分かるのか?」


男主人公は記録板を見る。


その隅に、かすかな地名が残っていた。


「一つだけ分かる」


男主人公は答えた。


「昔の名前だけだ」


そして、その名前を紙に書いた。


そこには、現在では誰も使っていない古い地名が記されていた。


三人が地下を出た頃には、夕方になっていた。


遠くの丘の上から、街道を見下ろす。


その先には、見知らぬ男が一人立っていた。


男は三人を見ると、すぐに背を向けた。


男主人公は追わなかった。


ただ、男の手に何かが握られていることだけは見えた。


黒い箱。


そして、その箱にも――


同じ印が刻まれていた。

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