第82章 同じ印
屋敷を離れてから、男主人公たちは街道沿いの宿に入った。
部屋に入ると、男主人公は二つの箱を机の上に並べた。
直人も覗き込む。
復讐を終えた男は、少し離れたところから箱を見ていた。
「同じものなのか?」
「分からない」
男主人公は二つの箱を裏返した。
黒い金属。
古い留め具。
そして、側面に刻まれた小さな印。
確かに同じだった。
だが、それ以外の部分には違いがある。
祖先の箱には、かすかに文字が残っている。
もう一つには、文字がない。
「族長は何も知らなかったのか?」
直人が聞いた。
「少なくとも、詳しいことは知らなかった」
「祖父から受け継いだだけ?」
「たぶん」
男主人公は答えた。
「でも、祖父も開けられなかったと言っていた」
「鍵が必要なのか?」
「そうだと思う」
男主人公は自分の箱を見た。
以前、二枚の金属板を組み合わせた時には、一度だけ古い接続装置が反応した。
しかし、その後は何も起きていない。
鍵がない。
そして、今手に入れた箱にも鍵はない。
「この箱を開ける方法が分かると思っていた」
直人が言った。
「俺もそう思っていた」
男主人公は笑った。
「でも、違った」
復讐を終えた男が口を開く。
「なら、何のために二つある?」
男主人公は答えなかった。
しばらく考えてから、二つの箱を近づける。
何も起きない。
さらに重ねる。
やはり反応はない。
「同じ印があるだけでは、何の証拠にもならない」
男主人公は言った。
「同じ製作者かもしれないし、同じ契約に関係しているだけかもしれない」
「だったら、族長の話は?」
「『次の人間に渡す』」
男主人公はその言葉を繰り返した。
「そこが気になる」
「なぜ?」
「この箱を祖父が受け取った時点で、すでに次の人間へ渡すことが決まっていたように聞こえる」
直人が眉を寄せる。
「つまり、族長の家だけで完結していなかった?」
「そう」
男主人公は箱を見た。
「誰かから誰かへ、何度も渡されてきた可能性がある」
その時。
部屋の外から足音が聞こえた。
三人が同時に黙る。
足音は部屋の前で止まった。
「誰だ?」
直人が声をかける。
返事はない。
男主人公が立ち上がる。
扉を開ける。
そこには誰もいなかった。
ただ、床に一枚の紙が落ちていた。
男主人公は拾い上げる。
古い紙だった。
表には何も書かれていない。
裏返す。
そこには、一つの印があった。
箱に刻まれているものと同じ印。
「……またか」
直人が言う。
男主人公は紙を開いた。
中には短い文章があった。
『二つ目を手に入れたなら、もう一つ必要になる。』
それだけだった。
署名はない。
差出人もない。
男主人公は紙を見つめた。
「この手紙を書いた人間は、俺たちがこの箱を手に入れることを知っていた」
直人が言う。
「そうなるな」
「だったら、最初の手紙を書いた人間と同じなのか?」
男主人公は首を振った。
「分からない」
「でも、同じ印だ」
「それだけだ」
男主人公は紙を折った。
「同じ印を使う人間が複数いる可能性もある」
復讐を終えた男が窓の外を見る。
「誰かに見られている?」
「その可能性はある」
「追うか?」
男主人公は少し考えた。
「いや」
「なぜ?」
「今は追わない」
男主人公は箱をしまった。
「向こうが俺たちを知っているなら、こちらから追えば情報を与えることになる」
「じゃあ、どうする?」
「次の箱を探す」
「場所は?」
男主人公は紙をもう一度見る。
文章の下に、薄い線があった。
最初はただの傷だと思った。
しかし、光に透かすと、地図の一部のように見える。
「ここだ」
男主人公は地図を広げた。
紙の線と重ねる。
一致した。
場所は、現在地から西へ数日の距離にある。
そこには、かつて大きな交易都市が存在していた。
現在はほとんど人が住んでいない。
直人が地図を見る。
「また遺跡か」
「たぶん」
「次は何の家だ?」
男主人公は答えた。
「分からない」
復讐を終えた男が笑った。
「いつもそれだな」
「情報がないからな」
男主人公は箱を背負った。
「だから行く」
翌朝。
三人は宿を出た。
街道を西へ進む。
しばらくすると、男主人公は振り返った。
宿の屋根の上に、人影が見えた。
一瞬だった。
人影はすぐに消えた。
男主人公は何も言わなかった。
追わない。
確認もしない。
ただ歩き続ける。
その頃。
彼らが泊まっていた宿の一室では、一人の男が机の上に二枚の紙を並べていた。
一枚目には、最初の手紙。
二枚目には、昨夜置いた紙。
男は二枚を見比べた。
そして、小さく呟いた。
「やはり、二つ目を手に入れたか」
男は紙を燃やした。
炎が消えた後。
机の上には、箱と同じ印だけが残っていた。




