↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
観客のいない世界  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/429

第75章 倒産寸前の商家

翌日。


蓮司家の屋敷には、普段とは違う空気が流れていた。


倉庫から運び出される荷物が減った。


商談のために訪れる人間も減った。


そして、わざと一つの噂が市場へ流された。


――蓮司家は、資金繰りに行き詰まっている。


――近いうちに、いくつかの倉庫を売却するらしい。


――大口の取引も維持できなくなった。


もちろん、すべて嘘だった。


少なくとも、今の時点では。


族長はその噂を聞いても何も言わなかった。


むしろ、自分から取引先に弱音を見せ始めた。


「今年は厳しい」


「これ以上の借り入れは難しい」


「一部の事業は整理するかもしれない」


普段なら絶対に口にしない言葉だった。


蓮司は男主人公に小声で尋ねた。


「本当にここまで言って大丈夫なのか?」


「大丈夫です」


「でも、取引先まで信じたら?」


「それなら、それまでです」


「怖くないのか?」


男主人公は少し考えた。


「嘘をつくことより、嘘をついた後に何が起こるかを見ないほうが怖いです」


蓮司は黙った。


昼過ぎ。


最初の変化が起きた。


族長のところへ、南方の商家から使者が来た。


「蓮司家が倉庫を一つ売却するという話を聞きました」


族長は困ったような顔を作った。


「まだ決まったわけではない」


「もし売却されるのであれば、我々が買い取りたい」


「理由は?」


「以前から、その地域の倉庫を探していました」


族長はしばらく黙った。


「考えておこう」


使者が帰ると、蓮司が男主人公を見る。


「どうだ?」


「まだ何も分かりません」


「何も?」


「この人たちは、単純に安く買いたいだけかもしれません」


男主人公は窓の外を見た。


「本当に見たいのは、その後です」


夕方。


今度は別の商家から使者が来た。


こちらは倉庫ではなかった。


「蓮司家が南方の薬草事業から撤退するという話を聞きました」


族長は笑った。


「ずいぶん早い話だな」


「市場ではそういう噂になっています」


「そうか」


「もし撤退されるなら、我々が取引先を引き継ぐこともできます」


族長はその場では返事をしなかった。


使者が帰る。


男主人公は机の上に二枚の紙を置いた。


「面白いですね」


族長が見る。


「何がだ?」


「二つとも、こちらが流した情報とは少し違います」


「どういうことだ?」


「私たちは『倉庫を売るかもしれない』と言いました」


一枚目。


「こちらは『南方の事業から撤退する』と言っている」


二枚目。


族長の目が細くなる。


「つまり?」


「誰かが、情報を加工しています」


族長は黙った。


男主人公は続ける。


「そして加工された情報が、それぞれ別の商家に流れている」


「ならば、その二つの商家が関係している?」


「まだ分かりません」


「また分からないか」


族長が笑う。


「お前は、分からないことを分からないと言うな」


「分からないことを決めつけると、損をします」


族長は少し考えた。


「それも商売か」


「調査です」


その夜。


男主人公は市場へ出た。


蓮司には知らせず、直人と復讐者だけを連れて歩く。


市場では、すでに蓮司家の噂が広がっていた。


「蓮司家も終わりらしい」


「借金がかなりあるそうだ」


「南方から撤退するらしいぞ」


男主人公は黙って聞いていた。


噂は広がっている。


だが、奇妙だった。


誰も同じ話をしていない。


少しずつ内容が違う。


つまり――


誰かが意図的に情報を加工しながら流している。


「こっちです」


男主人公が一つの露店の前で止まった。


店主が別の男と話している。


「蓮司家が本当に危ないなら、今のうちに買っておくべきだ」


「何を?」


「倉庫でも、取引先でもいい」


「誰から聞いた?」


「商人仲間からだ」


男主人公は聞きながら、店主の後ろに積まれている紙を見た。


そこに、小さな印があった。


以前、遺跡で見たものとは違う。


だが、見覚えがある。


情報を売買する商人が使う印だった。


男主人公は何も言わず、その場を離れた。


しばらく歩いてから、直人が聞く。


「見つけたのか?」


「まだです」


「じゃあ、何だった?」


「情報が一つの道を通っていないことが分かった」


「どういう意味だ?」


男主人公は振り返った。


「相手は一人じゃない」


夜の市場には、まだ多くの商人が残っていた。


「情報を集める人間」


「加工する人間」


「売る人間」


「買う人間」


それぞれが別に動いている。


だから、一人捕まえただけでは終わらない。


男主人公は屋敷へ戻る道を歩きながら考えた。


この仕組みを壊すには、中心にいる人間を探す必要がある。


そして翌朝。


族長のもとへ、見知らぬ商人から一通の書状が届いた。


そこには一つの提案が書かれていた。


――蓮司家の南方事業を、通常価格の半分で買い取る。


族長は書状を読み終えると、静かに笑った。


「来たな」


男主人公も書状を見た。


「はい」


「では、次はどうする?」


男主人公は答えた。


「売るふりをしましょう」


族長は笑った。


「そう来ると思った」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。