第68章 宝物の帰り道
遺跡を出るころには、日が傾き始めていた。
山道には、先に戻った探索者たちの足跡が残っている。
蓮司たちも、その中にいた。
彼らは途中の広場で休んでいた。
大きな布に包まれた金属箱が、蓮司のそばに置かれている。
周囲には数人の探索者が集まっていた。
「本当にこれが目的の宝物だったんだな」
「何年探してたんだ?」
「親父の代からだ」
蓮司は箱を見ながら答えた。
「祖父の記録にも、この箱のことが書かれていた」
「中身は?」
「まだ開けてない」
「じゃあ、帰ってからだな」
蓮司は笑った。
その表情には、遺跡の中では見せなかった興奮があった。
男主人公たちは少し離れたところを通り過ぎようとした。
蓮司が気づく。
「おい」
男主人公が振り返った。
「何だ?」
「結局、その紙切れを持って帰るのか?」
男主人公は懐に手を入れた。
「そうする」
蓮司は笑った。
「好きにすればいい」
彼は自分の箱を軽く叩いた。
「俺はこれで十分だ」
男主人公は何も言わなかった。
直人だけが小さく呟く。
「まあ、価値なんて人それぞれだろ」
「その通りだ」
蓮司は答えた。
「だから俺は宝物を選んだ」
「俺は紙を選んだ」
男主人公が言う。
蓮司は一瞬だけ黙った。
それから笑った。
「変な奴だな」
「よく言われる」
男主人公はそれ以上話さず、その場を離れた。
三人は山道を下っていった。
しばらく歩いたところで、直人が尋ねる。
「本当にあの手紙を信じるつもりなのか?」
「信じてない」
「じゃあ、どうして行く?」
男主人公は歩きながら答えた。
「確認するだけだ」
「罠だったら?」
「それも確認する」
「危険だったら?」
「その時に考える」
直人はため息をついた。
「相変わらずだな」
復讐者が後ろから言った。
「俺は、その考え方のほうがいいと思う」
「どうして?」
「信じる必要はない。だが、捨てる理由もない」
男主人公は少しだけ振り返った。
「そういうことだ」
三人はそのまま山を下りた。
翌朝。
山の麓にある宿場町は、探索者たちで騒がしくなっていた。
昨夜、蓮司たちが見つけた宝物の話がすでに広まっている。
宿の食堂でも、その話ばかりだった。
「本物らしいぞ」
「かなり古いものだって」
「どこの家が持っていたものなんだ?」
男主人公はそれを聞きながら朝食を取っていた。
彼らには関係のない話だった。
直人は地図を広げる。
「ここからだと、あの家までは二日くらいだ」
男主人公は頷いた。
「行こう」
「すぐ?」
「うん」
復讐者が椅子から立ち上がった。
「なら、準備する」
三人が宿を出ようとした時だった。
外から馬車の音が聞こえた。
昨日の探索者たちだった。
蓮司が馬車から降りる。
その後ろには数人の男がいる。
そして中央には、昨日の金属箱が積まれていた。
蓮司は男主人公を見ると、軽く手を上げた。
「先に行くのか?」
「そうだ」
「俺たちは一度、家に戻る」
「分かった」
蓮司は少し考えた。
「君が行くと言っていた家は、俺の家だ」
男主人公が止まった。
「……何?」
蓮司は笑った。
「言ってなかったか?」
直人も驚いた顔をする。
「お前が?」
「ああ」
蓮司は馬車のほうを指した。
「俺はこの地方で商売をしている蓮司家の人間だ」
男主人公は何も言わなかった。
昨日、遺跡の中で何度も顔を合わせた男。
その男が、手紙に書かれていた家の人間だった。
蓮司は続ける。
「もし用があるなら、来ればいい」
「何の用かは聞かないのか?」
「家に来る人間には、普通は理由がある」
「聞かない?」
「必要なら、会ってから聞く」
蓮司はそう言って馬車に乗った。
「じゃあ、またな」
馬車が動き出す。
男主人公はその後ろ姿を見送った。
直人が言った。
「……話が早すぎないか?」
「偶然かもしれない」
「昨日の手紙と、今日のこいつが同じ家って?」
「だから確認する」
復讐者が馬車の方向を見る。
「罠かもしれない」
男主人公は頷いた。
「そうかもしれない」
「それでも?」
「行く」
男主人公は懐の手紙に触れた。
その紙には、まだ差出人の名前がない。
誰が書いたのかも分からない。
それでも、今の男主人公には、この道しかなかった。
三人は馬車とは別の道を歩き始めた。
その先にあるのが、答えなのか。
それとも新しい問題なのか。
まだ誰にも分からなかった。




