第66章 宝探しの入口
山を越えてから、道は急に細くなった。
舗装された道路はとうに消えている。
車が通れるのは途中までで、そこから先は歩くしかない。
男主人公は手にした古い書類をもう一度確認した。
紙の端には、十八年前のものとは思えないほど鮮明に残った印がある。
その下に、短い文章が書かれていた。
――北の山。
――旧採掘場より三里。
――石門の向こうに、探す者が集まる。
それだけだった。
「本当にここなのか?」
直人が周囲を見回した。
「たぶん」
「たぶんって……」
「他に手がかりがない」
男主人公はそう答えた。
隣を歩いていた復讐者が、山道の先を見た。
「人がいる」
確かに、木々の向こうに人影が見える。
さらに進むと、簡素な木造の建物があった。
その周囲には十数人ほどの人間が集まっている。
大きな荷物を背負った者。
地図を広げている者。
古い道具を確認している者。
明らかに、この山に来ることを目的にした人間たちだった。
入口には一枚の看板が立てられている。
《北方旧遺跡 合同探索受付》
直人が目を丸くした。
「合同探索?」
「そういうことらしいな」
男主人公は受付へ向かった。
受付の男は三人を見ると、慣れた様子で尋ねた。
「初参加ですか?」
「そうです」
「目的は?」
男主人公は少し迷った。
「遺跡の調査です」
受付の男は笑った。
「みんなそう言いますよ」
「違うんですか?」
「宝物です」
あっさりと言った。
「この遺跡には昔から、何かが眠っていると言われている。毎回、それを目当てに来る人がいるんですよ」
直人が男主人公を見る。
男主人公は何も言わなかった。
宝物。
その言葉自体には興味がない。
彼が探しているのは、祖先の記録に残っていた何かだ。
そして、その先にある鍵。
それだけだった。
受付を済ませると、三人は集合場所へ向かった。
その途中だった。
「その地図、どこで手に入れた?」
突然、声をかけられた。
振り返る。
二十代後半くらいの男が立っていた。
細身で、山歩きには慣れているようだった。
服装も装備も、他の参加者より整っている。
男主人公が手元の紙を見る。
「これか?」
「そう」
男は紙を見ながら言った。
「その印、珍しいな」
「知ってるのか?」
「少しだけ」
男は笑った。
「俺も昔から、この遺跡を調べてる」
「名前は?」
「蓮司」
男は短く答えた。
「君たちは?」
男主人公が名乗る。
直人も続いた。
最後に復讐者が名乗った。
蓮司は三人を見回した。
「三人で来たのか」
「そうだ」
「遺跡は甘くないぞ」
「分かってる」
「いや、分かってないと思う」
蓮司は男主人公の荷物を見た。
「その装備じゃ、奥まで行けない」
男主人公は自分の荷物を見下ろした。
必要最低限しか持ってきていない。
「足りないものは現地で調達する」
「そういう問題じゃない」
蓮司は苦笑した。
「まあ、好きにすればいい」
そう言って離れていった。
直人が小声で言う。
「なんか感じ悪いな」
「向こうも同じことを思ってるだろ」
復讐者が言った。
「たぶんな」
三人は集合場所へ向かった。
やがて探索責任者が現れ、遺跡について説明を始めた。
「旧採掘場の奥に、石門があります」
地図を広げる。
「その先が旧遺跡です。内部は崩落している場所もあります。勝手に単独行動をしないでください」
参加者たちは黙って聞いていた。
「そして、もう一つ」
責任者が続けた。
「今回の探索には、もう一つの目的があります」
何人かが顔を上げる。
「過去の記録によれば、遺跡の内部に『黄金の箱』が存在すると言われています」
空気が変わった。
さっきまで退屈そうにしていた人間まで、身を乗り出した。
直人が小さく呟く。
「黄金の箱……」
男主人公は何も反応しなかった。
だが、少し離れたところにいた蓮司の表情が変わった。
明らかに知っている顔だった。
説明が終わる。
探索が始まった。
参加者たちはそれぞれの隊に分かれ、山の奥へ進んでいく。
男主人公たちも歩き始めた。
しばらくすると、前方から蓮司が現れた。
「おい」
男主人公が立ち止まる。
「何だ?」
「この先は俺のルートだ」
「ルート?」
「俺が何年も調べてきた場所だ。勝手に入られると困る」
男主人公は蓮司を見る。
「合同探索なんだろ?」
「そうだけど、俺には俺の目的がある」
「俺にもある」
「だったら別の道へ行ってくれ」
「断る」
蓮司の眉が動いた。
「なぜ?」
「こっちのほうが目的地に近い」
「……地図を見たのか?」
「見た」
「その地図、間違ってる」
「そうかもしれない」
男主人公は歩き出した。
「でも、確かめるまでは分からない」
蓮司はしばらく黙っていた。
「勝手にしろ」
そう言って先に進んだ。
直人が苦笑する。
「絶対、仲悪くなるぞ」
「別に仲良くする必要はない」
復讐者が後ろから言った。
「目的が同じなら、いずれぶつかる」
男主人公は答えなかった。
山道の先に、古い石壁が見えてきた。
その中央には、人が一人通れるほどの裂け目がある。
壁の表面には、長い年月で削られた文字が残っていた。
男主人公は足を止める。
文字の横に、小さな印が刻まれていた。
あの印だった。
祖先の記録に残っていたものと同じ。
男主人公は紙を取り出す。
一致している。
「ここだ」
直人が近づく。
「これが?」
「たぶん」
復讐者が石壁を見上げる。
その時、前方から蓮司の声が聞こえた。
「そこじゃない」
三人が振り返る。
蓮司は少し離れた場所からこちらを見ていた。
「本当の入口は、もっと奥だ」
男主人公は石壁を見る。
そして蓮司を見る。
「どうして分かる?」
蓮司は答えなかった。
ただ、意味ありげに笑った。
「明日になれば分かる」
そう言って、先へ進んでいった。
男主人公はその背中を見つめた。
この男は、何かを知っている。
そしておそらく――
自分たちが探しているものにも、何らかの関係がある。
男主人公は紙をしまった。
「行こう」
三人は蓮司の後を追った。
その先には、まだ誰も入っていない山奥の道が続いていた。




