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観客のいない世界  作者: 亀


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第63章 最後の一人

朝になっても、丘の上の屋敷から煙が上がっていた。


復讐者は、門の前に立っていた。


昨夜、族長と話した。


だが、話し合いで終わる相手ではなかった。


屋敷の中から、怒鳴り声が聞こえる。


「探せ!」


「箱を持って逃げたぞ!」


「見つけたら全員殺せ!」


復讐者は黙っていた。


男主と直人も、その声を聞いていた。


直人が小さく言う。


「……まだ何も変わってないな」


復讐者は頷いた。


「十八年前と同じだ」


屋敷の門が開いた。


数人の男が出てくる。


その後ろから、族長が現れた。


昨日とは違う顔をしていた。


怒りを隠していない。


「お前たちが持っているものを返せ」


復讐者は答えた。


「嫌だ」


「それは私の家のものだ」


「違う」


復讐者は言った。


「俺の家族を殺して奪ったものだ」


族長は鼻で笑った。


「十八年前のことをいつまで引きずる」


復讐者の目が変わった。


「お前は、何も変わっていない」


「変わる必要があるのか?」


族長は言った。


「弱い家が消えた。それだけだ」


「家族も?」


「取引の邪魔だった」


「子供も?」


「邪魔なら同じだ」


直人が息を止めた。


男主は何も言わなかった。


復讐者は族長を見ていた。


長い沈黙のあと、刃物を抜いた。


「そうか」


族長が笑った。


「やっと分かったか」


「何を?」


「お前が俺を殺したい理由だ」


「違う」


復讐者は首を振った。


「理由は十八年前から変わっていない」


一歩前へ出る。


「俺の家族を殺したからだ」


族長が手を上げた。


周囲の男たちが一斉に動いた。


戦いが始まった。


男主が一人を倒す。


直人が別の男を押さえる。


復讐者は族長だけを追った。


「お前に俺を殺せると思うか!」


族長が叫ぶ。


「十八年前も、俺たちは勝った!」


復讐者は答えなかった。


刃物を振る。


族長が避ける。


もう一度。


今度は肩を切った。


族長が後ろへ下がる。


「待て!」


復讐者は止まらない。


「話し合おう!」


「昨日、話した」


「金なら出す!」


「いらない」


「箱も返す!」


「いらない」


族長は逃げようとした。


復讐者がその前に立つ。


「お前は、十八年前から何も変わっていない」


「だから何だ!」


「俺もだ」


復讐者は刃物を握った。


「俺も、お前を殺すために来た」


族長が叫ぶ。


「やめろ!」


その声を最後に、刃物が振り下ろされた。


族長はその場に崩れ落ちた。


誰も動かなかった。


復讐者はしばらく立っていた。


そして、ゆっくり刃物を下ろした。


男主が近づく。


「終わりました」


復讐者は答えなかった。


しばらくして、地面に落ちていた古い鍵を拾った。


「これで全部だ」


「記録も?」


「ああ」


復讐者は木箱を見る。


「俺の家族のことを知るために集めた」


男主が箱を受け取る。


「祖先の記録も入っています」


「持っていけ」


「いいんですか?」


「俺にはもう必要ない」


男主は箱を受け取った。


復讐者は屋敷を振り返った。


「十八年かかった」


直人が何か言おうとした。


だが、復讐者は先に口を開いた。


「長かったな」


それだけだった。


悲しむことも。


喜ぶことも。


誰かに勝利を宣言することもなかった。


ただ、長かった。


それだけだった。


復讐者は荷物を背負った。


「俺は行く」


男主が聞く。


「これから?」


「分からない」


「そうですか」


「ああ」


復讐者は歩き出した。


数歩進んだところで、振り返る。


「お前との契約は、これで終わりだ」


「分かっています」


「助かった」


男主は頷いた。


「こちらも助かりました」


復讐者は今度こそ振り返らずに歩いていった。


男主はその背中を見送った。


十八年前に始まった復讐は、終わった。


だが、男主の手元には新しい問題が残った。


木箱の中にある古い記録。


祖先の名前。


そして、


《第二接続の権限、旧契約者へ返却》


という一文。


男主は紙を取り出した。


「第二接続……」


直人が隣に立つ。


「次は、それを調べるのか?」


男主は紙を見つめた。


「はい」


男はもういない。


復讐は、もう終わった。


ここから先は、祖先の話だった。

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