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観客のいない世界  作者: 亀


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第62章 自分で決めること

夜が明ける前。


丘の上には、まだ薄い霧が残っていた。


白髪の男が倒れた場所には、誰も近づいていない。


復讐者は屋敷の前に立っていた。


その先に、今の族長がいる。


十八年前。


この男の父親が命令を出した。


山賊を動かし、復讐者の家族を殺した。


だが、今の族長自身は、その命令を出していない。


それでも、何も知らなかったわけではない。


十八年前のことを知っていた。


父親のやったことも知っていた。


そして、復讐者が生きていることも知っていた。


「入るか?」


直人が聞いた。


復讐者は頷いた。


「俺一人でいい」


男主はそれを止めなかった。


「分かりました」


復讐者は屋敷へ入った。


族長は応接間にいた。


夜の間、眠っていなかったらしい。


「山賊の頭領は死んだか」


「ああ」


「そうか」


族長は目を閉じた。


「父親も、もういない」


「知っている」


「なら、これで終わりだ」


復讐者は族長の前に立った。


「俺は、十八年間ずっとお前の家を見てきた」


族長は黙っている。


「お前の父親を殺したかった」


「もう死んでいる」


「知っている」


「私を殺すのか?」


復讐者は答えなかった。


族長は椅子から立ち上がった。


「殺すなら、殺せ」


復讐者は刃物を抜いた。


族長の前に立つ。


刃先が胸元に向く。


それでも族長は動かなかった。


「父親は、最後まで何も話さなかった」


復讐者が言う。


「俺の家族が何のために殺されたのかも」


「私もすべては知らない」


「でも、お前は知っていた」


「知っていた」


「俺が生きていることも?」


「知っていた」


復讐者の手が震えた。


「それでも何もしなかった」


「何をすればよかった?」


復讐者は答えない。


族長は続けた。


「父親を止めればよかったと言うのか?」


「知らない」


「私には父親を止める力がなかった」


「それも知らない」


「なら、なぜ私を殺す?」


復讐者は族長を見る。


「……分からない」


その言葉が出たあと、部屋が静かになった。


十八年間。


何度も考えた。


誰を殺すのか。


どうやって殺すのか。


どんな顔で殺すのか。


だが、目の前にいる男については、最後まで答えが出なかった。


復讐者は刃物を下ろした。


族長が目を開く。


「殺さないのか?」


「俺は、俺の家族を殺した人間を殺した」


復讐者は言った。


「お前の父親はもう死んでいる」


そして続けた。


「山賊の頭領も、俺が殺した」


族長は黙っている。


「お前を殺しても、俺には分からない」


「何が?」


「俺が何をしたかったのか」


族長はしばらく復讐者を見ていた。


「そうか」


それだけだった。


復讐者は刃物をしまった。


「ただし」


族長が言った。


「父親の記録を持っていけ」


復讐者が振り返る。


「何?」


「倉庫の奥にある」


族長は鍵を机に置いた。


「私には必要ない」


復讐者は鍵を取った。


「なぜ渡す?」


「お前が十八年間探していたものだろう」


復讐者は何も答えなかった。


屋敷を出る。


男主と直人が待っていた。


男主は復讐者の手を見る。


血はついていない。


「終わりましたか?」


「ああ」


「殺した?」


「一人だけだ」


男主はそれ以上聞かなかった。


復讐者は鍵を見せた。


「これをもらった」


「中身は?」


「まだ分からない」


三人で倉庫へ向かった。


古い棚の奥に、小さな木箱があった。


鍵を差し込む。


蓋を開ける。


中には数冊の帳簿と、一枚の紙が入っていた。


復讐者が紙を取り出す。


そこには十八年前の日付と、複数の名前が並んでいる。


最後に、祖先の名前。


その横には、


《契約終了》


と書かれていた。


男主はその紙を見つめた。


そして、下にある一行に目を止める。


《第二接続の権限、旧契約者へ返却》


「……これだ」


直人が聞く。


「何が?」


男主は紙を持ち上げた。


「祖先が消える前に、何かを返された」


「何を?」


「まだ分からない」


だが、十八年前の事件で祖先が果たした役割は、少しずつ見えてきた。


復讐者は帳簿を閉じた。


「俺のほうは、これで終わりだ」


男主を見る。


「契約も終わりだ」


「ああ」


「お前には助けてもらった」


「こちらも必要な記録をもらいました」


復讐者は少し笑った。


「なら、それでいい」


彼は荷物をまとめた。


「これからどうする?」


直人が聞く。


復讐者は少し考えた。


「分からない」


「復讐が終わったから?」


「そうだな」


それだけ言って、彼は歩き始めた。


誰かがその後の人生を決める必要はなかった。


男主も追わなかった。


自分の調査が残っている。


祖先。


古い契約。


第二接続。


そして、あの金属板。


男主は帳簿を閉じた。


最初の契約は終わった。


次の手掛かりは、祖先が残したものだった。

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