第61章 十八年ぶりの再会
白髪の男は、門の前に立っていた。
昔の面影はほとんどない。
だが、復讐者には分かった。
忘れることなどできなかった。
「あの夜……」
復讐者の声が低くなる。
「お前がいた」
白髪の男は、じっと復讐者を見た。
「誰だ?」
「忘れたのか」
復讐者は一歩前へ出た。
「十八年前、お前は俺の家を襲った」
白髪の男の表情がわずかに変わった。
それだけだった。
「……生き残りか」
「そうだ」
「なるほど」
男は復讐者を見つめた。
「随分と長く生きたな」
復讐者の手が震えた。
男主は何も言わなかった。
直人も動かない。
ここから先は、復讐者自身の問題だった。
白髪の男が笑った。
「何をしに来た?」
「聞きたいことがある」
「十八年前のことか?」
「ああ」
「もう終わったことだ」
「俺には終わっていない」
白髪の男は肩をすくめた。
「家族を殺されたからか?」
復讐者は答えなかった。
「それとも、あの箱か?」
その言葉に、男主が反応した。
白髪の男は男主を見る。
「お前は誰だ?」
「関係ありません」
「そうか」
男は復讐者へ視線を戻した。
「箱は持っているのか?」
復讐者は黙っていた。
男主が一歩前に出る。
「あなたは何を受け取る予定だったんですか?」
白髪の男の目が細くなった。
「それを知ってどうする?」
「祖先のことを調べています」
「祖先?」
「十八年前の取引に関係していた人物です」
男はしばらく男主を見た。
そして笑った。
「……あの男の子孫か」
男主の表情が変わる。
「知っているんですか?」
「名前は知っている」
「何をした人間だった?」
白髪の男は答えなかった。
代わりに復讐者を見る。
「お前の家は、巻き込まれただけだ」
「巻き込まれた?」
「そうだ」
「誰に?」
「俺たちより上だ」
復讐者の顔が険しくなる。
「誰だ」
「知らない」
「嘘だ」
「本当に知らない」
白髪の男は淡々と言った。
「俺は依頼を受けた」
「誰から?」
「族長の父親だ」
「それだけ?」
「ああ」
「じゃあ、なぜ箱を探した?」
男は黙った。
復讐者が一歩近づく。
「答えろ」
「……箱の中には、別のものが入っているはずだった」
「何が?」
「俺は知らない」
「知らないのに受け取った?」
「そういう仕事だった」
復讐者は刃物を抜いた。
男主は動かない。
白髪の男も動かなかった。
「十八年間、ずっと考えた」
復讐者の声が震えていた。
「俺は、お前を殺すために生きてきた」
白髪の男は笑った。
「なら殺せ」
復讐者の手が止まった。
「ここで俺を殺せばいい」
男は両手を広げた。
「十八年前から、何も変わっていない」
「……何?」
「お前は俺を殺す理由を探している」
復讐者の顔が歪む。
「理由ならある」
「家族を殺されたから?」
「ああ」
「それだけか?」
復讐者は答えなかった。
男は静かに続ける。
「俺は命令されたから殺した」
「だから許せというのか?」
「そんなことは言っていない」
白髪の男は首を振った。
「俺は仕事をしただけだ」
その言葉を聞いた瞬間、復讐者が動いた。
刃物が振り下ろされる。
白髪の男が避ける。
二人がぶつかった。
男はまだ強かった。
だが、十八年前とは違う。
復讐者もまた、十八年分の時間を生きてきた。
二人の攻防は長く続かなかった。
白髪の男が倒れる。
復讐者はその上に立った。
刃物を首元へ向ける。
男主は一歩も動かない。
「……殺せ」
白髪の男が言った。
復讐者は刃物を握ったまま動かない。
十八年間、何度も想像した瞬間だった。
だが、実際に目の前にすると、手が止まった。
「お前を殺したら……」
復讐者が呟く。
「俺は何になる?」
男主は答えない。
復讐者は男を見る。
「違う」
自分に言い聞かせるように呟いた。
「そんなことを考えるために来たんじゃない」
刃物を握り直す。
そして――
振り下ろした。
白髪の男の身体から力が抜けた。
復讐者はその場に立ち尽くした。
男主は静かに近づいた。
「終わりました」
復讐者は答えなかった。
しばらくして、刃物を地面に落とした。
「……もう一人いる」
男主は頷いた。
「族長ですね」
「ああ」
復讐者は屋敷を見る。
「でも、あいつを殺すかどうかは……」
そこで言葉を止めた。
男主は何も言わなかった。
復讐者自身が決めることだった。
男主は懐から古い紙を取り出す。
《再接続を要求する》
祖先の名前。
十八年前の取引。
そして、箱。
まだ終わっていない。
復讐者の復讐も。
祖先の謎も。
二つの線は、まだ同じ場所へ向かっていた。




