第60章 十八年前の最後の名前
山賊の頭領がいるという町へ向かう途中、三人は古い街道沿いの宿に泊まった。
復讐者はほとんど眠らなかった。
机の上には、十八年前から集め続けた記録が並んでいる。
商人。
族長。
山賊。
そして、祖先。
男主は一枚ずつ確認していた。
「ここを見てください」
復讐者が顔を上げる。
男主は古い帳簿の一行を指した。
《受領者変更 第三倉庫》
「この記録は、あの箱と同じ日に書かれています」
「何が分かる?」
「誰かが途中で受け取り人を変えた」
「それが俺の家の襲撃につながった?」
「可能性はあります」
男主はページをめくった。
その次のページだけ、切り取られていた。
「ここだけない」
直人が覗き込む。
「わざと破ったのか?」
「たぶん」
復讐者はしばらく黙っていた。
「十八年前も、俺はこれを探した」
「見つからなかった?」
「見つからなかった」
「なぜ?」
「その頃は、何を探せばいいのか分からなかった」
男主は帳簿を閉じた。
「今なら分かる」
「何が?」
「山賊の頭領が、最後の受け取り人だった可能性があります」
復讐者の目が変わった。
「つまり……」
「商人から族長へ」
男主は指で記録を追った。
「族長から山賊へ」
そして最後に祖先の名前を指す。
「その途中に、あなたの家があった」
復讐者は拳を握った。
「俺の家族は、何かの取引に巻き込まれた」
「そう考えるのが自然です」
「じゃあ、あいつらは俺の家族を殺す必要がなかったんじゃないか?」
男主は答えなかった。
「必要があったのかもしれない」
復讐者は自分で言った。
「それとも、邪魔だっただけか」
直人が言う。
「どちらにしても、本人たちに聞けばいい」
その日の夕方。
三人は目的の町に入った。
山賊の頭領は、すでに山賊ではなかった。
今は商会を持ち、町の外れで大きな屋敷を構えている。
名前を変え、昔の仲間もほとんど残っていない。
だが、昔から仕えている老人が一人いた。
男主たちは、その老人を見つけた。
「十八年前のことを知っていますか?」
老人は警戒した。
「何の話だ」
男主は紙を一枚出した。
そこには、あの印が描かれていた。
老人の顔が固まった。
「……誰からそれを?」
「倉庫から」
老人は周囲を確認した。
「ここで話すことじゃない」
三人は人気のない場所へ移動した。
老人は小さな声で言った。
「あの印を持っていた連中は、普通の商人じゃない」
男主は黙って聞いた。
「何者だったんですか?」
「知らない」
「本当に?」
「俺たちにも何も教えなかった」
老人は首を振った。
「ただ、頭領だけは知っていた」
復讐者が聞いた。
「何を?」
「契約だ」
その言葉に、復讐者の表情が変わった。
「十八年前、頭領は誰かと契約した」
「誰と?」
「分からない」
老人は答えた。
「ただ、その契約のために、お前の家を襲った」
復讐者は老人を睨んだ。
「何を奪った?」
「箱だ」
三人が黙った。
「箱?」
「そうだ」
老人は続けた。
「だが、頭領は箱を受け取ったあと、ひどく怒っていた」
「なぜ?」
「中身が違ったからだ」
男主が聞く。
「本来、何が入っているはずだった?」
老人は答えなかった。
しばらくして、震える手で一枚の古い紙を取り出した。
「これだけは残っていた」
男主が受け取る。
紙には、短い文章が書かれていた。
《受領品に不足あり》
その下に、祖先の名前がある。
そして最後に。
《再接続を要求する》
男主は息を止めた。
直人も紙を見る。
「再接続……」
復讐者は意味が分からないまま男主を見る。
「何だ、それ?」
男主はすぐには答えなかった。
祖先の金属板。
第二接続。
契約終了。
そして、十八年前の事件。
全部が少しずつつながっている。
しかし、まだ分からない。
祖先が何を渡し、何を守ろうとしたのか。
男主は紙を折りたたんだ。
「これを持っていきます」
老人は頷いた。
「もう俺には必要ない」
その夜。
三人は屋敷の近くまで移動した。
復讐者が建物を見つめる。
「いる」
「分かるんですか?」
「十八年前と同じだ」
男主が聞く。
「何が?」
「俺は、あいつが人を殺す前の顔を知っている」
復讐者は静かに刃物を握った。
「今夜、終わらせる」
男主は頷いた。
「行きましょう」
だが、屋敷の門が開いた。
中から老人が一人出てくる。
そして、その後ろから白髪の男が現れた。
十八年前、山賊を率いていた男だった。
老人が小さく言った。
「……あれが頭領だ」
復讐者は立ち止まった。
十八年ぶりに、二人の視線が重なった。




