第48章 夢の中の第二接続
その夜、男はなかなか眠れなかった。
机の上には、祖先が残した資料が広げられている。
古い契約書。
途中で途切れた通信記録。
意味の分からない数字。
何度も書き直された地名。
そして、何度も登場する一つの言葉。
――第二接続。
それが何を意味するのかは、まだ分からない。
男は何度目かの資料を読み返した。
古い紙の端には、祖先の筆跡と思われる文字が残っていた。
《第一接続は、こちらから開くものではない》
その下は破れている。
さらに別の資料には、
《第二接続が成立した場合――》
そこから先が消えていた。
「……何なんだよ」
男は紙を机に置いた。
今日一日調べても、分かったことはほとんどない。
ただ、祖先が何かを知っていた。
それだけだった。
男は資料をまとめ、布団に入った。
目を閉じる。
頭の中には、昼間見た文字が残っていた。
第二接続。
第二接続。
第二接続。
やがて、意識がゆっくり沈んでいった。
*
夢の中で、男は古い建物に立っていた。
見覚えのない場所だった。
しかし、なぜか知っている。
ここに来たことがある。
そう思った。
建物の中には、長い机があった。
机の上には、いくつもの金属板が並べられている。
その向こう側に、一人の男が座っていた。
顔は見えない。
ただ、手だけが見えた。
古い金属板に触れている。
「第一接続は終わった」
声がした。
若い男の声だった。
誰の声なのか分からない。
けれど、どこかで聞いたことがあるような気がした。
「では、第二接続を」
金属板が光る。
男は思わず一歩近づいた。
「待ってくれ」
夢の中の自分が声を出した。
しかし、目の前の人物はこちらを見ない。
まるで、そこに誰もいないかのようだった。
金属板に文字が浮かぶ。
《第二接続》
その下に、いくつかの数字が並んだ。
見覚えがある。
祖先の資料に書かれていた数字と同じだった。
「これ……」
男が呟く。
すると、目の前の景色が突然変わった。
別の部屋。
別の人物。
別の日付。
一人の男が誰かと話している。
「契約は続くのか?」
「分からない」
「では、なぜ接続を残す?」
「必要になるかもしれない」
「誰が?」
その質問に、相手は答えなかった。
代わりに、机の上へ小さな金属板を置いた。
「もし戻ってきた人間がいたら、これを使う」
「戻ってくる?」
「そうだ」
「誰が?」
また、沈黙。
男は夢の中でその会話を聞いていた。
不思議だった。
会話の内容は分かる。
だが、人物の顔だけがどうしても見えない。
突然、遠くで警告音が鳴った。
ピッ。
ピッ。
ピッ。
部屋にいた人間たちが一斉に振り返る。
誰かが言った。
「契約終了の通知だ」
男はその言葉を聞いた瞬間、目を覚ました。
*
暗い天井が見えた。
しばらく何も考えられなかった。
呼吸が少し速い。
男は起き上がった。
部屋は静かだった。
夢だった。
そう思った。
だが、妙に現実感が残っている。
男は机を見る。
昨日まとめた資料が置いてある。
その中の一枚が、少しだけずれていた。
男は手を伸ばした。
紙を取る。
そこには祖先の筆跡があった。
《第二接続について》
その文字を見た瞬間、夢の中の光景が蘇った。
第一接続。
第二接続。
契約終了。
男はしばらく動かなかった。
そして、資料を一枚ずつ確認していく。
昨日までは意味の分からなかった数字。
今日の夢に出てきた数字。
一致している。
完全には一致していない。
しかし、三つの数字が同じ順番で並んでいた。
「……偶然か?」
男は呟いた。
答えはない。
夢の内容が本当に何かを伝えているのか、それとも昼間見た資料を頭の中で組み合わせただけなのか。
判断できなかった。
男はもう一度、資料を読む。
その中に、一つだけ気になる文章があった。
《第二接続は、契約者本人のために用意されたものではない》
男の手が止まった。
「じゃあ、誰のためだ?」
その下には何も書かれていない。
破り取られたようになっている。
男は椅子に座った。
しばらく考えたあと、紙を閉じた。
今すぐ答えを出す必要はない。
むしろ、今の自分に分かることは少なすぎる。
ただ一つだけ分かった。
祖先が残した資料には、自分がまだ読めていない部分がある。
そして、その断片は一つの場所にまとまっているわけではない。
別々の紙。
別々の日付。
別々の出来事。
それらを繋げなければならない。
男は資料を鞄に入れた。
「まず、昔の連絡先からだな」
翌朝。
直人が宿の外で待っていた。
男を見るなり、直人が言った。
「寝不足?」
「ちょっと夢を見た」
「どんな?」
男は少し考えた。
「祖先の資料に書いてあったことが、夢の中で繋がった」
直人は笑った。
「それ、夢っていうより調査の続きじゃないか?」
「俺もそう思う」
「で、何か分かった?」
男は首を横に振った。
「まだ分からない」
「じゃあ?」
男は鞄を肩に掛けた。
「分からないから、調べる」
二人は歩き始めた。
今日の目的地は、祖先の古い記録に残っていた住所だった。
そこには、かつて一人の普通の協力者が住んでいたらしい。
祖先と何度か取引をしていた人物。
名前は残っている。
仕事も分かっている。
だが、その人物が祖先と何を話していたのかは分からない。
男はまだ知らなかった。
その人物もまた、祖先が消えた後に、自分の立場を失っていたことを。
そして今も、その頃の出来事を誰にも話していないことを。
二人は、古い住所へ向かった。




