第365章 選ばれた部品
第四管理区の保管施設では、夜明け前から搬入作業が始まっていた。
運び込まれた箱は、通常の設備部品とは別の区画に集められている。担当者は外装に記された番号を照合し、指定された型番に該当するものだけを奥へ運んだ。
それ以外は、別の保管場所へ回される。
作業そのものは単純だった。現場の担当者が判断に迷うこともない。分類基準は作業票に明記されており、対象外の部品を勝手に混ぜることも認められていなかった。
一人の作業員が、箱の中から取り出した小さな金属部品を確認した。
「これも対象なのか?」
隣にいた担当者が作業票を見た。
「型番が一致している。指定区画へ運んでくれ」
「用途は分かっているのか?」
「俺たちの仕事は用途を調べることじゃない」
作業員はそれ以上尋ねず、部品を箱に戻した。
数分後、指定区画の責任者が搬入記録を確認した。数は合っている。型番も一致している。外観に目立った損傷はない。
それだけで受け入れは完了した。
責任者は、受領済みの記録を送信した。
箱はその日のうちに、別の管理区域へ移される予定だった。
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男主が比較作業を始めてから、二日が経っていた。
彼はカイとともに、これまで確認できた旧式部品の規格を並べ、使用されていた設備の種類を分類していた。
単独の型番だけでは、意味を読み取ることは難しい。
しかし、複数の設備で共通して使われていた部品と、特定の設備にしか存在しない部品を分ければ、回収側が何を優先しているのかを絞り込める可能性があった。
カイが画面を切り替えた。
「この接続部品は、通信設備にも輸送設備にも使われている。これだけじゃ判断できないな」
「こっちは違う」
男主は別の記録を示した。
「この制御部品は、確認できた範囲では三種類の設備にしか使われていない。そのうち二種類は、旧式の管理機構に接続されている」
「管理機構か……」
カイは記録を見比べた。
「じゃあ、回収側は管理機構に関係する部品を集めている?」
「まだ断定できない。共通しているのは、部品の用途じゃなくて規格かもしれない」
男主は、画面上の型番を一つずつ確認した。
回収対象に指定されていた部品の中には、単体では大した機能を持たないものもあった。現行設備への接続に必要な変換部品がなければ、動作確認さえできないものも含まれている。
それでも、指定された型番は保管されていた。
単純な再利用が目的なら、もっと効率のよい選び方があるはずだった。
だが、別の可能性も残っている。
回収側が、まだ用途を把握していない部品まで含めて、特定の規格をまとめて確保しているだけなのかもしれない。
「現物を見ないと、これ以上は分からないな」
カイが言った。
「現物を見ても、すぐに分かるとは限らない」
男主はそう答えたが、調査を切り上げるつもりはなかった。
彼らが必要としているのは、部品一つの用途を推測することではない。
回収側が選別に使っている基準と、実際に集められている物品との間に、どのような関係があるのかを見つけることだった。
その関係が分かれば、次に回収される物品を予測できる可能性がある。
逆に、判断を誤れば、価値のない設備を追いかけることになる。
男主は、確認済みの型番だけを別の一覧に移した。
「次に動くなら、この中からだ」
⸻
同じ頃、レイヴンのもとには、合同挑戦の正式な条件が届いていた。
前回のデータ交換を受けて、相手チームは共同で参加する案をまとめていた。ただし、双方の装備構成と個別の戦術データは非公開とし、任務中に取得した特殊資源の扱いについては、挑戦開始前に決めることになっていた。
レイヴンは条件を確認したあと、仲間たちに意見を求めた。
「相手の戦力は悪くない。ただ、こちらが得られるものも限定されている」
一人が言った。
「それなら、単独で参加した方がいいんじゃないか?」
「単独なら、任務中の判断は自由になる。だが、相手が別のチームと組めば、こちらが不利になる可能性もある」
レイヴンは、相手の過去の記録を表示した。
「今回の合同挑戦では、敵を倒すことより、途中で出現する資源を確保することが重要になる。相手が途中で方針を変えた場合、こちらがどう対応するかも決めておく必要がある」
「最初から信用しない前提か」
「信用するかどうかの話じゃない。条件が違えば、判断も変わる。それだけだ」
仲間は画面を見つめ、やがてうなずいた。
彼らは合同挑戦への参加を決めた。
ただし、取得した資源をすべて共同成果として扱う案は受け入れなかった。事前に指定された目標については協力し、それ以外の成果は各チームが独立して確保できるよう、条件を修正した。
相手側も最終的には同意した。
双方が求めているものは、必ずしも一致していない。
それでも、条件を調整すれば協力できる範囲はある。
今回の合同挑戦は、その範囲を確かめる機会になった。
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その日の夕方、男主の端末に短い通知が届いた。
指定型番の一つについて、搬入記録が更新されていた。
記録上、その部品は第四管理区の保管施設に入ったあと、通常の保管区画を経由せず、別の管理区域へ移送されていた。
移送先の名称は表示されていない。
ただし、搬出時刻と受領時刻の間隔から、長距離の輸送ではないことが分かった。
男主は記録をカイに見せた。
「この部品だけ、扱いが違う」
カイは移送履歴を確認した。
「同じ型番のほかの部品は?」
「通常の保管区画に残っている。移送されたのは、今のところこの一つだけだ」
「個体ごとに選別しているのか。それとも、状態が違ったのか」
「まだ分からない」
男主は記録を拡大した。
搬出時の確認欄には、外観と型番の照合結果しか記されていなかった。動作試験の記録はない。修理履歴も添付されていない。
つまり、現場で確認できた情報だけでは、なぜその部品が別の場所へ運ばれたのか判断できなかった。
しかし、一つの可能性が浮かび上がる。
同じ型番の部品をすべて同じ場所へ集めているわけではない。
回収側は、規格による選別のあと、さらに別の条件で物品を振り分けている。
「これを追うか?」
カイが尋ねた。
男主はすぐには答えなかった。
今から移送先を追っても、相手がすでに別の場所へ運んでいる可能性がある。負傷した二人で無理に動けば、前回と同じように相手の行動を確認する前に接触してしまうかもしれない。
それでも、この記録は見過ごせなかった。
これまで彼らが見てきたのは、回収された部品がまとめて運ばれていく様子だった。
今回は、同じ型番の中から一つだけが別の経路へ送られている。
その違いには、何らかの理由があるはずだった。
「今すぐ追いかけるのはやめよう」
男主は言った。
「まず、同じ型番のほかの部品がどう扱われているか確認する。違いが分かれば、次に何を見るべきかも決められる」
カイは移送履歴を保存した。
二人が手に入れたのは、まだ具体的な行き先ではない。
だが、回収側の選別が二段階になっている可能性を示す記録だった。
部品は、集められた時点ですべて同じ価値を持つわけではない。
そして、その価値を判断しているのが誰なのかも、まだ分からない。
男主は端末を閉じた。
第四管理区では、今夜も回収が続いている。
彼らが一つの手掛かりを確かめている間にも、別の部品が選別され、運び出されていく。
追いつくために必要なのは、ただ速く動くことではなかった。
相手が何を基準に選び、どの段階で判断を変えているのか。
その仕組みを見誤れば、どれだけ急いでも、追いかける対象そのものを間違えることになる。




