第360章 止まらない回収
翌朝、カイの端末に新しい情報が届いた。
前日に確認した保守窓口が、別の管理区にある旧式の冷却設備も担当しているという。
施設は稼働中だった。設備の大部分は現行規格に更新されているが、一系統だけ古い接続方式が残されていた。交換すると周辺設備まで停止させる必要があるため、管理者は現状維持を選んでいる。
「また旧式の接続部か」
カイが資料を開いた。
「しかも、こっちは現在も使われている。撤去設備の残骸とは違う」
男は設備の配置図を確認した。
冷却設備は、複数の機器を一つの制御系統につないでいた。旧式の接続部はその端にあり、通常の保守では異常の有無を確認するだけで、分解することはない。
「これが同じ技術の一部かどうかは、まだ分からない」
男は言った。
「ただ、保守窓口が同じなら、どこまで管理しているのかを調べる価値はある」
二人は施設の管理者に連絡を取り、公開可能な保守範囲を確認した。
回答は簡潔だった。
冷却設備の点検は通常どおり行われている。旧式の接続部についても、必要な保守が続けられている。部品の交換時期は、供給元との調整によって決まる。
その供給元は、前日に確認した保守会社とは異なっていた。
カイは二つの契約を並べた。
「窓口は同じなのに、部品の供給元が違う。管理と供給を分けているんだ」
「分けること自体は珍しくない」
「でも、管理窓口が同じで、部品の供給元だけが違う施設がほかにもある」
カイは一覧を拡大した。
同じ構造を持つ施設は、少なくとも四つあった。
どれも設備の用途は異なっている。搬送、冷却、電源、通信補助。共通点は、旧式の接続部が現在の設備の一部として残されていること。そして、保守の責任を負う窓口が、現在の組織体系では確認できないことだった。
「四つ全部を調べる必要はない」
男は一覧を見て、一つの施設を選んだ。
「この通信補助設備は、すでに交換部品の供給が終了している。それなのに、保守契約が更新されている。ここから確認しよう」
「供給が終わっているのに、保守契約だけが続いている?」
「代替部品を使っている可能性もある。まずは現状を確認する」
二人は施設へ向かった。
現地では、通信補助設備が正常に稼働していた。管理者は、旧式の部品を別の部品に置き換えたと説明した。
「元の部品は、かなり前に交換しました。今の部品なら、当面は問題ないと聞いています」
「交換した部品は、どこから?」
「保守担当から届きました。こちらでは詳しい仕様までは把握していません」
管理者は交換時の写真を見せた。
旧式の接続部は確かに交換されていた。しかし、取り付けられた部品は、外形こそ似ているものの、接点の配置が異なっていた。
男は写真を拡大した。
「これ、元の規格に合わせた変換部品じゃないか?」
カイが確認する。
「その可能性はある。だけど、写真だけじゃ断定できない」
「少なくとも、元の部品をそのまま使い続けているわけではない」
二人は管理者に礼を述べ、施設を後にした。
今回の施設では、旧式の部品はすでに取り外されていた。
しかし、単純に廃棄されたわけではない。交換が行われ、設備の稼働は維持されている。
それだけなら、通常の保守作業だった。
問題は、交換部品の仕様を施設側が知らず、供給経路も明確でなかったことだった。
男は写真を保存した。
「これまで見てきた場所では、古い設備が残っていた。ここでは、古い設備を動かすための部品が、新しい部品に置き換わっている」
「つまり、回収する側が、古い設備そのものだけを探しているとは限らないってことか」
「そうだ。古い設備を維持するために、何が必要なのか。その部品がどこから来るのか。そこも追わないといけない」
カイは頷いた。
二人が調べる対象は、現存する装置から、装置を維持するための供給経路へと広がっていた。
その変化が、次の手掛かりにつながるかどうかは、まだ分からない。
⸻
同じ頃、別の施設では、回収作業が予定どおり進んでいた。
交換された旧式部品は、通常の廃棄物として処理される前に、保守担当者によって別の容器へ移されていた。
作業員は部品の数を確認し、交換前後の写真を撮影した。
「旧部品は二点。代替部品は一式。設備の稼働確認も完了しています」
報告を受けた担当者は、受領番号を照合した。
「旧部品は回収先へ送れ。代替部品の仕様書は、現場には渡さなくていい」
「問い合わせがあった場合は?」
「通常の交換部品として回答しろ。設備は正常に動いている。それ以上の説明は必要ない」
担当者は通信を切った。
この作業に、特別な破壊工作は必要なかった。
設備は動き続け、施設の管理者は業務を続けられる。交換は正規の保守作業として記録され、旧部品は廃棄されずに別の場所へ運ばれる。
現場にとっては、故障を防ぐための部品交換だった。
回収する側にとっては、現存する技術を損なわずに、その一部を手元へ移す機会だった。
一つの部品だけでは、何ができるのか分からない。
それでも、異なる施設から集めた部品を比較すれば、単独では見えなかった構造が浮かび上がることがある。
担当者は、今回の回収結果を既存の資料に追加した。
一致する部分が一つ増えた。
だが、まだ接続の全体像は見えていない。
彼らは次の回収予定を確認し、別の施設へ連絡を入れた。
回収は止まらなかった。
⸻
その夜、男は保存した写真をもう一度確認した。
交換前の接続部と、交換後の部品。
外形は似ている。内部構造は違う。
もし、単に設備を維持するための代替部品なら、ここまで複数の施設で同じような管理構造が続く理由は説明できる。
しかし、誰がその仕様を決め、なぜ供給経路が施設ごとに異なるのか。
そこには、まだ分からないことが残っていた。
カイが隣から画面を覗き込んだ。
「次は供給元を直接調べるか?」
「いや。供給元だけを追っても、また別の会社に行き着く可能性がある」
男は写真を閉じた。
「交換された部品が、最終的にどこへ運ばれるのかを確認したい。廃棄されたはずの部品が残っているなら、どこかに行き先がある」
「それが分かれば、回収している側に近づけるかもしれないな」
「そうだ。ただし、まだ誰かが意図的に集めていると決まったわけじゃない」
男は次の調査対象を選んだ。
今度は設備の所在地ではなく、交換済み部品の処理方法が公開されている施設だった。
そこには、廃棄、再利用、保管という三つの区分がある。
二人は、そのうち保管扱いになった旧部品の行方を追うことにした。
現場で何が起きているのかを確かめるために。
そして、古い技術を現在までつないでいる仕組みが、誰の利益になっているのかを知るために。




