第359章 撤去された設備
停止済みの搬送設備があった施設は、第三管理区の境界に近い工業区画に位置していた。
現地へ向かった男とカイを迎えたのは、撤去工事の跡だった。
搬送路は切断され、制御盤も取り外されている。床には新しい設備を設置するための印が引かれ、作業員たちが部材を運んでいた。
施設そのものは、すでに新しい用途へ移行している。
「公開記録と同じだな。搬送設備は残っていない」
カイが周囲を見渡した。
「でも、地下区画は保守対象から外されていない」
二人は管理者に確認を求めた。旧設備の調査が目的だとは告げず、公開情報にある保守契約と現在の施設配置に食い違いがあるため、設備の管理範囲を確認したいと説明した。
管理者は不審そうな顔をしたものの、施設の概要図を見せた。
「ここにあるのは、旧設備の基礎と予備電源の一部だけです。搬送路は撤去しました。地下の区画は現在も保守契約に含まれていますが、通常の業務で立ち入ることはありません」
「何を維持しているんですか?」
「詳しいことは、こちらでは分かりません。以前から契約に含まれていたので、そのまま引き継いでいるだけです」
管理者は契約書の該当箇所を示した。
地下区画の管理項目には、電源設備の確認、接続部の状態確認、異常時の連絡と記されていた。
ただし、対象となる接続部の位置は、現在の施設図面には存在しない。
カイが契約番号を控えようとすると、管理者はすぐに首を振った。
「契約番号は記録して構いません。ただし、地下の保守区画には入れません。管理権限が別になっています」
「別の会社が管理しているんですか?」
「会社というより、契約上の担当窓口が別です。こちらから変更することもできません」
管理者はそれ以上の説明をしなかった。
二人は施設の外へ出た。
「設備の撤去後も、電源と接続部だけが残っている。しかも管理者自身が管理権限を持っていない」
カイが言った。
「第四管理区の設備と同じだと考えるには、まだ足りない。でも、誰が維持しているのかを調べる理由にはなる」
男は頷いた。
そのとき、施設の搬入口から小型の保守車両が出てきた。
車両の側面には、先ほど確認した保守会社の識別標識があった。後部には密閉型の運搬容器が固定されている。
二人は車両を追わなかった。
ここで勝手に追跡すれば、現地調査そのものが別の問題になる。代わりに、施設の管理者が公開している作業予定と照合した。
その日の作業予定に、保守会社の訪問は記載されていなかった。
カイが画面を見せた。
「予定外の作業だ」
「緊急対応かもしれない」
「故障は報告されていない」
男は車両が曲がっていった方向を確認した。
「車両を追うより、作業の記録が残るかどうかを見よう。保守契約に含まれる作業なら、何らかの処理記録が必要になるはずだ」
二人はその場を離れた。
今回、地下区画を直接確認することはできなかった。
しかし、設備の所有者、日常の管理者、保守契約の窓口が、それぞれ別になっていることが分かった。
そして、その構造は一つの施設だけの事情ではない可能性があった。
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保守車両は、工業区画を出たあと、一般道を経由して小規模な倉庫へ入った。
運搬容器が降ろされ、受付担当者が受領番号を照合する。
容器の中には、旧式設備から取り外された接続部品が二つ入っていた。どちらも外観上はありふれた部品だったが、接点の配置と内部構造は現行規格とは一致しない。
担当者は二つを別々の棚へ移した。
「同じ場所から回収したものですか?」
「違います。ひとつは停止設備、もうひとつは稼働中の施設からです」
「まとめて解析しないんですか」
「指示では、まず個別に確認することになっています」
担当者は受領記録を確定させた。
回収物の由来は、倉庫内の一般的な在庫一覧には表示されない。参照できるのは、受領番号を知る者だけだった。
その後、別の担当者が棚から部品を一つ取り出し、寸法と材質を測定した。
結果は、すでに集められていた複数の部品と部分的に一致した。
ただし、同じ規格だからといって、同じ装置に属していたとは限らない。
担当者は測定結果を送信し、部品を元の棚へ戻した。
数分後、別の案件に対する回収指示が更新された。
次の対象は、現在も稼働している施設だった。
その施設では、旧式の接続部品が現行設備の一部として使用されている。交換するには設備全体を停止させる必要があり、施設側は交換を先送りしていた。
回収を担当する者たちは、施設の運用を止めるつもりはなかった。
必要なのは、部品が交換される時期を把握し、通常の保守作業に紛れて回収できる機会を確保することだった。
彼らは施設の管理者に、交換部品の供給が遅れる可能性を伝えた。
管理者は、運用への影響を避けるため、交換時期の調整を受け入れた。
誰も、そこに大きな陰謀があるとは考えなかった。
保守の遅延は珍しくない。旧式設備の交換には時間がかかる。担当会社が変われば、引き継ぎに不備が出ることもある。
個々の出来事には、それぞれもっともらしい理由があった。
その理由を利用して、古い技術を集める者たちがいた。
そして、彼らが技術を回収するたびに、現場に残された情報と実際の設備との間には、小さな食い違いが増えていった。
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その夜、男の端末に施設管理者から追加の連絡が届いた。
地下区画の管理窓口について、確認できた範囲の情報が送られてきたのだ。
担当窓口の名称は、現在の管理区の組織一覧に存在していなかった。
だが、契約そのものは有効だった。
男は画面をカイに見せた。
「組織が存在しないのに、契約だけが残っているわけじゃない。契約を管理する窓口が、現在の組織体系に登録されていないんだ」
「古い組織が名称を変えて存続している可能性もある」
「そうだな」
男は送られてきた情報を保存した。
「次は、その窓口が管理している別の施設を調べよう。設備の種類ではなく、管理先がどこで重なっているのかを確認する」
カイは頷いた。
二人が追っているものは、まだ一つの技術にはまとまっていない。
それでも、撤去された設備、残された接続部、登録されていない管理窓口という三つの事実は、同じ方向を示し始めていた。
次に確かめるべきなのは、窓口の正体ではない。
その窓口が、今も何を維持し、何を動かしているのかだった。




