第357章 残された接続口
旧設備の記録に残っていた接続規格は、現在の管理区では使われていないものだった。
それでも、カイが照合を続けた結果、ひとつだけ一致する設備が見つかった。
場所は第四管理区の外縁から離れた、旧物流施設の地下。
現在は別の用途に転用されているが、施設の基礎部分だけは当時の構造を残している。
「ここだな」
カイが画面を拡大した。
「旧図面では、この壁の向こうに接続口がある。現行の配置図だと、壁そのものがないことになっている」
男は二つの図面を見比べた。
「つまり、改修の際に撤去されたか、図面に載らない形で残されたか」
「どちらにしても、現地を見ないと分からない」
二人は施設へ向かった。
現在の物流施設は稼働中だった。搬入口には運搬機が往来し、作業員たちが決められた経路を行き来している。地下区画も完全な廃墟ではなく、一部が保守設備の管理場所として使われていた。
勝手に立ち入れば、すぐに警備に見つかる。
男は施設の外から、搬入と保守作業の動きを観察した。
やがて、保守用の運搬機が地下へ降りていく。その側面には、現在の管理区では見かけない旧式の接続端子が取り付けられていた。
男は足を止めた。
「運搬機に、あの規格を使っているのか」
カイも端子を確認した。
「いや。外側は旧規格に見えるが、接点の並びが違う。変換部品を使っているんだ」
運搬機が通り過ぎたあと、カイは施設の保守案内を確認した。
端子の交換履歴は公開されていない。
しかし、保守担当の区分だけは表示されていた。
第四管理区の記録が失われたあとも、この施設の設備を担当しているのは、複数の管理区にまたがる外部保守組織だった。
「ここを入口にするのは難しいな」
カイが言った。
「正規の手続きで地下を確認するには時間がかかる。かといって、勝手に入り込めば、こちらの動きまで記録される」
男は返事をせず、運搬機が消えた通路を見ていた。
問題は、旧設備が残っているかどうかだけではなかった。
誰かが古い接続規格を変換し、現在の設備の中で使い続けている。
それが単なる保守上の判断なのか、それとも旧管理区に関係する何かを維持するためなのか。
まだ断定はできない。
だが、図面上から消えた設備が、現実の運用からも完全に消えたとは限らないことは分かった。
「保守組織の担当区分を調べよう」
男は言った。
「設備そのものに触れなくても、誰が維持費を出し、誰が交換部品を運んでいるかは追える」
カイが頷いた。
「ただし、相手が普通の保守組織なら、こちらが追っている理由を説明できない」
「だから、最初から相手を疑う必要はない。通常の設備確認として、分かる範囲を調べる」
二人は施設を離れた。
その判断が正しかったかどうかは、まだ分からなかった。
ただ、次に調べるべき対象は、地下の壁ではなく、壁の向こう側にある設備を現在まで維持してきた人間と組織だった。
⸻
同じ日の夜。
別の場所では、運搬機から取り外された変換部品が、無記名の保管箱へ移されていた。
作業員は部品の表面を清掃し、刻印を撮影した。内部の接点には触れず、外観と寸法だけを記録する。
「現地の設備は?」
受け取りを担当した男が尋ねた。
「稼働を継続しています。交換履歴に不自然な空白がありますが、現場の担当者は過去の経緯を把握していません」
「部品の供給元は分かったか」
「通常の保守経路を通っています。ただし、発注元は途中で変わっています」
受け取り担当者は記録を確認した。
発注元の変更は一度ではない。
古い組織が解体されたあと、設備の維持を別の組織が引き継ぎ、その組織も再編されている。現在の担当者から見れば、単なる業務移管の連続だった。
だが、その連続した移管によって、設備の由来を知る者がいなくなっていた。
「部品は別に保管しろ。現地への追加接触は必要ない」
「解析は進めますか」
「寸法と材質の確認だけだ。接続試験は許可が出るまで行うな」
受け取り担当者は指示を記録した。
この部品が何に使われていたのか、彼にはまだ分からない。
ただ、古い技術を集める仕事では、目立つ装置よりも、誰も価値を認めなくなった交換部品のほうが重要になることがある。
装置そのものは撤去されても、接続規格は別の設備へ引き継がれる。
部品が別の場所へ移されても、その部品を必要とする仕組みまで同時に移されるとは限らない。
集める側が必要としているのは、必ずしも完成した装置ではなかった。
失われた構造を再び組み立てるための、互いに異なる断片だった。
保管箱の蓋が閉じられた。
その部品が、どこまで全体像に近づくためのものなのか。
受け取り担当者にも、まだ知らされていなかった。




