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観客のいない世界  作者: 亀


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第356章 同じ場所を探す者

第四管理区から持ち帰った資料を整理したあと、男は調査対象を変えた。


地下設備そのものを調べ続けるのではなく、設備が移設された可能性のある時期と、その前後に動いた人間を探す。


ただし、手掛かりは限られていた。


旧管理区の記録は欠落している。設備配置図には用途が書かれていない。現場には、誰が何を運び出したのかを示す明確な記録も残っていなかった。


「普通に考えれば、移設記録があるはずなんだけどな」


カイが資料をめくった。


「移設が正式な手続きで行われたなら、そうだろうな」


「なかった場合は?」


「記録に残らない形で運び出されたか、別の記録体系に移されたか。あるいは、俺たちが見ている資料が不完全なのか」


男は机の上に三枚の図を並べた。


第四管理区の設備配置図、現場で撮影した壁面、そして地下装置の接続部分。


「この三つを比べると、装置そのものより、装置の先に何があったかが重要に見える」


「接続先を探すのか?」


「それだけじゃない。接続先が別の場所に移されたのなら、移された先でも何らかの形で管理されているはずだ。装置の規格が変わっていれば、記録の名前も変わっているかもしれない」


カイは図面を見直した。


「同じ名称を探すだけでは見つからない可能性があるな」


「そういうことだ」


男は、第四管理区の設備が現在の形式とは異なる規格で作られていたことを思い出した。


古い名称が残っていないからといって、関連する設備まで消えたとは限らない。


一方で、名称が似ているという理由だけで、無関係な設備を追いかけるわけにもいかなかった。


必要なのは、名前ではなく、機能と接続関係から候補を絞ることだった。


男は右手を動かさずに済むよう、カイに図面の一部を拡大してもらった。痛みは以前より軽くなっていたが、強く握る動作はまだ避ける必要がある。


「今日はここまでにしよう。続きは、資料を照合できる場所が分かってからでいい」


カイは意外そうに男を見た。


「もう少し進めなくていいのか?」


「同じ資料を何度見ても、新しい情報が増えるわけじゃない。それに、今の段階で結論を急ぐと、似た規格の設備を全部追いかけることになる」


男は資料をまとめた。


「調べる範囲を広げる前に、何が分かっていて、何が分かっていないのかを分けておきたい」


カイは反論せず、資料を片づけた。


*


その日の夕方、別の場所で、第四管理区から移された部品の保管記録が更新された。


記録を担当していた者は、部品の識別情報と保管場所を照合し、作業を終えたあと、上位の管理者へ報告を送った。


報告は短かった。


保管状態に異常はない。


追加の移動も必要ない。


旧設備との照合は継続する。


受信した男は、内容を確認してから別の記録を開いた。


第四管理区の技術は、彼が収集しているものの一部にすぎない。


取得した技術を一つずつ研究し、何に使えるかを確かめる。それと同時に、まだ取得できていない技術の所在を探す。どちらか一方だけに集中すれば、全体の進行が止まる。


彼は、現時点で必要な作業を担当者ごとに振り分けた。


ある者には既存技術の検証を続けさせ、別の者には新たな収集候補の調査を進めさせる。第四管理区の件については、現場の動向を確認するだけで十分だった。


調査者が何を発見するかは、まだ分からない。


だが、彼らが同じ設備を調べているからといって、同じ結論にたどり着くとは限らなかった。


同じ場所に立っていても、持っている情報も、必要としているものも違う。


彼は報告を閉じ、次の作業に移った。


*


翌日、雷文から新しい情報が届いた。


第四管理区と同じ規格を持つ設備が、過去の資料にもう一か所だけ記載されているという。


ただし、その設備の所在地は明確ではなかった。名称も第四管理区とは異なり、用途の記録も欠けている。


カイが情報を読み、男に端末を渡した。


「これが接続先なのか?」


「まだ分からない。規格が同じだからといって、直接つながっていたとは限らない」


男は記録を拡大した。


その設備は、第四管理区の図面にあるものと同じ形式の接続部を持っていた。しかし、設置された時期は不明で、移設の記録も見つかっていない。


「少なくとも、調べる理由はできた」


男はそう言って、端末を返した。


「ただし、先に場所を確認する。現地へ行くのは、それからだ」


カイは情報を整理し、雷文へ確認を依頼した。


第四管理区から始まった調査は、ようやく別の場所へ向かう可能性を得た。


それでも、技術がそこにあるとは限らない。


すでに移されているかもしれないし、記録にあるだけで実物は残っていないかもしれない。


男は、そのどちらも考慮に入れたまま、次の連絡を待つことにした。

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