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観客のいない世界  作者: 亀


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第351章 受け付ける者

 主人公は、朝から一つの疑問に取り組んでいた。


 後継権限の申請待機。


 後継者識別、未確定。


 この二つの状態が残っている以上、過去の管理体系には、権限を引き継ぐための仕組みが存在していたと考えられる。


 しかし、その仕組みが現在も動いているとは限らない。


 申請を受け付ける設備が停止している可能性もあれば、申請を受け付ける権限そのものが、すでに返却されている可能性もある。


 主人公は、レイヴンに確認を依頼した。


「過去の記録に、申請を受け付ける側の状態は残っていませんか?」


「今、確認している。だが、後継権限に関する記録は断片的だ。申請者側の条件は見つかっても、受け付ける側の条件は記載されていないものが多い」


「受け付ける側が、別の管理区に存在していた可能性は?」


「否定できない。権限を申請する場所と、申請を審査する場所が同じとは限らないからな」


 主人公は、その言葉を聞いて資料を開き直した。


 これまで彼は、後継権限の申請を、旧管理区に残された仕組みの中で完結する手続きだと考えていた。


 しかし、申請する側と受け付ける側が別々の場所に存在するなら、三つの旧管理区記録を集めることだけでは足りない可能性がある。


 記録を提出する先が必要になる。


 そして、その提出先が現在も存在しているかどうかを確かめなければならない。


 午後、レイヴンから追加の資料が届いた。


 古い管理記録の中に、権限の申請を受け付ける設備について触れた記述が一つだけ残っていた。


 ただし、設備の名称は記載されていなかった。


 残されていたのは、管理区の識別情報と、短い状態表示だった。


 ――受付機能、待機。


 主人公は、これまでに見つかった二つの状態表示と並べた。


 ――後継権限の申請待機。


 ――後継者識別、未確定。


 そして、今回の記録。


 ――受付機能、待機。


 三つは、似た言葉を使っている。


 だが、それぞれが同じ仕組みの状態を示しているのか、それとも別々の機能なのかは分からない。


「この管理区は、どこにあるんですか?」


 主人公が尋ねると、レイヴンは地図を送ってきた。


 表示された位置は、これまで接続反応が確認された二つの旧管理区とは異なっていた。


 現在の管理網には登録されているものの、通常の運用区域から外れた場所だった。


 しかも、そこには現役の設備が存在していなかった。


 過去の記録では、すでに役割を終えた区域として扱われている。


「現地の設備は、まだ残っているんでしょうか?」


「分からない。現役の設備がないことと、すべての機能が失われていることは同じではない」


「確認に行くことはできますか?」


「安全確認が必要だ。今回の接続反応との関係も分かっていない。まずは管理側に、現在の状態を確認してもらう」


 主人公は了承した。


 彼自身が現地へ行けば何かが分かるかもしれない。


 しかし、現在の状態が分からない場所へ、手掛かりがあるという理由だけで入るべきではなかった。


 それに、受付機能が待機しているという記録が正しいなら、設備を無理に動かさなくても、状態を確認する方法が残っている可能性がある。


 彼は、その方法を探すことにした。


 夕方、管理側から最初の回答が届いた。


 対象区域には、過去に使われていた設備の一部が残っている。


 現在の運用設備は撤去されているが、地下にある旧式の接続設備については、撤去されたことを示す記録が見つかっていなかった。


 つまり、設備が残っている可能性はある。


 ただし、管理側も内部の状態までは把握していなかった。


 主人公は回答を読み、レイヴンに伝えた。


「現役の設備はないけれど、旧式の接続設備が残っているかもしれないということですね」


「そうだ。だが、今回の記録にある受付機能と、地下の設備が同じものかは分からない」


「それなら、設備の有無と、機能が残っているかどうかを分けて確認する必要があります」


「そのとおりだ」


 レイヴンは、現地の安全確認を依頼すると伝えた。


 主人公は、調査が進むのを待った。


 その夜、彼は三つの箱の記録をもう一度確認した。


 箱そのものには、まだ変化がない。


 封印は維持され、保管場所にも新たな異常は報告されていなかった。


 それでも、箱に関係する記録の外側で、過去の管理体系が動いている可能性が少しずつ高まっている。


 これまで見つけた記録は、権限を返却する条件と、後継者が存在する場合の再申請について述べていた。


 今回見つかった記録は、その申請を受け付ける機能について触れている。


 もし三つが同じ仕組みに属しているのなら、過去の管理者たちは、権限を返却したあとに何が起きるかまで考えていたことになる。


 ただし、受付機能が待機しているというだけでは、誰かが申請できることも、申請が受理されることも保証されない。


 主人公は、その違いを忘れないようにした。


 翌朝、レイヴンから連絡が入った。


 対象区域の安全確認が始まったという。


 現地で設備の存在が確認できれば、次は外部から状態を読み取れるかどうかを調べる予定だった。


 主人公は、その報告を受けて資料を整理した。


 後継者が誰なのかは、まだ分からない。


 申請を待っているのが誰なのかも分からない。


 それでも、申請を受け付ける機能が残っている可能性は、初めて具体的な場所と結びついた。


 その日の午後、現地確認を担当していた管理側から、予想していなかった報告が届いた。


 対象区域の地下で、旧式の設備が見つかった。


 設備は停止しているように見えた。


 電力も供給されていない。


 だが、外装に記された識別情報は、過去の記録に残っていた管理区の識別情報と一致していた。


 そして、設備の操作部には、現在の管理網では使用されていない表示が一つだけ残っていた。


 ――申請者を指定してください。

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