第347章 保管場所からの報告
翌日の午前、保管担当者から回答が届いた。
通信遅延が発生した際、保管設備の外部通信には異常が記録されていた。しかし、箱を収めた保管区画の内部通信には、異常がなかったという。
主人公は報告を読み返した。
箱そのものに異常があったわけではない。
少なくとも、現在確認できる範囲ではそうだった。
彼は担当者に追加の操作を依頼しなかった。保管設備の記録を確認するだけならともかく、原因が分からない現象を追うために、封印された箱や保管区画の設定を変更する理由はない。
必要なのは、現状を維持したまま、何が起きたのかを絞り込むことだった。
主人公は報告をレイヴンに転送した。
数分後、レイヴンから連絡が入った。
「旧管理区の反応と、保管場所の通信遅延。どちらも現在の管理網との接続に関係している可能性がある。ただし、同じ原因だと判断するには情報が足りない」
「はい」
「保管場所はそのまま維持する。箱には触れない。旧管理区についても、制限が解除されるまでは待機だ」
「分かりました」
通話が終わると、主人公は画面を閉じた。
調査が止まったわけではない。
むしろ、今は余計な操作をしないこと自体が重要だった。
箱の保管状態は維持されている。旧管理区の現象については管理側が安全確認を進めている。両者の関係は未確定だが、必要な情報はそれぞれの担当者から得られる。
自分がすべてを直接確認しなければならないわけではない。
そう考えたところで、別の通知が届いた。
今度は、匿名の発信者からではなかった。
以前から使っている連絡先に、短いメッセージが届いていた。
――保管場所の通信遅延について、確認できたことはある?
主人公は送信者を確認した。
以前から連絡を取り合っている相手だった。箱の存在や、その周辺で見つかった記録についても、必要な範囲で情報を共有している。
主人公は、確認できた事実だけを伝えた。
箱の保管区画には異常が記録されていないこと。異常があったのは外部通信であること。保管状態は変更せず、管理担当者が記録を保存していること。
返事はすぐには来なかった。
しばらくして、相手から一文だけ届いた。
――外部通信に異常があったのなら、保管場所そのものではなく、接続先を確認した方がいい。
主人公は、その文章を読んで考えた。
保管設備の外部通信に異常があったという事実だけでは、接続先に問題があったとは限らない。通信経路の不具合でも、設備側の処理遅延でも、同じような記録が残る可能性がある。
それでも、今回の現象を考えるうえでは、有効な確認項目だった。
彼は返信した。
――接続先の情報も、管理担当者に確認してもらいます。ただし、現時点では原因を特定できていません。
送信すると、相手から短い返事が届いた。
――それでいい。原因が分かるまでは、変えない方がいい。
主人公は端末を置いた。
その言葉には、これまでのやり取りと同じ慎重さがあった。
箱を急いで開けようとしないこと。確認できた事実と推測を分けること。そして、分からないものを無理に一つの説明へ押し込まないこと。
それは、今の状況に合った判断だった。
午後、管理担当者から接続先に関する追加報告が届いた。
通信遅延が発生した時間帯、保管設備は通常の接続先とは異なる応答を一度だけ受け取っていた。
応答の内容は記録されていない。
送信元を示す識別情報も、通常の形式では保存されていなかった。
ただし、設備の設定が変更された形跡はなく、保管区画へのアクセスも確認されていない。
主人公は、その報告を読み終えたあと、しばらく画面を見つめていた。
通常とは異なる応答。
設定変更の形跡はない。
保管区画へのアクセスもない。
この三つを並べても、原因は分からない。
だが、旧管理区で起きた接続反応と合わせて考えるなら、現在の管理網が把握していない接続先が、どこかに存在する可能性はあった。
主人公は、レイヴンに追加報告を送った。
今回は、単に情報を伝えるだけではなかった。
旧管理区と保管場所の接続記録を、それぞれの担当者が保存したうえで、共通する形式があるかどうかを比較してほしいと依頼した。
記録の内容が異なっていても、応答の形式や処理の順序に共通点があれば、同じ仕組みが関係している可能性を検討できる。
逆に、共通点がなければ、両者を無理に結びつける必要もない。
レイヴンからは、確認を進めるという返事があった。
主人公はそこで調査を止めた。
その日の夜、彼は匿名の通知をもう一度読み返した。
――接続が消えたのではない。接続先が、向こうから切り替わった。
送信者は、保管場所の通信遅延についても知っていたのだろうか。
それとも、別々の現象を知る者が、それぞれ異なる情報を送ってきただけなのか。
今の段階では判断できなかった。
ただ、主人公は一つのことに気づいていた。
これまで見つけてきた記録は、過去の管理者が何を定め、どのような条件で接続を閉じるつもりだったのかを示していた。
しかし、現在起きている現象は、その記録に書かれた手順だけでは説明できない可能性がある。
過去の規則が残っていることと、現在の仕組みがその規則どおりに動いていることは、同じではない。
そして、もし誰かが現在の接続先を変更できるのなら、その人物は、主人公がまだ知らない仕組みを理解していることになる。
主人公は、保管担当者から届いた最後の報告を保存した。
箱は開けない。
現場にも勝手に入らない。
その代わり、今ある記録を使って、次に確認すべきことを決める。
彼が端末を閉じた直後、レイヴンからもう一度連絡が入った。
「比較結果が出た」
主人公は画面を開いた。
レイヴンの次の言葉を待った。
「旧管理区と保管場所の記録に、共通する処理形式が一つ見つかった。通常の管理網では使われていない形式だ」
主人公は姿勢を正した。
「同じ仕組みだと確認できたんですか?」
「そこまでは言えない。ただ、無関係だと片づけることもできなくなった」
レイヴンは少し間を置いた。
「それから、もう一つ。保管場所の記録に残っていた応答は、現在の設備から送られたものではないらしい」
「では、どこから?」
「分からない。だが、記録上の応答先は空欄ではなかった」
主人公は画面を見つめた。
接続先は、存在しなかったのではない。
記録に残らない形で、指定されていた。
それが何を意味するのか、まだ分からない。
ただ、旧管理区で起きた現象と、三つの箱を保管する場所で起きた異常は、初めて同じ問いの中に置かれた。
現在の管理網に登録されていない接続先は、いったいどこに存在しているのか。




