第345章 予定にない接続
次の訓練案内が届いた翌朝、主人公は集合場所へ向かう途中で足を止めた。
端末に、通常の任務通知とは異なる警告が表示されていた。
発信元は、彼がこれまで何度か接触してきた旧管理区関連の情報窓口だった。
本文は短い。
――旧管理区の一部で、登録されていない接続反応を確認。現地への接近は制限中。関係者は待機せよ。
主人公は通知を二度読み返した。
旧管理区という言葉自体は珍しくない。過去の施設や設備が残されている区域は複数あり、現在の管理体制に統合されていない場所もある。
だが、登録されていない接続反応という表現は、以前に確認した記録と無関係だとは思えなかった。
彼は通知の詳細を開いた。
場所は、これまで調べていた旧管理区の一つだった。
そこには、三つの箱に関係する記録の中で見つけた管理区名と、同じ表記が含まれていた。
偶然の一致である可能性はある。
しかし、何も確認せずに無関係と判断することもできなかった。
「どうした?」
隣まで来ていたカイが、主人公の手元を覗き込まずに尋ねた。
「旧管理区で、予定にない接続反応があったらしい」
「任務か?」
「まだ分からない。接近制限が出ているから、少なくとも今すぐ現地へ行くことはできない」
「それなら、待つしかないな」
「そうだね。ただ、何が起きたのかは確認したい」
主人公は通知を保存し、集合場所へ向かった。
訓練の開始前、レイヴンにも同じ情報が届いていた。
彼は参加者を集めると、今回の訓練を予定どおり実施するかどうかについて説明した。
「現時点で、今回の訓練と旧管理区の反応に関係があるという情報はない。訓練は予定どおり進める。ただし、外部から新たな指示があった場合は変更する」
それ以上の説明はなかった。
主人公も、無理に質問を重ねなかった。
今分かっているのは、ある区域で通常とは異なる反応が確認されたことだけだ。反応の原因も、誰が接続を発生させたのかも分かっていない。
それでも、彼の意識は通知に引き戻されていた。
訓練が始まってからも、主人公は与えられた任務を進めた。右手に負担のかかる作業は避け、必要な情報の整理と各小隊との連絡を担当する。
午前の任務が終わる頃、追加の通知が届いた。
旧管理区の接続反応が、いったん消失したという。
しかし、続く一文を読んだとき、主人公は端末を持つ左手に力を込めた。
――反応の発生位置は、旧式の管理設備内部。外部からの接続記録は確認されていない。
外から接続した記録がないのに、内部で反応が発生した。
それだけでは、何かが起動したのか、既存の設備が誤作動したのかさえ判断できない。
だが、主人公は以前に確認した記録を思い出していた。
《返却先が存在しない場合、接続は閉鎖される》
あの記録が示していたのは、単なる設備の構造ではなかった。
接続には条件があり、条件が満たされなければ閉鎖される。そして、その条件を定めた仕組みが現在も残っているのなら、使われていないはずの設備が、何らかの理由で反応する可能性はある。
もちろん、今回の現象が同じ仕組みによるものだという証拠はない。
主人公は、その点を混同しないようにした。
訓練終了後、レイヴンが彼を呼び止めた。
「この件について、何か心当たりがあるのか?」
「以前に見つけた旧記録と、関係がある可能性はあります。ただ、場所が一致していること以外に、確かな根拠はありません」
「その記録を見せられるか?」
「原本ではなく、確認できた部分なら」
レイヴンは少し考えた。
「分かった。推測と確認済みの事実を分けて整理してくれ。こちらからも情報を照会する。ただし、現地への接近制限が解除されるまでは動くな」
「分かりました」
主人公はその場を離れ、保管場所に預けてある三つの箱を思い浮かべた。
箱はまだ開いていない。
中に何があるのかも、すべての記録が何を意味するのかも分からない。
それでも、過去に残された情報と、現在起きている現象が、少しずつ同じ方向を向き始めているように見えた。
その夜、主人公の端末に、旧管理区の情報とは別の通知が届いた。
差出人は表示されていない。
本文も、一行だけだった。
――接続が消えたのではない。接続先が、向こうから切り替わった。
主人公はしばらく、その文章を見つめていた。
通知の発信元を調べても、通常の返信先は表示されなかった。
誰が送ったのかは分からない。
ただ、送信者は、単に接続反応が消失したという報告だけでは分からないことを知っていた。
主人公は通知を保存した。
そして、初めて一つの可能性を考えた。
今回の反応は、何かが偶然起動したのではなく、誰かが接続先を変更した結果なのかもしれない。
もしそうなら、問題は旧管理区の設備が動いたことではない。
誰が、何を接続先に選んだのか。
その答えは、まだどこにも記されていなかった。




