第344章 誰が情報を持っていたのか
演習終了後、三つの小隊は別々の場所で報告をまとめた。
第一小隊は部品を搬入し、中央設備を復旧させた。第二小隊は入口付近で敵を引きつけながら、設備内部の状況を確認した。第三小隊は負傷者四名を撤収させ、全員を無事に集合地点まで送り届けた。
任務そのものは達成されていた。
しかし、レイヴンが評価のために集めた報告書には、一つの食い違いがあった。
「第二小隊は、どうして西側の扉の存在を知らなかった?」
彼が尋ねると、第二小隊の隊長が答えた。
「初期資料に記載がなかったからです。現場に到着してからも、入口を押さえられていたので、別の経路を探す余裕がありませんでした」
「第一小隊は?」
「現地で扉を見つけました。最初は内部につながっているか分かりませんでしたが、管理側への照会で保守通路だと確認できました」
レイヴンは頷いた。
「では、第三小隊は?」
第三小隊の隊長が答えた。
「こちらは西側の扉について、何も知りませんでした。負傷者を連れて移動していたため、別の経路を探す余裕もありませんでした」
レイヴンは三つの報告を並べた。
誰かが嘘をついたわけではない。
第一小隊は扉を見つけ、第二小隊は入口を守り、第三小隊は負傷者を撤収させていた。それぞれが自分の任務を進めるために動いていた。
それでも、情報の共有が遅れたことで、全体の判断には余計な時間がかかった。
「今回、最も早く全体の状況を把握できたのは誰だと思う?」
レイヴンの質問に、すぐには答えが返らなかった。
主人公は少し考えてから口を開いた。
「最初から全体を把握していた人はいなかったと思います。第一小隊は扉を見つけたけれど、第二小隊が入口で何をしているかは分からなかった。第二小隊は入口の敵を見ていたけれど、別の経路があることを知らなかった。第三小隊は負傷者の撤収を優先していたので、中央設備の状況を詳しく把握していませんでした」
「では、誰が一番よい判断をした?」
「それも、結果だけでは決められません。第一小隊が扉を見つけなければ部品を運び込めなかったかもしれませんが、第二小隊が入口を維持していなければ、設備の担当者と合流できなかった可能性があります。第三小隊が負傷者の移動を急ぎすぎていたら、別の問題が起きていたかもしれません」
レイヴンは主人公を見た。
「つまり?」
「一つの小隊だけを評価するより、情報がどこで止まり、どこで共有されたことで状況が変わったのかを確認する必要があります」
レイヴンは短く頷いた。
「そのとおりだ。ただし、全員が協力したから成功した、という結論だけで終わらせるな。どこで情報が必要になったのか、誰がそれを持っていたのか、どうすればもっと早く共有できたのか。そこまで考えろ」
主人公は報告書に目を落とした。
今回、最初に問題になったのは、中央設備の構造が分からなかったことだった。
しかし、構造図を全員に渡せば、それだけで問題が解決するわけでもない。情報が増えれば、確認すべき内容も増える。すべてを最初から共有しようとすれば、必要な情報を見つけるまでに時間がかかる可能性もある。
必要なのは、単純に情報を増やすことではない。
任務を進めるうえで、誰が何を知っていなければならないのかを整理することだった。
報告会が終わると、カイが主人公の隣に並んだ。
「今回は、前より少し分かりやすかったな」
「何が?」
「情報が足りないとき、どこへ聞けばいいのかが分かった。前は、知らないものを見つけるたびに、何をすればいいか考え直していたからな」
「今回は、現地で確認できることと、管理側に聞かなければ分からないことを分けられたからだと思う」
「それでも、通信が途切れたら同じことになるだろう?」
「そうだね。だから、通信が使えない場合にどうするかも考えておく必要がある」
カイは笑った。
「また考えることが増えたな」
「増えたというより、今まで見えていなかったものが見えるようになったんだと思う」
主人公はそう答えたが、自分でも完全に整理できているわけではなかった。
訓練を重ねるたびに、できることが増える一方で、これまで気づかなかった問題も見つかる。
それは、成長していないということではない。
以前なら問題だと認識できなかったことを、今は問題として扱えるようになったということでもある。
その日の夕方、レイヴンは管理側から届いた資料を確認していた。
中央設備の旧式保守通路について、追加の情報があった。
今回の訓練で使われた区域には、現在の訓練用設備に加え、過去の施設から残された保守経路がいくつか存在していた。西側の扉も、その一つだった。
ただし、今回の訓練で使用された経路は、事前に訓練用の設定として登録されていたものではない。
管理側は、施設の構造を更新した際に、保守経路の一部が現在の訓練用地図に反映されていなかった可能性があると説明していた。
レイヴンは資料を閉じた。
これで、少なくとも西側の扉が存在した理由は説明できる。
しかし、以前に見つかった北西側の保守区画とは別の場所だった。今回の情報だけで、両者を結びつける理由はない。
彼は北西側の確認申請を別件として残し、中央設備の訓練記録を整理した。
翌日、主人公の端末に次回の訓練案内が届いた。
今回は、これまでとは違う形式になるという。
任務の開始時点で与えられる情報は少なく、参加者は自分たちで必要な情報を集めなければならない。さらに、途中で任務条件が変化する可能性もある。
主人公は案内を読み終え、端末を閉じた。
右手はまだ完全には回復していない。強い握力を必要とする訓練には参加できず、実際の戦闘動作も制限されている。
それでも、判断や情報整理まで止める必要はなかった。
次の訓練で何が起きるかは、まだ分からない。
ただ、今回の経験から一つだけ確かなことがあった。
情報を持っていることと、その情報を必要な場面で使えることは、同じではない。
そして、誰かが知らないことを、知っている側が想像できなければ、情報は共有されないまま残る。
次の訓練では、その違いがさらに大きな結果につながるかもしれなかった。




