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観客のいない世界  作者: 亀


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第343章 開ける者がいない

 中央設備の入口に戻ると、第二小隊の隊員二人が壁際に身を寄せていた。


 敵の姿は見えない。だが、入口の向こうから物音が聞こえ、内部に入った隊員からの連絡も途絶えていた。


「中に入った隊員は?」


 主人公が尋ねると、第二小隊の隊長が答えた。


「入口を通過したところまでは確認できた。その後、奥へ進んだらしいが、通信が途切れた」


「設備の担当者と合流できたか?」


「まだだ」


 主人公は入口の奥を見た。


 敵が移動したことで、入口を通過する機会は生まれた。しかし、内部の状況が分からないまま人数を増やせば、今度は外側の警戒が薄くなる。


「こちらからも一人入る。もう一人は入口に残って、外の状況を確認してくれ」


 第二小隊の隊長が頷いた。


 主人公はカイとともに入口を通過した。右手を使った強引な動きは避け、壁や障害物に触れるときも左手を使う。


 内部の通路は短い分岐が多く、地図にも詳細が記載されていなかった。


 数十メートル進んだところで、先行した隊員を見つけた。


「設備の担当者は見つかったか?」


「まだです。ここの通路は途中で分かれています。奥から音がするので、誰かが作業している可能性はあります」


「通信が途切れた理由は?」


「分かりません。端末の故障か、設備の影響かもしれません」


 主人公は周囲を確認した。


 分岐の一方は中央の作業区画へ、もう一方は保守通路へ続いているようだった。西側で見つけた扉は、この保守通路につながっている可能性がある。


 だが、今は内部の担当者を探すことが先だった。


「二人で作業区画を確認する。カイはここで分岐を記録して、入口側と連絡が取れるか試してくれ」


「分かった」


 主人公は先行した隊員と作業区画へ向かった。


 通路の先に、小さな部屋があった。内部には工具箱と予備の部品が並び、壁際の端末が点滅している。


 部屋の奥で、一人の担当者が制御盤を操作していた。


「中央設備の担当者ですか?」


 主人公が声をかけると、担当者は振り返った。


「そうだ。入口側から来たのか?」


「はい。設備の復旧を進めたいのですが、こちらの状況が分かりませんでした」


「通信が不安定なんだ。外部からの接続は切れているが、内部の制御は動いている。交換部品が届けば復旧できる」


 主人公は状況を確認した。


 設備は停止しているが、破損が広がっているわけではない。部品を交換できれば、再起動できる見込みがある。


「部品は入口側にあります。運び込める状態です」


「なら、すぐに持ってきてくれ。時間がない」


 主人公は端末を開き、入口側へ連絡を試みた。


 だが、通信はつながらなかった。


 カイがいる分岐点とも連絡が取れない。


 主人公は担当者に尋ねた。


「西側の保守通路から、ここへ入れますか?」


「西側? ああ、古い保守通路か。通路自体はつながっている。ただし、外側の扉は内側からしか解錠できない。制御盤の操作が必要だ」


「その操作は、ここからできますか?」


「できるはずだ。ただ、今は設備の復旧作業を優先している。操作盤の状態を確認するには、一度こちらの作業を止めなければならない」


 主人公は考えた。


 西側の扉を使えれば、入口を通らずに部品を運び込める可能性がある。しかし、そのためには制御盤の操作が必要で、作業を中断することになる。


 一方、入口側の通信は途絶えている。敵が再び戻ってきたのか、それとも単なる通信障害なのか、確認できない。


 主人公は担当者に尋ねた。


「制御盤の確認には、どれくらいかかりますか?」


「数分だ。ただし、作業を止める間、設備の復旧は進まない」


「分かりました。まず、制御盤の状態だけ確認してください。西側の扉を開けられるかどうかが分かれば、部品の搬入方法を決められます」


 担当者は頷き、操作盤を切り替えた。


 数分後、画面に保守通路の状態が表示された。


 西側の扉は正常。内側からの解錠も可能だった。


「これなら開けられる。ただし、外側にいる人間と連絡が取れないと、扉を開けても誰も入ってこられない」


 主人公は端末を操作し、再びカイへ連絡を試みた。


 今度は短い雑音のあと、声が聞こえた。


『こちらカイ。聞こえるか?』


「聞こえる。西側の扉は内側から開けられる。外側で待機して、開いたら部品を運び込んでくれ」


『了解。そっちは?』


「設備の担当者を見つけた。部品が届けば復旧できる。ただし、入口側の状況はまだ確認できていない」


『分かった。こちらで入口側との連絡も続ける』


 通信が切れた。


 主人公は担当者に向き直った。


「西側の扉を開けてください。部品が届いたら、すぐに復旧作業へ戻れるよう準備をお願いします」


 担当者が操作すると、端末に解錠の表示が出た。


 その直後、部屋の奥で警報音が鳴った。


「何だ?」


 主人公が尋ねると、担当者は別の画面を確認した。


「入口側の接続が再び有効になった。誰かが操作したらしい」


 主人公は端末を見た。


 入口側からの通信が戻っている。


『こちら第二小隊。入口付近に敵が戻ってきた。現在、外側で交戦中。部品を運び込むなら、西側を使ってくれ』


 主人公はすぐに返答した。


「了解。西側から部品を搬入する。入口側は無理に押し返そうとしないでくれ。設備の復旧が終わるまで、位置を維持できる範囲で対応してほしい」


『了解』


 通信を切った主人公は、担当者に確認した。


「部品が届いたら、復旧までどれくらいかかりますか?」


「交換だけなら三分ほどだ。起動確認まで含めても、五分あれば足りる」


 主人公は西側の扉へ向かった。


 扉の向こうから、カイの声が聞こえた。


「部品を持ってきた。開けてくれ」


 内側から解錠し、扉を開く。


 カイと輸送担当者が部品を運び込んだ。入口側で敵が再び動き始めた以上、ここで時間を無駄にするわけにはいかない。


 部品が担当者へ渡され、交換作業が始まった。


 主人公は扉を閉じ、内部の状況を確認した。


 入口側から敵が侵入してくる可能性はまだ残っている。しかし、西側から部品を運び込めたことで、復旧作業そのものは進められる。


 数分後、制御盤の表示が切り替わった。


 中央設備、復旧。


 任務達成の通知が端末に届いた。


 だが、入口側の交戦はまだ終わっていない。


 主人公は通信を開いた。


「第二小隊、設備は復旧した。撤収できるか?」


『こちら第二小隊。敵が入口から離れた。今なら撤収できる』


「了解。負傷者がいないか確認してから戻ってくれ。追撃は不要だ」


 通信を切ると、カイが息を吐いた。


「間に合ったな」


「ああ。ただ、西側の扉を見つけていなければ、部品を運び込めなかった可能性がある」


「最初から構造図を共有してくれていれば、もっと早かったのに」


「そうだね。でも、誰かが意図的に隠していたわけじゃない。初期資料に含まれていなかっただけだ」


 主人公は、復旧した設備の表示を見た。


 今回の問題は、誰かが間違った情報を伝えたことではなかった。


 必要な情報を持っている人間が、互いに離れた場所にいたこと。そして、情報を共有するまで、相手が何を知っているのかさえ分からなかったことだ。


 訓練終了の合図が鳴った。


 レイヴンから全員に集合命令が届く。


 主人公は端末をしまい、カイとともに出口へ向かった。


 西側の扉は、今も開閉できる状態にある。


 最初に見つけたときには、ただの使われていない通路に見えた。


 だが、必要な情報を得たことで、そこは任務を進めるための経路に変わった。


 見つけたものの価値は、それだけでは決まらない。


 何につながっているのかを知り、使える条件を確認して、初めて選択肢になるのだった。

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