第342章 共有されなかった情報
「第二小隊に、設備の構造図があるか聞いてくれ」
主人公の指示で、カイが通信を送った。
返答はすぐには来なかった。
中央設備の入口では、第二小隊が敵と接触している。こちらが部品を運び込めば、修理を始められるかもしれない。しかし、入口が塞がれたままでは、部品を届けることすら難しい。
「西側から回り込めないか?」
同行している担当者が地図を指した。
「外周を回れば、設備の裏側へ出られる可能性はある。ただ、そこに出入口があるかは分からない」
主人公は地図上の道路を確認した。
迂回路を選ぶこと自体は難しくない。問題は、その道を通った先に何があるか分からないことだった。
前回の演習でも、地図にない通路が判断を狂わせた。今回も、地図に描かれていない構造を想像だけで補うわけにはいかない。
端末が鳴った。
『こちら第二小隊。構造図は持っていない。初期資料には入口の位置しか記載されていなかった』
「了解。入口以外の出入口を現場で確認できるか?」
『敵が入口を押さえている。こちらから離れると、入口を奪われる可能性がある』
主人公は短く息を吐いた。
第二小隊は、敵を排除できないから動けないのではない。入口を守るために、別の場所を調べる余裕がないのだ。
「こちらから一人、外周を確認に向かわせる。第二小隊は入口を維持してくれ。敵が動いたら、人数と方向を知らせてほしい」
『了解』
主人公はカイに視線を向けた。
「俺が外周を確認する。二人は部品を持って、安全な位置で待機していてくれ」
「お前の手で、どうやって確認するつもりだ?」
「戦うわけじゃない。見える範囲を調べるだけだ」
「一人で行く必要はないだろう」
カイの言葉はもっともだった。
主人公は少し考え、同行していた担当者に部品の管理を任せたうえで、カイと二人で外周へ向かうことにした。
設備の西側には低い塀が続いていた。塀の向こうは資材置き場になっており、視界が遮られている。
二人は塀に沿って移動した。
途中、主人公は地面に落ちていた小さな標識を見つけた。表面には設備管理用の記号が記されている。
「これ、地図の記号と違うな」
カイが拾い上げた。
「管理用の表示かもしれない。どこに付いていたものか分かる?」
「地面に落ちていたからな。位置だけ記録しておこう」
主人公は端末で標識を撮影し、座標を保存した。
さらに進むと、塀の向こうに細い通路が見えた。資材置き場の間を抜け、設備の裏側へ続いている。
二人は入口を確認した。
通路の先には、灰色の扉があった。
「出入口か?」
「可能性はある。でも、開くかどうかも、設備の内部につながっているかどうかも分からない」
主人公は扉に近づきすぎず、周囲を観察した。
扉の横には小さな操作盤がある。表示は消えていたが、破損した形跡は見当たらない。
彼は第二小隊へ連絡した。
「設備の西側に、別の扉を確認した。操作盤がある。そちらから設備内部の構造を確認できるか?」
『こちらでは分からない。入口側の操作盤にも、別の扉についての表示はない』
主人公は操作盤を見た。
ここから無理に開けようとするのは危険だった。訓練用の設備とはいえ、操作盤が何を制御しているか分からないまま触れば、余計な問題を起こす可能性がある。
「扉は確認した。操作はしない。管理側に構造を照会する」
カイが頷いた。
「また待つことになるな」
「待つこと自体が問題なんじゃない。待っている間に、別の任務がどうなるかを考えないといけない」
主人公は第二小隊に連絡した。
「西側に扉を見つけたが、すぐには使えない。入口の状況は変わったか?」
『変わっていない。敵は入口の外側に二人。奥にもう一人いるように見える』
主人公は少し考えた。
第二小隊が入口を維持している間に、こちらは扉の情報を確認できる。だが、管理側から返答が来るまで待てば、部品の搬入が遅れる。
そこで、彼は第三小隊に連絡した。
「こちら第一小隊。中央設備の入口が敵に塞がれている。西側に別の扉を確認したが、内部につながっているかは不明。そちらの撤収状況を教えてほしい」
『第三小隊。負傷者を含め、四名とも移動中。西側の経路を使っている。あと数分で合流地点に到着する見込みだ』
「了解。こちらの状況を確認できるまで、無理に中央へ近づかないでくれ」
『分かった』
通信を終えた主人公は、地図と現場を見比べた。
第三小隊は負傷者を連れて移動している。第一小隊は部品を運び、第二小隊は入口を維持している。
誰か一つの任務を優先するだけでは、全体がうまく進まない。
そのとき、管理側から返答が届いた。
『西側の扉は設備の保守通路につながっている。訓練区域の設定上、通行可能。ただし、内部からの解錠が必要』
主人公は画面を確認した。
「内部からの解錠?」
カイが聞き返した。
「そう。外側からは開けられないらしい」
つまり、別の入口を見つけただけでは状況は変わらない。
内部に誰かがいるなら開けてもらえる。しかし、中央設備の内部にいる人員は、入口の外で敵と接触している第二小隊とは別の担当者だった。
主人公は管理側へ、内部の担当者と連絡が取れるか確認した。
返答を待つ間、第二小隊から新たな通信が入った。
『敵が入口から離れた。二人が北側へ移動している。残り一人は入口の近くにいる』
主人公はすぐに地図を見た。
敵の移動は、こちらが西側の扉を確認したこととは無関係かもしれない。だが、入口の守りが薄くなったことは事実だった。
「第二小隊、入口を確保できるなら、無理のない範囲で内部へ入ってくれ。ただし、残り一人の位置を見失わないこと。危険ならその場で止まっていい」
『了解』
主人公はカイとともに、第二小隊の位置へ戻り始めた。
西側の扉を使う方法は、まだ確立していない。
しかし、敵の配置が変わったことで、入口側から状況を進められる可能性が出てきた。
情報を共有しても、すべての問題が解決するわけではない。
それでも、誰かが見つけたものを別の誰かが利用できれば、選べる行動は増える。
主人公は端末を確認した。
管理側からの返答は、まだ届いていなかった。
中央設備の復旧も、負傷者の撤収も、どちらも終わっていない。
次の判断に必要な情報は、まだ揃っていなかった。




