第341章 同じ情報では動けない
次の訓練は、予定より一日早く始まった。
集合場所に着いた主人公は、参加者がいつもより少ないことに気づいた。前回の少人数訓練と同じ顔ぶれもいるが、別の班から加わった者もいた。
レイヴンは全員を集めると、端末を操作した。
「今回は三つの小隊に分かれる。各小隊には別々の任務が与えられる。ただし、三つの任務は同じ区域で進行する」
壁面に地図が表示された。
西側は物資の搬送、中央は通信設備の復旧、東側は施設からの人員撤収。三つの区域は道路でつながっているが、どの小隊も単独では全体の状況を把握できない。
「各小隊には、それぞれ異なる初期情報を渡す。情報を共有するかどうか、どの時点で共有するかも各小隊の判断に任せる」
カイが小さく笑った。
「情報を持っているのに、出さないやつがいたらどうするんだ?」
「それも含めて訓練だ」
レイヴンは即答した。
「ただし、意図的に嘘をついた場合と、情報を持っていなかった場合は区別する。結果だけで評価するつもりはない」
主人公は地図を見つめた。
今回の任務では、敵の配置だけでなく、味方が何を知っているかも不確定になる。
自分の判断が正しくても、ほかの小隊が違う情報を持っていれば、全体としては失敗する可能性がある。
その逆もあり得る。
「第一小隊、前へ」
主人公は呼ばれた班に加わり、個別の説明を受けた。
彼らの任務は、西側の物資集積所から交換部品を運び、中央設備の復旧を支援することだった。初期情報には、東側の施設に負傷者がいる可能性があると記されている。ただし、人数も移動経路も不明だった。
また、中央設備が停止している理由については、情報がなかった。
「ほかの小隊の任務を聞いてもいいですか?」
主人公が確認すると、説明役は首を振った。
「任務の共有は禁止されていない。ただし、各小隊の初期資料はそれぞれ別に配布されている。自分たちで連絡を取って確認してくれ」
主人公は資料を閉じた。
前回と同じように、足りない情報をどう補うかが問題になる。
しかし今回は、情報を得るために移動すること自体が、任務の遅れにつながるかもしれない。
開始の合図が鳴った。
第一小隊は物資集積所を出発した。
最初の分岐点で、カイが地図を確認した。
「中央へ直接向かうか、東側へ連絡を取りに行くか。どっちにする?」
「まず中央設備の状況を確認したい。ただ、連絡だけなら移動する必要はない」
主人公は端末から第二小隊へ通信を送った。
『こちら第一小隊。中央設備の状況を確認したい。現在、何が分かっている?』
返答までに時間がかかった。
『第二小隊。設備の外側に敵影はない。ただし、内部の状況は確認できていない。こちらは修理に必要な部品を探している』
「部品を探している?」
主人公は眉を寄せた。
自分たちは部品を運んでいる。だが、第二小隊がそのことを知らないなら、同じ部品を別の場所で探している可能性がある。
「こちらは交換部品を運搬中だ。必要な部品の種類を確認してくれ。合致するなら、そちらの捜索時間を短縮できる」
『了解。確認する』
主人公は通信を切った。
「最初から共有されていれば、無駄な捜索をしなくて済んだな」
カイが言った。
「でも、第二小隊が何を探しているのか、こちらは知らなかった。向こうも、こちらが部品を持っていると知らなかった。別々の情報を持っているなら、こういうことは起きる」
彼らは移動を続けた。
その途中、第三小隊から通信が入った。
『こちら第三小隊。東側施設から撤収させる人員は四名。うち一名は負傷しており、移動速度が遅い。西側の経路を使いたいが、そちらの状況を教えてほしい』
主人公は地図を確認した。
西側の経路は、第一小隊が通ってきた道だった。今のところ敵影はない。しかし、途中に狭い区間があり、負傷者を運ぶなら時間がかかる。
「西側の経路は現在通行可能。ただし、狭い区間がある。負傷者がいるなら、移動に時間がかかる可能性がある。中央設備の状況が分かれば、別の経路を検討できる」
『了解。こちらでも別経路を確認する』
通信が切れた。
主人公は歩きながら考えた。
第三小隊は、負傷者を安全に撤収させる必要がある。第一小隊は部品を届けなければならない。第二小隊は設備を復旧させようとしている。
それぞれの任務は別々だが、経路は重なっている。
誰か一つの小隊が自分の任務だけを優先すれば、別の小隊の行動を妨げる可能性があった。
やがて、第二小隊から返答が届いた。
『必要な部品と一致している。そちらの部品が届けば、設備の復旧作業に入れる』
「了解。こちらは中央設備へ向かう」
主人公は進路を決めた。
その直後、第三小隊から再び通信が入った。
『東側の別経路で敵影を確認。西側へ移動する。そちらの通行状況に変更はないか?』
「今のところない。ただし、中央設備へ向かう途中で状況が変わる可能性はある。移動前にもう一度連絡する」
主人公は通信を終えた。
情報を共有したことで、第二小隊の捜索は不要になった。第三小隊も、別経路の危険を知って進路を変更できた。
だが、それで全員が安全になったわけではない。
彼らが中央設備に近づいたとき、前方から銃声が響いた。
カイが足を止める。
「敵か?」
「まだ分からない。音の方向と、第二小隊からの報告を確認してくれ」
主人公は端末を開いた。
通信はつながっている。
しかし、第二小隊からの返答はなかった。
数秒後、画面に新しい通知が表示された。
『中央設備の入口で接触。修理作業は未開始。敵の人数は不明』
主人公は地図を見た。
部品を運ぶだけなら、予定どおり中央へ進めばいい。
だが、第二小隊が入口で敵と接触した以上、部品を届けても、設備を復旧できるとは限らない。
第三小隊は負傷者を連れて移動中だ。こちらが人員を割けば、部品の搬送が遅れる。
主人公はカイと担当者を見た。
「まず、第二小隊に敵の位置と、入口を通過できるか確認する。こちらから無条件に突っ込むことはしない」
「もし、向こうが動けなかったら?」
「そのときは、部品をどこに置くかも含めて判断する。今は、何が起きているのかを確認するのが先だ」
主人公は通信を送った。
返答を待つ数秒が、これまでの訓練より長く感じられた。
今回、彼らは同じ場所に向かっている。
それでも、同じ状況を見ているわけではなかった。
そして、誰かの判断を待っている間にも、別の小隊の任務は進んでいる。
通信端末の表示が変わった。
第二小隊からの返答だった。
『敵は入口を塞いでいる。別の出入口があるか、こちらではまだ確認できていない』
主人公は地図を広げた。
中央設備の構造は、彼らの初期資料には記されていない。
ここから先は、誰かが持っている情報を共有してもらうか、現場で確かめるしかなかった。




