第335章 敵も知らない道
資材置き場の扉を閉めてから、主人公たちはしばらく動かなかった。
向こう側の足音は遠ざかっていない。
敵は旧整備区画の入口付近に残っているらしい。
「この道を使うのは難しそうだな」
同行者が言った。
「今すぐ通るのは難しい。でも、敵がここにいるなら、こちらも位置を把握しておく価値はある」
主人公は通信機を取り出した。
「南側の別入口を解除する担当者は、どこまで来ている?」
『中央区画を出たところだ。あと少しで合流できる』
「了解。到着したら、まず外壁の端末を確認してほしい。俺たちは通用口の状況を調べる」
通信を切ると、主人公は地図を開いた。
旧整備区画から基地内部へ抜ける道は使える可能性がある。しかし、敵がその経路を知っている以上、ここを主な移動経路にするのは危険だった。
一方、南側の別入口は端末を解除できれば使える。
通用口には敵がいるが、敵の配置が変われば、救出されたチームを安全に移動させられるかもしれない。
「通用口の敵を、正面から排除する必要はない」
主人公は地図上の二つの入口を指した。
「別入口を開けて、基地内部から通用口へ回り込めれば、敵に挟まれずに移動できる」
「でも、別入口を開けた瞬間に敵が気づくんじゃないか?」
「気づくと思う。だから、開けたあとに何をするかを先に決めておく」
主人公は仲間に役割を伝えた。
二人は外壁沿いで敵の移動を監視する。もう一人は救出されたチームと連絡を取り、負傷者を動かせる状態か確認する。主人公と同行者は、解除担当者と合流して別入口へ向かう。
全員が同じ場所に集まることは避けた。
そのとき、救出されたチームから通信が入った。
『通用口の敵が一人、北側へ移動した。残り二人は入口付近にいる』
主人公は地図を確認した。
北側へ移動した敵が、旧整備区画にいる敵と合流する可能性がある。そうなれば、基地内部へ抜ける道が完全に塞がれるかもしれない。
「通用口の二人は、こちらが動いたことに気づいているか?」
『わからない。こちらは遮蔽物の陰にいる。まだ見つかっていないと思う』
「そのまま待機してくれ。こちらから合図を送るまで動かないでほしい」
通信を切った直後、解除担当者が到着した。
「状況は聞いた。端末まで案内してくれ」
主人公たちは南側の別入口へ向かった。
先ほど端末を操作していた敵の姿はなかった。だが、扉の横には新しい足跡が残っている。
解除担当者は端末を調べた。
「外部からロックされている。内部の認証があれば解除できるが、解除後も扉が開くとは限らない」
「どういうことだ?」
「ロックを解除しても、扉そのものが物理的に固定されている可能性がある。無理に開ければ、開閉機構が壊れるかもしれない」
主人公は扉を確認した。
「壊さずに開ける方法はあるか?」
「内部から操作できればいい。だが、今の状態では保証できない」
解除担当者は端末を操作し始めた。
画面に認証表示が現れ、しばらくしてロックが解除された。
しかし、扉は動かなかった。
「やはり、内部からの操作が必要だ」
主人公は通信機を取り出した。
「中央基地、別入口のロックは解除できた。ただし、扉が開かない。内部側から操作できるか?」
『確認する。扉の位置を送ってくれ』
主人公は位置情報を送信した。
返答を待つ間、同行者が周囲を警戒した。
「敵が戻ってくる前に、開けられるといいな」
「そうだな。ただ、開けられなかった場合のことも考えておく」
主人公は外壁の角を見た。
敵が戻ってきた場合、こちらは端末の前で動けなくなる。退路を確保しないまま作業を続けるのは危険だった。
「扉の前から少し離れよう。敵が来たら、すぐに遮蔽物へ移動できる位置で待つ」
全員が移動した直後、通信が入った。
『内部側の操作盤を確認できた。こちらから開閉操作を試す』
数秒後、重い駆動音が響いた。
扉がゆっくりと開き始めた。
「開いたぞ」
同行者が声を上げた。
主人公はすぐに通信をつないだ。
「救出されたチームへ。別入口が開いた。今から移動経路を確認する。まだ動かずに待機してくれ」
彼は解除担当者とともに扉の内側へ入った。
内部は狭い通路になっており、中央基地の整備区画へつながっていた。通路の途中には、物資を運ぶための小型搬送機が置かれている。
扉が開いたことで、南側の敵を通らずに基地内部へ移動できる経路が確保された。
しかし、主人公はすぐには味方を呼ばなかった。
通路の床には、細かな破片が散らばっている。
そして、奥の角には、つい最近動かされたばかりの搬送機があった。
「ここも使われている可能性がある」
解除担当者がうなずいた。
「搬送機が動いた跡がある。敵が通ったのかもしれない」
主人公は通路の奥を確認した。
敵の姿はない。
だが、旧整備区画にも敵がいた。こちらの通路も敵が知っている可能性は否定できない。
「入口を確保する。二人はここに残って、扉の開閉を管理してくれ。俺たちは通路の先を確認する」
主人公と同行者は整備区画へ進んだ。
通路の先には、中央基地の内部へ続く扉があった。
扉は開いていた。
その向こうから、機械の音と隊員たちの声が聞こえてくる。
主人公は基地内部へ戻り、すぐに南側の状況を確認した。
「別入口は使える。救出されたチームを、そこから基地内部へ移動させる」
通信の向こうで、隊員が答えた。
『了解。ただし、負傷者を連れて移動するには時間がかかる』
「急がなくていい。敵が来たら、戦わずに引き返してくれ。こちらが入口を確保しておく」
主人公は仲間に合図を送り、南側へ戻った。
救出されたチームは、指定した経路に沿って移動を始めていた。
負傷者を支える隊員が先頭を歩き、残りの者が周囲を警戒している。
全員が別入口へ到着するまでには、まだ時間が必要だった。
主人公は入口の外側を見張りながら、敵の動きを確認した。
通用口にいた二人の敵のうち、一人がこちらへ向かってくる。
主人公はすぐに合図を送った。
「全員、内部へ移動してくれ。最後の一人が入ったら扉を閉める」
負傷者を支える隊員が通路へ入った。
最後尾の隊員が扉の内側へ消えた瞬間、敵が角から姿を現した。
敵は開いた扉を見て、すぐにこちらへ走り出した。
主人公は扉の前から退いた。
同行者が扉の操作盤へ手を伸ばす。
だが、敵の射撃が始まり、操作盤の前へ出られない。
「閉められない!」
主人公は遮蔽物へ身を隠した。
敵は扉へ向かってくる。
ここで交戦すれば、負傷した右手では対応が難しい。敵を押し返せたとしても、背後にいる味方を危険にさらす。
主人公は周囲を見た。
扉の脇には搬送機が置かれていた。
「搬送機を動かせるか?」
「操作盤がある。だが、動かすには少し時間がかかる!」
「扉の前まで動かさなくていい。通路を塞ぐ位置まで移動させてくれ!」
同行者が操作盤へ向かった。
主人公は敵の注意を引きつけるため、別の遮蔽物へ移動した。
敵がこちらへ射撃する。
主人公はすぐに身を隠し、無理に反撃しなかった。
その間に、搬送機が動き始めた。
低い駆動音とともに、搬送機が通路の中央へ移動する。
敵は進路を変えようとしたが、狭い通路では十分な速度を出せない。
その隙に、同行者が扉の操作盤へたどり着いた。
扉が閉じ始めた。
敵が最後の距離を詰めようとした瞬間、重い金属扉が通路を遮った。
射撃音が途切れた。
主人公はしばらく扉を見つめたあと、息を吐いた。
救出されたチームは全員、基地内部へ移動できた。
しかし、敵がこの入口の存在を知った以上、ここを使い続けることは難しい。
「入口を確保したのは一時的だ。次に敵が来たら、同じ方法は通用しないかもしれない」
同行者がうなずいた。
「それでも、全員を移動させることはできた」
「そうだな。今は、それで十分だ」
主人公は通信機を取り出した。
中央基地の防衛設備は、まだ稼働している。
北側の補修も完了した。
負傷者を含むチームも基地内部へ移動できた。
残る問題は、正面入口にいる敵と、基地の外周を移動している部隊だった。
主人公は地図を開いた。
敵が南側の入口を見つけた以上、次に狙うのは、まだ使われていない経路かもしれない。
彼は仲間たちに告げた。
「ここを守るだけでは終わらない。敵が次にどこへ向かうか、こちらから確認する」
そのとき、中央基地の通信機から新しい報告が入った。
『敵部隊が撤退を開始した。ただし、北側の外周に一部の敵が残っている』
主人公はすぐに地図を確認した。
撤退。
それは任務の終わりを意味するのか。
それとも、次の攻撃に備えて位置を変えているだけなのか。
彼は通信をつないだ。
「敵の撤退方向を確認してくれ。追撃はしなくていい。こちらは基地の防衛を維持する」
返答を聞いたあと、主人公は地図を閉じた。
今回の任務は、まだ終わっていない。
だが、少なくとも今は、守るべき人間を全員、同じ場所へ集めることができた。




