第334章 開かない扉の向こう
警告音が鳴り続けるなか、主人公は地図を見直した。
北側の接続設備を直すには、制御室の人員が必要だった。南側の入口を解除するにも、同じ人員が必要になる。
どちらかを優先すれば、もう一方は危険にさらされる。
しかし、今の状況で南側の入口を無理に開けようとすれば、敵との交戦が長引き、北側の補修まで間に合わなくなる可能性があった。
「制御室に確認する。北側の補修は、誰か一人でも代われる作業なのか?」
通信をつなぐと、設備担当が答えた。
『接続状態の監視は交代できる。ただし、補修そのものは設備の構造を理解している人間でないと難しい』
「監視を交代できれば、制御室の人間を一人、南側へ回せるか?」
『可能だ。ただ、北側の状態が急変したら、すぐに戻ってもらう必要がある』
主人公は地図に印をつけた。
「一人だけでいい。南側の端末を解除できる人を送ってくれ。こちらは敵の動きを監視する」
通信を切ると、同行者が尋ねた。
「その人が来るまで、敵が待ってくれるとは限らないぞ」
「待ってくれるとは思っていない。だから、来るまでに移動経路を確保する」
主人公は救出されたチームへ連絡した。
「外壁沿いの整備用通路は見つかったか?」
『見つけた。ただし、通路の先は資材置き場で行き止まりだ。扉はあるが、内側から開けられるかはわからない』
「扉の周囲に敵はいるか?」
『今のところ見えない』
主人公は少し考えた。
資材置き場が基地内部につながっているなら、そこを使って負傷者を移動させられる。だが、扉が開かなければ、狭い通路に人を集めるだけになる。
「扉は無理に開けないでくれ。こちらから確認に向かう」
「また分かれるのか?」
同行者が尋ねた。
「全員で向かう必要はない。二人はここで敵の移動を監視してくれ。俺たちは整備用通路へ行く」
同行者は不満そうな顔をしたが、反論はしなかった。
主人公たちは外壁沿いを移動した。
途中、遠くから短い銃声が聞こえた。南側の通用口付近で交戦が起きたらしい。
主人公は足を止めた。
「味方からの連絡は?」
「まだない」
彼は通信を試みたが、返答はなかった。
救出されたチームが敵と接触したのか。それとも、通信が届かない場所へ移動したのか。
どちらとも判断できなかった。
「先へ進む。ただし、通路の入口から先は慎重に確認する」
整備用通路の入口に着くと、負傷者を支えていた隊員が待っていた。
「扉はあそこだ」
資材置き場の奥に、古い金属扉が見えた。
扉の下には埃が積もっている。最近使われた形跡は薄いが、完全に封鎖されているわけでもなさそうだった。
主人公は扉に近づき、取っ手を確認した。
鍵はかかっていない。
しかし、押しても引いても動かなかった。
「内側に何かが引っかかっているのかもしれない」
同行者が扉の隙間を確認した。
そのとき、扉の向こうから音がした。
一度だけ、金属を叩くような音。
全員が動きを止めた。
「誰かいるのか?」
主人公は扉越しに声をかけた。
返事はなかった。
代わりに、もう一度、同じ音がした。
彼はすぐに通信機を取り出した。
「中央基地、こちらだ。資材置き場の奥にある扉の向こうから音がする。内部の配置を確認できるか?」
『確認する。少し待ってくれ』
返答を待つ間、主人公は扉から距離を取った。
敵が中にいる可能性もある。味方が閉じ込められている可能性もある。音だけでは判断できなかった。
通信が戻った。
『その扉の先は旧整備区画だ。現在の通路図には詳細がない。内部から開けられるかもわからない』
「旧整備区画は、基地内部につながっているのか?」
『つながっているはずだ。ただし、途中の防火扉が閉じている可能性がある』
主人公は扉を見た。
この通路を使えれば、南側の敵を通らずに基地内部へ入れる。だが、途中で防火扉が閉じていれば、負傷者を連れて進むことはできない。
「まず、この扉を開けられるか試す。開かなければ、別の経路へ戻る」
同行者が扉の下を確認し、床に挟まっていた金属片を見つけた。
金属片を取り除くと、扉がわずかに動いた。
二人で押すと、重い音を立てながら隙間が広がった。
中には、古い工具棚と運搬用の台車が残されていた。奥へ続く通路は暗く、先の様子は見えない。
主人公は懐中灯で床を照らした。
新しい足跡があった。
一人分ではない。
複数の人間が、最近この通路を通っている。
「敵が使っている可能性がある。全員で入るのは危険だ」
彼は負傷者を支える隊員に、入口で待つよう指示した。
「俺たちが少し先を確認する。通路の先に敵がいれば、すぐに戻る」
主人公と同行者が中へ進んだ。
数メートル先に、横へ伸びる通路があった。その先から、機械の駆動音が聞こえてくる。
主人公は壁に手をつき、右手をかばいながら慎重に進んだ。
通路の突き当たりには、古い防火扉があった。
その扉は、半分ほど閉じた状態で止まっていた。
隙間の向こうには、基地内部の照明が見える。
「ここから入れそうだ」
同行者が言った。
主人公は扉の周囲を確認した。
扉の脇にある操作盤は破損していたが、完全に壊れてはいない。内部からなら、手動で開けられる可能性がある。
そのとき、背後から足音が聞こえた。
主人公は振り返った。
通路の入口に、敵が一人立っていた。
敵もこちらに気づき、すぐに武器を構えた。
「戻れ!」
主人公は同行者に叫んだ。
狭い通路では、横へ避けることも難しい。敵がこちらへ進めば、入口までの退路を塞がれる。
主人公は扉の脇へ身を寄せ、同行者が後退する時間を作った。
敵が一歩踏み込んだ瞬間、主人公は足元にあった台車を押し出した。
台車が通路を塞ぎ、敵の進行が止まる。
しかし、台車は長く持たなかった。
敵が押し返すと、車輪が床を滑り始めた。
主人公は右手に力を入れず、左手で同行者の肩を押した。
「先に戻れ!」
「お前はどうする?」
「ここに残っても意味がない。早く!」
同行者が通路を戻る。
主人公も台車から手を離し、後退した。
敵は追ってきたが、狭い通路で速度を上げられない。
二人は資材置き場まで戻り、扉を閉めた。
重い金属音が響いた。
主人公は息を整えた。
旧整備区画は、確かに基地内部へつながっていた。
しかし、敵もその経路を知っている。
そして、南側の通用口には別の敵がいる。
「これで、敵がどこから来るかは少しわかった」
同行者が言った。
主人公は首を横に振った。
「まだだ。今わかったのは、敵の一人がこの通路を使っていたことだけだ。ほかの敵も知っているとは限らない」
彼は通信機を取り出した。
その瞬間、中央基地から報告が入った。
『北側の補修が完了した。防衛設備の稼働状態は安定している』
主人公は短く息を吐いた。
これで、制御室から一人を南側へ回せる。
しかし、時間は戻らない。
主人公は扉を見た。
この旧整備区画を使えば、南側の敵を避けて基地内部へ入れる可能性がある。
ただし、敵も同じ道を使ってくる。
「南側の入口を解除する人が到着したら、通用口の状況をもう一度確認する。それまでは、ここを退路として確保しておく」
彼は仲間に告げた。
扉の向こうでは、まだ敵の足音が聞こえていた。




