第332章 守る場所を変える
北側の接続経路へ向かう通路は、中央基地の内部を大きく迂回していた。
主人公たちが到着するまでには時間がかかる。
その間にも、防衛設備の稼働時間は減っていく。
「北側の状況を確認したい。敵はどこまで来ている?」
主人公が通信を入れると、設備担当から返答があった。
『北側の外壁付近で交戦中だ。接続経路の手前にある制御室は、まだこちらが確保している。ただ、敵が外壁を回り込んでいる』
「制御室を守っている人数は?」
『三人。増援は出せない。設備の稼働状態を維持する必要がある』
主人公は地図を開いた。
制御室へ続く道は二つあった。ひとつは短いが、敵が進んでいる外壁沿いの通路。もうひとつは距離があるものの、中央の整備区画を通る経路だった。
「整備区画を通る。外壁沿いは敵に見つかる可能性が高い」
「遠回りしている間に、制御室が落ちるかもしれない」
同行者の指摘は正しかった。
主人公は地図上の距離と残り時間を見比べた。
「そうなったら、制御室を取り戻す方法を考える。今、敵のいる場所へ正面から向かっても、間に合う保証はない」
全員が整備区画へ向かった。
途中、通信機に短い報告が入った。
『敵が制御室の外側に到達した。こちらから射撃しているが、長くは持たない』
主人公は足を速めた。
整備区画を抜けた先に、北側の制御室へ続く扉があった。
その向こうから、断続的な銃声が聞こえる。
「俺たちが入れば、敵の注意を引ける。制御室の三人は、その間に移動できるかもしれない」
同行者が言った。
「いや、敵の注意を引くだけでは足りない。制御室を空けた瞬間に、敵が内部へ入ったら設備が止まる」
「じゃあ、三人を残して俺たちが敵を攻撃するのか?」
「制御室の人間に判断してもらう。こちらから状況を伝える」
主人公は通信をつないだ。
「こちらは整備区画を抜けた。制御室の入口まで移動できる。今の位置を維持できるか、それとも別の場所へ移動した方がいいか?」
返答まで数秒かかった。
『制御室からは動けない。ここを離れたら、設備の接続状態を確認できなくなる。ただし、外側の扉が破られたら、維持は不可能だ』
「わかった。扉の内側から開けられる別の通路はあるか?」
『ある。制御室の奥に整備用の通路がある。ただ、外壁側の扉が閉じているかは確認できていない』
主人公は同行者に地図を見せた。
「俺たちは整備用の通路へ回る。制御室を挟んで敵の反対側に出られれば、敵がどこから侵入しようとしているのか確認できる」
「もし通路が塞がっていたら?」
「引き返す。通路を調べるために、全員を閉じ込めるわけにはいかない」
彼らは制御室の裏側へ向かった。
整備用の通路は狭く、床には交換部品や工具が散らばっていた。進むたびに金属が擦れる音がする。
主人公は足を止め、先頭の隊員に合図した。
通路の先に扉があった。
扉は閉じていたが、隙間から光が漏れている。
隊員が慎重に扉を押すと、外壁側の小さな作業スペースが見えた。
そこには敵が二人いた。
一人は制御室へ続く扉を監視し、もう一人は壁面の接続設備を調べていた。
主人公はすぐに扉を閉めた。
敵はまだこちらに気づいていない。
「接続設備を壊すつもりかもしれない」
同行者が小声で言った。
「かもしれない、という段階だ。何をしているのか、もう少し確認する」
主人公は扉の隙間から、もう一度だけ外を見た。
敵の一人が工具を取り出し、設備のカバーを外している。もう一人は周囲を警戒していた。
ただの監視ではない。
敵は制御室を占拠するだけでなく、設備の接続そのものを止めようとしている可能性があった。
「二人だけなら、今すぐ押し込めるんじゃないか?」
隊員が尋ねた。
「押し込めても、外にいる敵の数がわからない。ここで戦闘を始めたら、敵が制御室へ突入するかもしれない」
主人公は通信機を取り出した。
「制御室、聞こえるか。外壁側の作業スペースに敵が二人いる。一人が接続設備を操作している。そちらから、設備の状態を確認できるか?」
『確認する。少し待ってくれ』
主人公たちは扉の内側で待機した。
数秒後、返答があった。
『接続状態に変化が出ている。まだ停止していないが、このまま操作を続けられると危険だ』
「敵を止める必要があるな」
同行者が言った。
主人公はうなずいた。
「ただし、制御室の防衛を崩さずに止める。二人のうち、接続設備を操作している方を優先する。もう一人が制御室へ向かったら、そちらを追う必要はない。制御室の三人が対応できる」
「敵が増えたら?」
「俺たちは通路へ戻る。設備を守るために、全員が一度に捕まるわけにはいかない」
主人公は同行者と目を合わせた。
右手はまだ痛む。武器を強く握り込むことも、近距離で激しくぶつかることも避けなければならない。
彼は自分が先頭に立って敵を倒す計画を立てなかった。
代わりに、扉の脇に置かれていた工具箱を見た。
「これを使って、扉を開けた瞬間に音を立てる。敵が振り向いたところで、操作している方の手を止めさせる。倒すことより、設備から引き離すことを優先する」
「その隙に、もう一人が制御室へ行く可能性がある」
「だから、制御室にも伝える」
主人公は短く状況を共有した。
準備が整った。
先頭の隊員が工具箱を扉の脇へ移し、主人公は左手で扉の取っ手をつかんだ。
合図と同時に、扉が開いた。
工具箱が床に落ち、大きな金属音が響いた。
敵の二人が振り向く。
その一瞬、同行者が前へ出た。
接続設備を操作していた敵は、反射的に工具から手を離した。もう一人は制御室へ続く扉へ走ろうとしたが、内側から扉が開き、制御室の隊員が姿を現した。
敵は進路を変えた。
狭い作業スペースで、短い交戦が始まった。
主人公は正面から敵にぶつからず、接続設備の前へ回り込んだ。右手をかばいながら、敵が再び工具を取ろうとするのを遮る。
敵の肩が主人公にぶつかった。
痛みが走り、彼の体が壁へ押しつけられる。
一瞬、視界が揺れた。
だが、その間に同行者が敵を引き離した。
もう一人の敵は制御室の隊員に押し戻され、外壁側の扉へ退いた。
敵は撤退した。
主人公たちは追わなかった。
接続設備の状態を確認すると、操作は途中で止まっていたものの、すでに一部の固定部品が緩んでいた。
「このままでは、長時間は持たない」
設備担当が確認して告げた。
「修理にどのくらいかかる?」
「今すぐ始めれば、稼働を維持したまま補修できる。ただし、作業中は制御室の人員がここから離れられない」
主人公は通信機で基地全体の状況を確認した。
正面入口では、まだ敵が活動している。
北側の接続経路は補修が必要だ。
そして、救出された西側のチームも、負傷者を抱えたまま待機している。
すべてを同時に解決することはできない。
「ここは設備担当に任せる。俺たちは中央へ戻って、入口側の状況を確認する」
「また別の場所へ行くのか?」
同行者が尋ねた。
「ここに残っても、俺たちには接続設備を直せない。必要な人間が必要な場所に残る。俺たちは、今できることをする」
主人公は歩き出した。
そのとき、基地全体に新しい通信が流れた。
『敵部隊が中央基地の南側へ移動中。正面入口の交戦は縮小。繰り返す、敵部隊が南側へ移動中』
主人公は足を止めた。
南側には、さっき通用口を開けた経路がある。
そして、そこには救出されたチームが通ったばかりだった。
敵は、正面入口を突破できないと判断して移動したのか。
それとも、最初から南側へ回り込むつもりだったのか。
主人公は地図を開いた。
今度は、敵がどこを攻めるかだけを考えるわけにはいかなかった。
自分たちが守ろうとしている場所を、敵がどう利用するか。
その答えを間違えれば、中央基地の設備が稼働していても、任務全体が崩れる。
「南側へ向かう。救出されたチームと合流して、通用口を守る」
彼は仲間に告げた。
「今度は、敵が来るのを待つだけじゃない。こちらから退路を確保する」
彼らは再び走り始めた。




