第330章 救出線
中央基地の西側へ向かう途中、主人公たちは一度だけ立ち止まった。
交戦中のチームから送られてきた位置情報は、建物の内部を示していた。敵は正面入口と北側の通路を押さえている。南側には細い搬入口があるが、そこが使えるかどうかはわからない。
「南側から入るのか?」
同行する隊員が尋ねた。
「いや。まず、外から搬入口を確認する。中にいる味方が移動できるなら、外から入る必要はない」
主人公は通信をつないだ。
「こちらから確認したい。建物の南側に、搬入口があるはずだ。そちらへ移動できるか?」
『南側の通路までは行ける。ただ、途中に敵が一人いる。正面から出れば見つかる』
「敵は搬入口を監視しているか?」
『わからない。こちらからは見えない』
主人公は地図を見直した。
敵が搬入口を警戒していないなら、そこから離脱できる可能性がある。だが、敵が待ち伏せしていた場合、救出に向かった側まで挟まれることになる。
「俺たちは外から回る。そちらは、すぐに動かず待機してくれ。搬入口の状況がわかったら連絡する」
彼は通信を切った。
「二人はここで待って、敵の増援が来る方向を見ていてくれ。俺たちは南側へ回る」
「また少人数で動くのか?」
「全員で移動したら、敵に見つかったときに全員が足止めされる。ここに残る人間が必要だ」
隊員はうなずいた。
主人公ともう一人は建物の外壁沿いに進んだ。
南側の搬入口は、予想していたより狭かった。扉の一部が壊れており、人間なら通り抜けられるが、内部から開けるには障害物をどかす必要がありそうだった。
主人公は周囲を確認した。
敵の姿は見えない。
しかし、地面には新しい足跡が残っていた。少なくとも、誰かがここを通ったのは確かだった。
「敵が来ている可能性がある。扉の前には立たないでくれ」
彼は通信機を取り出した。
「南側の搬入口を確認した。通り抜けられる可能性はあるが、内部から障害物をどかす必要がある。そちらで対応できるか?」
『できる。ただし、動かすと音が出る』
「音が出たら、すぐに離脱を始める。全員が一度に出ようとせず、先に動ける者が外へ出て、周囲を確認してくれ」
返答があった。
主人公は搬入口から少し離れ、近くの遮蔽物に身を隠した。
数秒後、扉の向こうから金属が擦れる音がした。
続いて、短い衝撃音。
搬入口が少しずつ開いた。
最初に出てきたのは、負傷していない隊員だった。彼はすぐに左右を確認し、主人公へ合図を送った。
その後、二人が続いた。
最後に、負傷者を支えた隊員が現れた。
「全員か?」
主人公が尋ねた。
「いや、まだ一人いる。建物の中で敵の動きを見ている」
主人公は表情を変えた。
「どうして残った?」
「出口を使えるか確認するためだ。全員が出るまで、敵が気づかないとは限らない」
それは合理的な判断だった。
しかし、最後の一人が建物の中に残れば、敵が搬入口へ向かったときに逃げ遅れる可能性がある。
「連絡は取れるか?」
「取れる。ただ、さっきから返事がない」
主人公は通信を試みた。
応答はなかった。
その直後、建物の北側から銃声が響いた。
敵が動いたのだ。
「全員、ここから離れてくれ。負傷者を連れて、さっきの合流地点まで戻る」
「残っている一人は?」
「俺たちが入口を確認する。無理に建物へ入るつもりはない」
主人公は同行者とともに、搬入口から見える位置まで移動した。
扉の向こうには、倒れた棚と散乱した部品が見えた。奥の通路は暗く、敵の位置は確認できない。
「こちらだ。聞こえるか?」
主人公は声を抑えて呼びかけた。
返事はなかった。
もう一度呼びかけようとしたとき、内部から物音がした。
一人の隊員が、壁沿いに姿を現した。
彼は武器を構えたまま、後方を警戒している。
主人公はすぐに手で合図を送った。
隊員は搬入口から外へ出た。
「敵が北側から入ってきた。もう少し遅かったら、逃げられなかった」
「怪我は?」
「ない。ただ、敵がこっちに気づいている。追ってくるはずだ」
主人公はすぐに移動を指示した。
全員が合流地点へ戻り始めた直後、背後から敵の射撃が始まった。
敵は搬入口を確認し、こちらが逃げたことに気づいたらしい。
主人公たちは建物の間を通り、敵との距離を保った。
途中で一人が足を止めた。
「こっちへ来たら、敵が追いつく。俺が少し引きつける」
「一人で残るつもりか?」
主人公が尋ねた。
「時間を稼ぐだけだ。長くはやらない」
主人公は相手の顔を見た。
前回の訓練で、独断で動こうとした隊員とは違う。今回は、自分が何をするつもりなのかを伝えている。
だが、伝えたからといって、その判断が正しいとは限らない。
「敵を引きつけるなら、ここから二つ目の角までだ。それ以上は追うな。敵が増えたら、すぐに戻ってくれ」
「わかった」
隊員は遮蔽物の陰へ移動した。
主人公たちは先へ進み、合流地点に到着した。
数十秒後、隊員も無事に戻ってきた。
救出されたチームは、負傷者を含めて全員が離脱できた。
しかし、中央基地の西側を攻めていた敵は、すでに北側の経路へ移動し始めていた。
主人公は地図を確認した。
「敵が移動している。こちらが救出に動いたことで、中央基地へ向かう道がさらに狭くなった」
「それでも、救出は成功した」
同行する隊員が言った。
「そうだな」
主人公はうなずいた。
「ただ、成功したからといって、今回の判断に問題がなかったとは限らない」
彼は通信機を取り出し、中央基地の状況を確認した。
別チームはまだ防衛設備を稼働させられていない。部品を運んでいるチームも、敵の接近によって進行を止められていた。
残り時間は少ない。
ここで中央基地へ向かえば、設備を稼働させるための部品を届けられるかもしれない。だが、敵が北側の経路へ移動している以上、同じ場所で再び足止めされる可能性がある。
「中央基地へ向かう。ただし、全員で同じ経路は使わない」
主人公は地図に二つの線を引いた。
「一組は東側の経路を進んで、敵の位置を確認する。俺たちは南側から中央基地の入口へ向かう。どちらも敵が多ければ、そこで合流して別の手段を考える」
「時間が間に合わなかったら?」
「そのときは、設備を稼働させることを諦める可能性もある」
彼は地図を閉じた。
「でも、何も確認せずに突っ込むつもりはない」
二組は別々の経路へ向かった。
主人公は走りながら、先ほどの救出を思い返していた。
一人を救うために、別の場所で何かを失う。
それは、今回だけの問題ではない。
戦場では、すべての人間が同じ場所にいて、同じ情報を持っているわけではない。誰かを助けるために動けば、別の誰かの負担が増えることもある。
だからといって、助けないことが正しいわけでもない。
必要なのは、誰を助けたかだけではなく、そのために何を失い、残った人間がどう動けるようにしたかを考えることだった。
前方に、中央基地の外壁が見えてきた。
しかし、入口の前には敵の姿があった。
主人公は足を止めた。
まだ、任務は終わっていない。




